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86 佐藤朱理の失恋

まだ、2016年!!ギリギリセーフ!!来年もよろしくです。

 目が覚める。

 あの時の出来事があってから二度目の目覚めだ。

 一度目はただ泣いた。

 泣いて泣いて泣き疲れて寝てしまった。

 そのおかげか今はかなり冷静だと思う。

 あの時の事が脳に過る。

 ……。

 ないわー。

 いくら何でもアレはないでしょ。

 私は何をしようとしていたのか。

 鈴くんが止めてくれなかったら危なかったかもしれない。


 ーーコンコン


「俺だ入るぞ」


 え、この声は鈴くん!?

 あ、今起きたばかり、寝癖とか大丈夫!?


 そんないらぬ心配をしているとガチャリと鈴くんが入ってきた。


 ……ウゥ〜、鈴くんだ。

 二度と会えないと思っていた鈴くんだ。

 髪が長かったり角が生えていたりするけど間違いなく鈴くんだ。

 カッコいいなぁ。


「よう、改めて久しぶりだな朱理」

「うん鈴くん。久しぶり」

「あー、俺は今はスズ・ロゼリアって名前だからスズで呼んでくれ」

「名前は一緒なんでね。姓は違うけど」

「そうなんだ」


 一度死んでこちらで生まれ変わったスズくん。

 何の因果かスズって名前は同じみたい。


「まあ、スズって名前は気に入ってるしアレにつけられた名前って感じがしないのがいい」

「親御様と仲悪いの?」

「俺の親は死んだよ」


 スズくんは見た事の無いくらい悲しそうな顔で言う。


「ご、ごめんなさい」

「いや、いい。親とは仲は良かったけれどそれは育ての親だからな。生みの親はクズだったし多分死んでいる」


 そうなんだ。


「ただ、妹がいてな、会う事もあるかもしれん。その時はあまり親の話はしないでくれ」


 妹さんもいるんだ。

 どんな子かな?

 あってみたいな。


「でだ、朱理」

「はい」

「不躾だが……お前、俺の事好きだよな?」


 本当に不躾な質問。

 言葉だけ見ればとても傲慢な感じがする。

 スズくんは確信を持っていてただ確認しているだけに聞こえる。


「……うん」


 でも、それは正解なのだ。

 私はスズくんが好きで好きで仕方がない。


「私ね、スズくんが好きなの。あの時。スズくんが私を助けてくれた時から」

「……」

「でね、私、スズくんに告白しようとしてたの。振られるのが怖くて、一緒にいれなくなるのが怖くてうじうじ悩んでいたの。でも、スズくんが死んじゃった。私も何度も死のうと思ったの。でも、死ねなかった。そんな時にこの世界に召喚されたの。私ね頑張ったんだよ。剣を持って、訓練して、魔物と戦って。スズくんなら簡単に世界を救えた。でも、スズくんはいない。だったら私が少しでも代わりになればって思って。そう思って頑張ってたけど実は戦って死にたかっただけだと思う。自分で死ぬ勇気がないから誰かに殺されたかったんだと思う」

「……」

「でね、そんな時にスズくんが現れた。奇跡だと思ったの。二度と会えないって思っていたのに」

「だけど俺は…」

「うん。婚約者がいるんだよね」


 じわりと涙が出てくる。


「私ね、本当にスズくんが好きなの。だからかな、わかるの。スズくんがあの人の事を愛しているって。私じゃだめだって。私がこれからどんなに頑張ってもスズくんは私を見てくれないって」


 どんどん涙が溢れ出す。


「悔しいのにね。悲しいのにね。でもね、私嬉しいの。スズくんが生きている事が。スズくんに会えた事が」


 涙が止まらない。

 悔しくて悲しくて。

 そして、嬉しくて。

 どう表現すればいいのか分からない感情。

 様々な感情が混ざりあって溶け合って涙になっている。

 その涙に流されるように心にあった虚が消えていくのを感じる。


「お前の言う通り俺はシアンを愛している。今後朱理の事を女として見ることはない。たとえ、お前であってもシアンを傷つけるというのなら殺す所存だ」


 その言葉に思い返すは私が気絶した時の事。


「あの時は本当にどうかしてたと思う。本当にごめんなさい」


 謝って許されることではないと思う。

 だってこの人の婚約者を殺そうとしたのだから。


「だけど、俺はお前を殺したくない。友人としては好きだからな。だから……」


 ーーコンコン、ガチャリ


「ああ、スズここにいましたか」


 突然入って来たのはピンクの髪の鬼の女の人。

 確か名前はシアンさん。

 ……スズくんの婚約者。


「ごめんなさい!!」


 頭を下げる。


「えっと……アカリさん? どうして急に頭を下げて」

「だって私、貴女の事を……」


 殺そうとしたから。

 あの時、確かに殺意が湧いた。

 どうかしていたと思うけど確かに殺そうとした。

 それは許される事じゃない。


「頭を上げてください。私は何もされていません」

「でも……」

「私だってスズを取られそうになったら殺そうと思いますから!!」


 ふふん、と彼女は自信満々に言う。

 えーと?


「スズほど素晴らしい男性はいませんものね。スズに惚れるのも仕方ありません。ですがスズは私のものです。貴女がスズにとってどのような方なのかは出会ったばかりなので存じておりませんが、スズを渡しませんよ!!」


 ……なんだろう。

 なんか毒気が抜かれた気がする。


「はぁ。で、何か用なのか?」

「ああ、そうでした。シエルちゃんの儀式が終了したそうです。近いうちに帰ってくるみたいですよ」

「そうか、わかった」

「それでは」


 そう言ってシアンさんは部屋から出て行った。


「……」

「……。あいつ、あんな奴だったか? 牽制でもしているつもりなのか?」


 スズくんは何ともいえない顔をしている。


「はぁ。なんかすまないな」

「ううん」

「まあ、そんなわけでアレが俺の婚約者のシアンだ。……変な感じだったけど普段はもっとまともだから」

「そうなんだ」

「……」

「……」

「ふふっ」

「ははは」


 何だか自然と笑えてきた。

 スズくんも笑っている。


「スズくん、あのね」

「おう」

「私、スズくんの事が好き。付き合って下さい」

「すまない。無理だ。」


 わかっていた答え。

 わかりきっていた回答。

 それでも私は告白した。

 悔いがないように。

 後悔しないように。


「あーあ、振られちゃった。残念」

「朱理……」

「ごめんね。わかりきっていた事言わせちゃって」

「いや、いい」

「あー、この悔しい衝動は沙耶と篠原くんをくっつけて解消しようと。それでおちょくってニヤニヤするんだ」

「あいつらってどの程度なんだ? 昨日会った時にサヤに付き合ってない的な事言われたんだけど」

「あ、サヤって呼ぶんだ。」

「こっちじゃファーストネームで呼ぶ事が多いからな。親しいならそっちで呼ぶ」

「沙耶の方は篠原くんの事が好きだと思うよ。篠原くんはわからないけど。あの二人、私に遠慮してか全然くっつく気配ないんだもん。つまらない」

「ていうか、あいつら付き合ったら見かけ上ヤバイ事になるよな。方や怖いクマみたいな悪人顔の大男だし、方やちみっ子だし」

「あははは、確かに。日本じゃ一緒に歩いたら篠原くん捕まりそうだもんね」


 しばらく二人して笑う。


「朱理」

「なに?」

「ゼンジローとサヤにも言った事だけど、ここはイルレオーネ国じゃない。魔王討伐に駆り出される事はない。この屋敷にいる限りお前らの安全は俺が保証する。だから安心して過ごすといい」

「そっか。ありがとう」

「朱理……またな」


 スズくんはそう言い残して部屋から出て行った。



 あーあ、フラれちゃった。

 悔しいな、悔しいな。


 涙が止まらない。

 でも、今までの負の感情はもう無い。

 健全な悔し涙だ。

 スズくんにフラれちゃった。

 未練なんてタラタラだ。

 でも、何だろう。

 不思議とこれからは前を向いて生きていく事ができる気がする。

 そうだ、これからは前を向いて生きていこう。

 楽しい事をたくさんしよう。

 そうしてたくさん幸せになろう。

 きっと出来る。

 私はもう過去には縛られないのだから。






納得しない方もいるかもしれませんが、朱理はこれで救われています。まだ、ちゃんと出番もあるんで大丈夫です。

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