表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/138

82 神罰の杭

「とりあえず、移動するか」


 パチンと指を鳴らして大規模転移魔術を行使する。

 もちろん対象は俺たちと元クラスメイト達だ。

 イルレオーネ王とかは放置。

 転移先はこの場から遥か上空だ。

 足元には結界を構築して足場を作る。

 その上にゼンジロー達を乗せる。


「え!? 空に浮いて……」


 突然の転移先は地上から遥か上空であり、透明の足場に立っているのだ。

 何名かはかなり怖がっている。


「さて、最後の仕上げだ。見たくない奴は目でもつむっていろ」


 そう言って俺は『暴食神(ベルゼブル)』よりアルマから預かっていた物を取り出す。

 それは山のように巨大な杭のような物。

 アルマ特性の封印具だ。

 これが俺がここに来た目的に一番必要な物だ。

 神王達が世界の壁を修復したとはいえ、一度は盛大に壊されたのだ。

 この地より繋がる世界の壁は他よりも脆くなっている可能性がある。

 そこを天使達に弄られたりしたらかなわない。

 だから、このアルマ特性の杭でこの地を封印する事にしたのだ。

 この地と言うよりも異世界召喚の陣がある所だけど。

 そして、この杭は山の様に大きな杭であるため、常に目に見える形での神王の裁きとなるのだ。

 もし、異世界召喚を行おうものならこの杭を刺されるという抑止力になる。

 封印と裁きを同時にこなしてくれるすごい杭なのだ。


「おっも」


 みんなから少し離れた位置に立って杭を持つが、巨大なだけあって流石に重い。

 一体何トンあるのか。

 巨大な山一つ丸々持ち上げている様な物だしな。

 王都はもちろん、周辺の町や村からは丸見えで、突如上空に出現した巨大な杭にさぞかし見た者は驚いているだろう。

 直で持っている俺には壁にしか見えないが。


「シアン、頼む」

「わかりました」


 シアンにお願いして、俺の声をこの国やその周辺に伝わる様にしてもらう。


『聞けっ! 我は神王の一柱である!! この度イルレオーネ国は禁忌である異世界召喚を行った!! それは、異世界人を召喚すると引き換えに世界を傷付けるものである!! 我ら神王はそれを見逃す事はできん!! よってこの国に裁きを与える!! 今後、異世界召喚を行おうものなら、この様な事になると思い知れ!!』


 あらかじめ考えていた台詞を言い、ついでに魔術で比較的広範囲にこの場の映像を見せる。

 そこに映るのはイルレオーネ国の王都と巨大な杭。


 俺はこの杭を王城に向かってぶん投げた。




 ー▽ー


 この日、イルレオーネ国の王都は滅びを迎える。


 崩れる王城の一角。

 突如出現した巨大な杭。

 そして、響き渡る神王の言葉。


 貴族、平民関係なく人は逃げ惑う。

 これから栄華を築くのでは無かったのか?

 偉大な国王は異世界召喚に成功し、それを戦力に魔王を滅ぼすのではなかったのか?

 だから、亜人の奴隷を王に差し出したのに。

 異世界召喚に亜人の奴隷が必要だと言うから差し出したのに!!

 魔王を倒し、配下の魔人を我らの奴隷としてくれると言うから差し出したのに!!


 彼らは逃げ惑う。

 上空に浮かぶ巨大な杭から逃げ惑う。

 少しでも、少しでも遠くに。

 神王の裁きから逃れようと。


 しかし、奴隷という他者を使役する文化がそれを邪魔をする。

 この国の者はある程度裕福な平民まで亜人の奴隷を持っていた。

 人を人とも思わない様に扱う彼らに『助け合う』という文字はなかった。

 今まで全て不都合な事は奴隷に任せていたのだから。

 誰かの窮地を助けた事などなかったのだから。


 彼らは逃げ惑う。

 我先にと逃げ惑う。

 馬に乗っている者を殺し、その馬に乗って遠くへ逃げようとする。

 転けた者を踏み抜き駆け、転けた者は誰かの足を引っ張り転倒させる。

 病気の妻を一目もくれずに置き去りにして走る。

 その胸に抱いていた子供を走るには重いからと言った理由でその場に捨て去る。

 生きるのを諦めた者は、最後の娯楽として逃げる女をさらい、その身を汚す。

 この騒ぎに乗じて家に入り金品を盗む者。

 人を攫う者。

 享楽として人を殺す者。



 王都はありとあらゆる所で混沌と化していた。

 しかし、それも終わりを告げる。

 巨大な杭が王城に、王都に突き刺さったのだ。




 ー▽ー


 はぁ、人ってこんなものなのかね。

 それともここ特有のものか。


 我先に逃げ惑う者たち。

 誰もかれもが自分だけ助かろうと走るのに邪魔な存在を押しのけている。

 もちろん誰かを助けようとする者もいるようだけれど極々少数であり、そんな者ほど転かされて、踏みつけされている。


 こんなものなのかね。

 ちょっと人間不信になりそう。

 まあ、原因を作ってるのは俺なんだけど。


 杭を投げつけてからもそれは顕著になっている。

 杭が刺さった事により、巨大な地割れが起こる。

 それに飲み込まれの者たち。

 辛うじて崖に捕まった者たちを助けようとする者はいず、足を引っ張られて一緒に落ちている者がほとんどだ。

 足の引っ張り合いが余計に被害を増大させている。



 やっぱりこんなものかね。

 それにしても誰かを助けようとする者がほとんどいないのはここの連中の性根が腐っているからか。


 一応、杭が刺さった時に死んだ者の魂は"暴食結界"の応用で回収している。

 見ている限り性根がましそうな奴と幼い魂は時期を見て転生でもさせておくか。

 記憶は消しておくけど。


 神っぽいなぁ。

 必要とはいえ、一応やってる事は大量殺戮だけど、心が痛まないし。

 こいつらのしでかした事に怒りを覚えているからか、それとも存在の格が上がった事で人を殺すのが蟻を潰す感覚と同じくらいになっているのか……。


「スズ」


 混沌の王都を見下ろしていると、シアンが後ろから抱きついてくる。


「大丈夫です。あなたはあなたの為すべきことをしたまでです。あなたはあなたです。例え神王になろうと、国一つ滅ぼそうとあなたはスズです。そして私はそんなスズを愛しています」


 そんな俺の心情を察してかシアンが俺にありがたい言葉をかけてくれる。


 そうだな。

 俺は俺だ。

 これからも必要とあらば人だろうが何だろうが殺す。

 今回だって世界が崩壊しかけたんだ。

 もし、世界が崩壊していたら俺はもちろん、シアンやシエルも死んでいた。

 それは許される事じゃない。

 俺は、俺の大切な者たち害そうと言うのなら絶対に許さない。

 シアン達を守るためならこの手で国一つ崩壊させよう。


「スズ殿は優しいの。この程度で済ませるとは」


 そう心の中で改めて決意していると、メーシュが言葉をかけてきた。


「結構混沌としているぞ?」

「それはそうじゃが、他の神王様方ならもっとやばいのじゃ」


 他の神王なら……例えばレヴィアなら国丸ごと海に沈めていたはずだ。

 それに比べたら王都一つで済ましている俺は優しいのかもしれない。

 まあでも、


「王都一つで済ましているのには理由あるよ」

「ほほう。どのような?」

「貴族も随分死んだだろうけどまだまだいるだろう。それに、領地に残っている貴族もいる。彼らが王家や王都に住まう貴族が滅んだと知ったらどのような行動にでる?」

「なるほどの。自らが王になり、他の領地を奪おうとするか」


 その通り。

 異世界版戦国時代の幕開けだ。


「戦乱の世の中には英雄が出現しやすい」

「そして、その中から聖人なんかに進化する者を期待するというわけか」


 コクリと頷く。

 王都一つで済ましているのは、この国を戦火に渦に巻き込み、英雄の出現、ひいては聖人への進化を期待しての事だ。

 この世界の戦力が増えるのは俺たち神王にとって歓迎すべきことだからな。


「まあ、それでもスズ殿は優しいの」


 そうかな。

 だいぶえげつないと思うけど。


「そろそろ帰るか。ユウ、メーシュ、地球に行けるようになったらまた会おう」

「え、なにそれ?」


 地球へ行けるという言葉にユウが反応するが、メーシュに説明して貰おう。

 俺はゼンジロー達の元に行く。


「寝ている奴もいるし、とりあえず俺の屋敷に来てもらうぞ。話は後でな」


 再び大規模転移魔術を行使して、ゼンジロー達も含め俺の屋敷に転移した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ