79 自称勇者
「俺がここに来たのは異世界召喚があったからだ」
「どういう事なの?」
「異世界召喚が行われたらこの世界にダメージが与えられるんだ」
「ダメージ?」
「ああ、まあ一人や二人なら大したこと無いんだが、それが各地で連続して起こったり、今回のように30人も一気に召喚されたら世界が崩壊するようなダメージを負う。というか実際に崩壊しかけた」
俺がそう言うがみんな釈然としない顔をしている。
規模が大きすぎて意味がわからないのだろう。
「そこで、二度と異世界召喚が行われないように見せしめの為にここに来た」
「まさか!?」
音無が目を見開いている。
おそらく何をするのか思い至っているのだろう。
「ああ、見せしめとして滅ぼす」
俺達神王は異世界召喚を阻止しなければならない。
どうすればいいのか?
答えは簡単。
異世界召喚なんてしないように各国に恐怖を与えればいい。
異世界召喚をすると国が神王によってもたらされる恐怖を。
まあ、滅ぼすって言っても皆殺しとかじゃないけどな。
「茨木!! 君は何を考えている!? この国を滅ぼすなんて!?」
「いや、お前話を聞いていたか? この国が行った異世界召喚で世界が崩壊しかけたんだぞ? だったらそれくらいの罰が必要じゃないか」
「しかし! いくらなんでもやり過ぎだ!! 君は罪無き人まで殺すつもりなのか!?」
罪無き人ね。
「俺はこの国の人間は生きている価値は無いと思うがな」
「どういう事だ!?」
「お前、異世界召喚を行うのになんの代償も無しに行われると思っているのか? 世界が崩壊する程のダメージを与える物なのだぞ?」
「鈴、どういうことだ?」
「普通は強力な魔力を秘めた魔道具を使うのだろうが、30人も召喚できるほどの魔力を秘めた道具など存在しないだろう。おそらく生贄。イルレオーネ王、お前、異世界召喚にどれだけの生贄を使った?」
俺はイルレオーネ王を睨みつける。
しかし、答えない。
先生に殴られて瀕死の状態だ。
喋る事もできないのかな。
「仕方ない。えーと、お前、この国の王女か?」
「わ、私ですか!?」
「そうだ。お前は知っているか?」
「わ、私は……」
「答えろ」
「ひっ!! あ、亜人の奴隷30万人ですぅ!!」
うわっ、えげつないな。
30万人生贄に三十人召喚とか。
みんな呆然としている。
何しろ30万人が自分らを召喚した事によって生贄になったのだから。
まあその前に世界が崩壊しかけたのだけどな。
「という事をらしいよ? お前らを使って他国を支配して甘い汁を吸おうとしている国だ。しかもそれに30万人も生贄にしている。そんな国存在する価値があると思うか?」
みんな、固まって何の反応も示さない。
「そこでお前達に与えられた選択は3つだ。一つはここでこの者達といっしょに死ぬこと。一つはここから離れてどこかで過ごすこと。異世界人なんだから頑張れば生きていけるさ」
頑張ればだけどね。
異世界人は突如強力な力を得たせいか油断体質になりやすい。
確かに異世界人は強いけど最強というわけではない。
普通に油断して大したことのない者達にあっさり負けて死ぬ事だってある。
と、ここで王女はシアンの言霊の影響が解けた事に気がついたみたいだ。
あんまり力を込めて無かったみたいだからな。
結構すぐに解けたな。
「あ、貴方達、あの妙な術が解けました。今のうちです! この者達を殺しなさい!」
王女が命令して騎士が動き出す。
「スズ?」
「俺がやろう。あいつらに現実っていう物を見せてやる」
俺は立ち上がり、その場で横に手刀を振るう。
結果、手刀によって生じた真空波によってこの場にいる異世界人とイルレオーネ王と王女以外の全員の首が吹き飛んだ。
さらには、謁見の間の壁、というより城そのものも切り裂いて、この謁見の間よりも上部分の城がずれ落ちて雲一つない青空が現れた。
その場の手刀のみで自分たち以外を皆殺しにし、さらには城がずれ落ちた事によってみんなはさらに混乱している。
混乱のあまりか悲鳴すら湧き起こらない。
「と、邪魔が入ったな。最後の一つだけど俺が住んでいる国に学園があるのだが、お前達はそこに通う気は無いか? 衣食住は確保されるぞ」
俺は事前にハルさんに彼らを学園に入学させてくれないかと相談していた。
異世界人の人材を確保するチャンスがあるため、ハルさんはオッケーしてくれた。
ゼンジローと朱理と音無以外はあんまり興味ないけど一応前世でのクラスメイトだしね。
放置するのは忍びない。
「どうして彼らを殺した!?」
いきなり宮本が前に出てきて喚き始めた。
こいつ馬鹿か?
あいつら俺を殺そうと剣を抜いたじゃないか。
だから殺しただけだ。
それをこいつは……って前にも似たような事言われたな。
何を言っても無駄になりそう。
「彼らを殺すなんてっ!? それにやはり国を滅ぼすなんてダメだ!! 勇者として俺が見逃せない!!」
はあ?
こいつ頭沸いてんのか?
勇者だと?
「さっきから思っていたが勇者なんてどこにいる?」
「は?」
「だから勇者なんてここにはいないだろう?」
最近俺も勇者という存在がどんな物かだいたいわかってきた。
そして、ここには勇者も勇者の種を持つ存在もいない。
つまり勇者などどこにもいない。
「俺が勇者だ!」
自信満々に言う宮本。
勇者は総じて精霊から愛される存在。
しかし、宮本から精霊の気配が一切しない。
当然だ。
勇者を詐称すれば精霊から嫌われる。
だから勇者を詐称するこいつから精霊の気配がしないのだ。
よってこいつが勇者なのはありえない。
「お前が? お前はこの世界でいう勇者じゃないよ。お前は自称勇者」
「嘘だ!? この通り聖剣だって持っているぞ!」
宮本は持っていた剣を抜き放ち掲げる。
掲げられた剣は光を放っていた。
聖剣ねえ。
聖剣と言うには随分とお粗末な剣だな。
確かに光属性の剣だが、所詮、希少級止まり、伝説級にすらとどいていない。
ていうか、持っているだけで光を放つ魔力が無駄だ。
まあ、国宝としては十分かもしれないが。
「それ、聖剣じゃないぞ」
「なっ!? 勇者にしか使えないはずだぞ!?」
「いや、魔力と波長が合えば誰でも使えるよ。ほら」
俺は宮本からスッと剣を奪い取った。
すると先ほどよりも強い輝きを放ち始める。
「え、あ、う、嘘だ…」
「いや、ちゃんと見ろよ。それに俺じゃなくても使えるし。えーと、ゼンジロー、持ってみろ」
「あ、ああ」
今度はゼンジローに剣を渡す。
すると、剣は俺ほどじゃ無いが宮本よりは強い光を放ち始めた。
「ほらな、この剣は一定以上の魔力を保有して波長が合えば使える剣だ。つまり聖剣でもなんでもなければ勇者の証ですらない。まあ、魔力の要求値は高いから異世界なら使えるだろうな」
ゼンジローから剣を受け取ってから宮本の足元に放り投げる。
「まあ、そんなんでも一般的な剣よりはプライオリティが高いから持っていた方がいいよ、自www称www勇www者www君www」
やっべ笑えてきた。
あれだけ自信満々に「俺が勇者だ!」なんて言うから。
いい歳して俺が勇者だ。
自信満々に。
ふっくっ、ふふふふあはは。
「マ、"マインドドミネイト"!!」
本気で笑いそうになっていたその時、先生に殴られて苦しそうにしていたイルネオーレ王がある魔術のトリガーを言い放つ。
それによってこの場にいた異世界人の瞳から光が失われ、武器を抜いて俺に襲いかかった。
勇者の特徴についてちょっと触れておきました。
またシエルが出てきた時に改めて触れると思います。