77 世界を隔てた再会
今日、俺達は謁見の間に呼ばれた。
なにやら重大な発表があるそうだ。
先生も含めたクラスメイト全員呼ばれている。
謁見の間に入り頭を下げる。
こうしないと不敬だのと言われて怒られるのだ。
「面を上げよ」
王様に言われた通りに顔を上げる。
この謁見の間には玉座で踏ん反りかえっている王様と、第一王女と多数の貴族と騎士がいる。
「諸君らを召喚して2ヶ月、諸君らはこちらの言葉を覚え、力をつけた。余は諸君らが魔王を倒し得る十分な力を付けたと思う。そこで諸君らには魔王討伐の旅に出て欲しい」
何言っているんだこいつは?
確かに2ヶ月で大きな力を付けたがそれでもまだ2ヶ月だ。
発展途上にもほどがある。
言葉だって魔術の補佐があったとはいえまだ何とか話せる程度だ。
そんな状態で旅をしろと?
「お待ちください! この子達にはまだそのような大役を任せられる力はごさいません!!」
ここで先生が反対の声をあげる。
先生は常々俺達が戦う事に反対している。
なのに、魔王討伐の旅なんていう危険極まりなさ旅に出したく無いのだろう。
「黙れ! 王の決定である! 勇者達の教師だかなんだか知らないが口を挟むな!」
「そうです! 私はこの子達の教師です! そんな危険な旅に出させるわけにはいきません!!」
王様の近くにいる貴族と先生が睨み合う。
「先生、大丈夫だよ。魔王だろうと何だろうと俺なら、勇者である俺なら勝てるよ」
そんな中宮本が先生を諭すかのように発言する。
こいつの自信はいったいどこから出てくるのだろうか。
「しかしだな宮本くん」
「大丈夫だよ。勇者の俺とみんなが力を合わせれば必ず魔王を倒す事ができる! 王様、魔王討伐の旅、謹んでお受けします」
何勝手に決めているんだよ。
仕方ない、やっぱり逃げる必要があるか。
俺は隣にいる沙耶にアイコンタクトを送る。
沙耶も俺を見て頷いた。
「うむ、よくぞ言ってくれた。さすがは勇者!」
王様がそう言った瞬間、後方の扉が勢いよく開いた。
「はいどーん!」
扉から現れたのは黒目黒髪の白い角を生やした信じられないほどの美貌の男だった。
男はこれまた白い角を生やした美しい女性を伴って謁見の間を歩く。
男は地面に着きそうなほど長い黒い髪を揺らしながら優雅に、気品を感じさせながら歩く。
しかし、その気品さとは裏腹に荒々しく、そして神々しい覇気を放っていた。
それは王の覇気だと感じた。
玉座に座っている王様とは比べものにならない王の覇気だと。
もしくはそれよりも上の。
その覇気を受けて誰も動けない。
王様を守るはずの騎士さえ微動だにしていない。
皆、男の覇気を受け、男の神々しさに見惚れている。
しかし、俺は、俺達は男の事を知っていた。
角が生え、髪は伸び、服装も違い、放たれる雰囲気も違う。
だけど知っている。
知らないはずがない。
男は死んだはずの鈴であった。
ー▽ー
「はいどーん!」
俺は謁見の間の扉を勢いよく開ける。
この扉を守る衛兵はすでにそこで転がっている。
世界の壁を確認するまでは兵達に来られたら邪魔だったのでスニーキングしていたがもうその必要はない。
ここからは派手にする。
俺は謁見の間に入る。
そこには多数の貴族と騎士と異世界人がいた。
異世界人達は一人、いや、二人を除いて高校生くらいに見える。
あいつどう見ても高校生に見えないしな。
まあ、こいつらの対処は後でいいか。
「な、な、何だ貴様は!?」
玉座の前まで辿り着くと先程まで硬直していたイルレオーネ王が何か言ってきたが無視する。
俺はイルレオーネ王の首を掴んで背後に投げた。
骨の折れる音が聞こえたが死んではいないだろう。
先程までイルレオーネ王が座っていた玉座を見る。
うーん、あいつデブで脂ぎってたなあ。
玉座に脂が移ってそうでこのまま座るのちょっと嫌だな。
(スズ様お任せを)
そう思っていると爺やから念話が来た。
爺やはこの場に姿を見せていないが俺の近くにいる。
玉座を回収して、空納から新たな玉座を取り出しておいてくれた。
さすが爺や、執事の鑑だ。
なんで玉座なんて持っているのかは知らないけど。
玉座も取り替えた事だし改めて座る。
「誰か! あの不届き者を殺せ!」
イルレオーネ王に言われてハッとしたのか中にいる騎士達は剣を抜いた。
「シアン」
「お任せを。"跪きなさい"」
シアンがそう口にすると、貴族と騎士達はその場で跪いた。
シアンのユニークスキル『言霊妃』の効果だ。
『言霊妃』は言霊を操るスキルだ。
つまり、シアンが放った言葉通りの現象を引き起こすのだ。
シアンが「"炎よ"」と言えば炎が出るし、先ほどのように「"跪きなさい"」と言えば対象は跪く。
かなり強力で万能な能力である。
さてと、召喚された異世界人はどんな反応をしているかな。
みんな俺を信じられないような顔で見ている。
まあ、あちらからしたら俺は死んだ存在だもんね。
当然か。
本当になんの巡り合わせなんだろね。
方や死んで転生。
方や時空を超えて転移。
「鈴なのか!?」
異世界人達の中の一人、前世での友人であるゼンジローが目を見開きながら問うてきた。
はぁい、みんな大好き茨木鈴改め、スズ・ロゼリアだよ。