表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/138

幕間 佐藤朱理の絶望

 鈴くんを始めて見たのは彼が始めて登校して来た時だった。

 鈴くんは入学式から10日ほど遅れてやって来た。

 始めて見た時は目を疑った。

 こんなに綺麗でかっこいい人がいるのかと。

 でも、その程度だった。

 かっこいいなあとは思ったが一目惚れとは違うと思った。

 周りの女子のほとんどが鈴くんに一目惚れしていたのを客観的に見れたからかもしれない。

 とにかく、この時は鈴くんとは接点もなかったし時々話す程度であった。



 それが変わったのはあの事件の後だった。

 私は登校中、何者かに攫われた。

 薬によって眠らされて、気がつけば目隠しされて縛られていた。

 何も見えない中、聞こえてくるのは男達の下卑た声。

 怖かった。

 とても怖かった。

 私が起きた事に気づいた男達は私に言った。

 お前は茨木鈴に対する人質だと。

 そして、事が終われば遊んでやると。

 この時の私は恐怖のドン底にいた。



 それを救い出してくれたのは鈴くんだった。

 目隠しされていたので詳しい状況は分からなかったけれど、後から聞けば鈴くんは100名近くの男達を倒したり、銃撃を切ったりしたらしい。

 そして、残り僅かとなった時に、男の一人が私の頭に何かを突きつけてきた。

 目が見えずとも何か金属質の物が私の頭に当たる感覚、男の言葉。

 私はその何かがすぐに銃であるとわかった。

 もう、恐怖で何が何だか分からなかった。

 ここで死ぬのかと思った。


 そして、気がつけば鈴くんによって目隠しを取られ、拘束を外されていた。

 先ほどまで混乱の真っ只中で情報を整理できていなかったけれど、この時、スッとすべての状況を理解した。


 先ほど私に銃を突きつけていた男を鈴くんが殺したと。

 そして、また混乱した。


 私が攫われたから鈴くんが人を殺した?

 私を助けるために人を殺した?

 私のために人を殺した?

 私のせい?


 混乱していると、ふと鈴くんを罵倒している声が聞こえてきた。

 私の親友の沙耶の幼馴染の勇輝くんの声だ。

 私は何故かその罵倒を許す事が出来なかった。

 勇輝くんは鈴くんのせいで私が攫われたのにどうして庇うのかと言う。

 確かに、あの男達は鈴くんに恨みがあってその恨みを晴らすために私を攫ったみたいだ。

 でも、私にはそれはどうでもよかった。

 鈴くんが私のせいで人を殺したという事実があったから。

 そう、私のせいなのだ。


 この事件を経て私は鈴くんの事を好きになった。

 鈴くんに対する責任だとかの気持ちと元々持っていた好意的な気持ちが混ざり合わさったのだと思う。


 日を追うごとに彼と会うのが楽しくなっていった。

 日を追うごとに彼と話すのが嬉しくなっていった。

 日を追うごとに彼の事が好きになっていった。


 事件のおかげか私は鈴くんと一緒にいられることが多かった。

 事件の事を利用しているようで自分の事を浅ましく思ってしまうが彼の近くにいる事を止める事は出来なかった。


 鈴くんの事が好きで好きでどうしようもなくなった時、彼は死んだ。




 なんで死んでしまったのだろう。

 まだ告白もしていないのに。

 なんで告白しなかったのだろうか。

 どうして好きと伝えられなかったのか。

 死んでしまっては彼に好きだと言えない。


 ねえ、なんで死んでしまったの?

 こんなにあなたの事を好きにさせておいてどうしていなくなるの?

 私、あなたがいないと生きていけないよ。


 何度も死のうと思った。

 鈴くんの元に行きたいと思った。

 沙耶が必死に止めてくれなかったら多分私は自殺していただろう。


 鈴くんが死んで時間が経った。

 私は何とか学校に行けるようにはなった。

 この頃になると鈴くんに恥ずかしくないように生きようと思えるようになった。

 笑顔だってできるようになった。

 それでも消えない心の鬱。

 学校に行こうが笑顔になろうが私はどうしようもない自殺志願者だった。


 そんなある日、クラスごと異世界に転生した。

 王様は魔王を倒せという。

 私は喜んだ。

 鈴くんのように戦える事ができると。

 鈴くんの代わりに戦えると。

 誰かの為に戦って死ねると。

 戦って戦って戦って死ねると。

 鈴くんに恥ずかしくない自殺ができると。

 鈴くんの代わりに戦って、最後に死ぬのが私にとって最高の自殺手段だと思った。


 私は剣をとり訓練を始めた。

 筋がいいと褒めてくれたがどうでもよかった。

 この国の王子だとか言う人が接触してきて何か言われたがどうでもよかった。


 ダンジョンに入って初めて魔物を殺した。

 人ではないが鈴くんと殺すという事を共通できたかのように思えた。

 それからは主にダンジョンで魔物相手に訓練を始めた。

 戦っては傷ついて回復して、戦って傷ついて回復して。

 魔王じゃなくてここで死んでも十分な自殺手段だったが、私は何度も戦って生き残った。

 それでもいつか死ぬ事を夢みて戦った。


 沙耶と篠原くんが心配そうにしてくれるが、私は私を殺そうとする事を止める事が出来なかった。


 そしてこの世界に来て数ヶ月、奇跡が起こった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ