72 神王達
前回のあらすじ
シアン「スズとの魂姻、うへ、うへへへへへ」
「見事だ」
そう言いながら倒れたのはハルさん。
そこで俺は"暴食結界"を解除する。
「認めてくれるか?」
「手も足も出なかったな。俺が万全でも同じ結果だ。お前とシアンの婚姻を認めるよ」
ほっ。
どうやら認めてくれるみたいだ。
「まあよかったわ。スズちゃんおめでとう。よく頑張ったわね」
「ありがとうリーシアさん」
「……そろそろ治療して欲しいんだが」
リーシアさんが倒れたままのハルさんを起こし治療する。
ダメージ自体は大して与えてないので大丈夫だろう。
「ああ、そうだ。ハルさんと戦う事で頭がいっぱいで忘れていた。なんで俺を呼んだんだ?」
「ああ、それはなパールミス軍の事についてだ」
俺はパールミス軍がどうなったかを全て答えた。
「そうか。やはりスズが全滅させたか」
「ごめんね。一応軍が相手すべきだった相手を横取りして」
「いい、こちらの被害は皆無に近い。あちらは災難だっただろうが。しかし問題だな」
「何が?」
「20万もの軍をたった一人で極めて短時間で文字通り全滅させる存在が知られたら問題だろうが」
「あ」
そりゃそうか。
そんな存在危険極まりない。
それに、あそこは死の大地と化してしまっているからな。
そんなことできる存在がいると知られて人は怖がる。
「まあ、スズがやったと知られていないだろうからスズには直接影響は無いだろうが国民は怖がるだろうからな。すまんが何かパールミス軍が消えた理由を一緒に考えてくれ。」
うーん。
まあ、死体は存在しないからな。
なにかいい理由を考えておかないと。
パールミス軍が何かを召喚しようとして失敗したとか?
「まあ、これは時間があるからすぐに考えなくてもいい」
「わかった」
「さて、シアンは屋敷に居るのだろう? スズとの婚姻を許可する事を伝えないとな。今から行こうか」
「え?」
なんかハルさんが屋敷に来ようとしている。
どうしよう、シアンの事何も言ってない。
「いや、ハルさん仕事とかで忙しいんじゃない?」
「今日は大丈夫だ。パールミス王の尋問もまだ終わってないしな。忙しくなるのはそれからだ」
「いや、でも」
「まて、お前何を隠している?」
くっ、すぐにバレる事だがどうしよう。
シアンに角が生えたのは間違いなく俺の影響だし。
怒られるかな。
仕方ない正直に話すか。
「俺のせいじゃないぞ。シアンがああなったのはシアンが半分望んだことだからな」
「お前、シアンに何かしたのか!?」
「いや、その、シアンに角が生えた」
「は?」
結局ハルさんは屋敷に来る事になった。
いろいろ言われるかもしれないがシアンに任せよう。
屋敷の前まで来ると大きな気配を感じた。
それも屋敷の中から。
この気配はレヴィアと、誰だ?
「ハルさん、何かヤバイのがいる」
「わかってる」
屋敷に入ると爺やが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませスズ様。そしてようこそいらっしゃいませ陛下。それで、スズ様にお客様です。あちらの応接室にいらっしゃいますのでご対応お願いします」
俺はハルさんを連れて応接室に入る。
そこには、シアンとシエルとソラとレビィア。
そして、見たことない者が2名いた。
一人は15〜17歳くらいの緑の髪の儚げな少女。
何故かシエルを膝に乗せて楽しそうにしている。
そしてもう一人の闇のような紫っぽい髪をした少年、あるいは少女のような者。
15〜17歳くらいに見えるがその覇気は凄まじいものである。
今の俺はレヴィア並みの力があると思う。
だが、目の前のこいつには敵わない。
そう思えるほどの圧倒的なまでの力を感じる。
「やっと来たか。レヴィア、こいつだな?」
「ええ、そうよ。彼がスズよ」
「ふーん」
少年?は俺をジロジロと見てくる。
「それで、お客人たちは俺に何の用なんだ?」
「そうだな。単刀直入に聞く。お前、オーバースキルの所有者だな?」
オーバースキル。
俺が今朝獲得した『暴食神』の事を言っているのだろう。
何故、オーバースキルを獲得したのを把握できているのかはわからないけど、その存在を知っているという事は、
「……そうだ。お前、お前らもか?」
「そうだ。俺は魔神王ルシア・ダークレシアだ。で、こっちのが…」
「はいはーい、私は霊神王イルミス・ユグドレシアだよ」
イルミスは見た目と反して明るい性格のようだ。
それにしても神王が三柱か。
壮観だな。
「神王が三柱も来るとはな。こいつらは退出させたほうがいいか?」
「いや、全員お前に近しい者達だろう? だったらいてもらっても構わない」
「わかった」
そこまで話すとセレスが入室してきた。
お茶を淹れてくれる。
それに合わせて立っていた俺とハルさんも座る。
「それで、自己紹介とオーバースキルの有無の確認だけが目的じゃ無いだろう?」
「そうだ。簡単に言うとスズだったか? お前に神王の一柱になって欲しい」
「は?」
俺が神王の一柱にだと?
「神王とは何だか知っているか?」
「世界守護者とか神だとかくらいしか知らん」
「そうか。だったらこれから神王の集う場所に行く。お前にもついてきて欲しい。そこで何故俺がお前に神王に一柱になって欲しいと言ったのかわかる」
ついてきて欲しいって。
どうする?
チラリとレヴィアの方を見る。
「大丈夫よ。別に危ない事はないわ。私達が貴方に危害を加える事もないわ」
出会った時に危害を加えてきておいてよく言う。
まあ、レヴィアの言う事ならまだ信用できるか。
でも、今シエルとあんまり離れたくないんだよな。
「どれくらい時間がかかる?」
「1日もかからん」
うーん、どうしよう。
「あの、スズ、シエルちゃんの事で悩んでいるのでしたら私が面倒を見ます。それにスズが思っている以上にシエルちゃんは大丈夫ですよ」
ふむ。
確かにシエルを見るとイルミスの膝の上で美味しそうにお菓子を食べている。
確かに大丈夫そうだな。
「わかった。行くよ。すぐに向かうのか?」
「いいや、先にイルミスの用事を済ませてからだ」
「まだ何かあるのか?」
イルミスの方を見ると、お菓子を食べ終えたシエルに追加でお菓子をイルミスがあげていた。
「私の目的はスズと言うよりもこの子」
「シエル?」
シエルが目的ってどういう事だ?
神王ならシエルの特殊性を見抜く事ができるはずだ。
まさかシエルを連れ去ろうと?
「ちょっと! そんなに殺気を当てないでよ! 別にこの子に危害を加えないから」
嘘じゃないな。
俺は漏れ出てしまった殺気おさめる。
「ハーフエルフでありながら真祖の吸血鬼。確かに特殊な存在よね。この子を狙う連中がいるだろうとは簡単に予測つくわ。でも私達はそんな事しないし貴方の手元にいるならする必要はないわ」
「じゃあ、シエルに何の用なんだ?」
「そうね。この子は勇者の素質を持っているわ」
「そうなのか?」
シエルを見るとコテンと首を傾げていた。
シエルもよくわからないらしい。
「まあ、勇者なんてあんまり現れないし、ほとんどが自称だからね」
「勇者って何か明確な定義でもあるのか?」
「ええ、簡単に言うと私が勇者認定の儀を行った者が勇者ね」
イルミスが言うにはこうだ。
勇者とは魔王と対となる存在である。
そして、霊神王イルミスによって勇者認定の儀を行われた者が勇者を名乗る事ができる。
それ以外は自称勇者、偽物である。
勇者の素質がある者は因果が巡り、必ずイルミスと出会う。
「その、勇者認定の儀って勇者を名乗れるようになるだけ?」
「違うわ。そんな物、副次的な物だよ。そうね、今のこの子の勇者としての状態は種だと思っていいわ。それを私が勇者認定の儀で水を与えて芽ぶかせるの。それが目的。まあ、そこから花を咲かせて実をつけるかはこの子次第ね」
なるほどな。
しかし、シエルが勇者か。
すごいな。
ハーフエルフーー後で知ったが今は進化してハイハーフエルフーーで真祖の吸血鬼でさらに勇者。
シエルの属性過剰が止まらないな。
「それにシエルの危険はないんだな?」
「ええ」
「そうか。だったらシエルの好きにするといいよ。シエルが勇者認定の儀を受けたいのなら受けさせてやってくれ」
「わかったわ。でも、今すぐってわけじゃないから考えてくれたらいいわ」
たぶん、シエルはその勇者認定の儀を受ける事になるんだろうな。
シエルを見るともう決めているかのような顔してるもん。
「さて、話は終わったな。ならばそろそろ行くか」
ルシアが立ち上がる、指を鳴らすと応接室に豪華な扉が出現した。
そして、その扉が開かれて中からメイド姿の美女が出てきて一礼する。
「それでは案内いたします。皆様ついてきてください」
俺、レヴィア、イルミスも立ち上がり、メイドについて行って扉を抜けた。
ハルとの戦闘なんてなかったんや