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67 VS発狂スズ 中編

「あはあはあはあは。ぐっちゅぐっちゅぐっちゅはあああああ!!」

「っっ!!」


 変形を終えたスズはハルに突進し、爪を振り下ろし、背中の鉤爪で追撃する。


 スズの魔力が増大し、より硬く、より速く、より力強くなった。

 また、背中の鉤爪によって手数も増え、ハルでも苦戦し始めた。

 そこに理性が伴わなくとも、何本もの鉤爪をスズの技術と身体能力で使われればさすがのハルでも苦戦する。

 さらに、手数が増えた事によってスズとの接触時間が増えて、よりエネルギーを吸収されるのだ。

 しかも、スズを殺すのではなく無力化しなければならない。

 それでも全ての攻撃を防御しているのは、流石の一言である。


「ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ喰べるんだよーーー!! 仕方ないよねーーーー!! 俺のものを奪おうとするんだから!!」


(正気を失い、ただ暴走しているだけだが、敵に回すと想像以上に厄介だな。これはきつい)


 ハルはスズの攻撃を防ぎながら内心毒づく。

 ハルはスズと今まで何度も戦ったことはあるが、所詮は訓練である。

 普段、スズとハルが訓練で戦う時は、エネルギー吸収攻撃を行わない。

 訓練だから。

 だが、今は違う。

 触れるだけでエネルギーを吸い取られるなど厄介極まりないのだ。


「おおおおおおおおおおお!!」


 ハルは己を愛槍を巧みに捌いて爪を弾き、鉤爪を弾き、その弾いた鉤爪でさらに別の鉤爪を弾く。

 合計10本もの鉤爪と爪に対してハルは常軌を逸した槍捌きで全て対応する。



「父さんも死んだ! 母さんも死んら! みんなみんなみんななななしんあ! みんなみんなみんら? そう! みんら喰べるだ! 俺のなのに! 俺の大切なものらろに!」

「くっ、手数が多すぎる! セレス! 何本か頼む!」

「かしこまりました!」


 セレスはハルの代わりに数本の鉤爪を受け持つ。

 スズの鉤爪とセレスの武器がぶつかる度にセレスの武器は破壊されるが、セレスは次々と予備の武器を展開していった。


「返して、返して、僕の、私の大切なもの。どうしてみんな死ぬの? おばさん、何でご飯をくれないの? おじさん、お母さんの指輪返してよ。 痛いよ、痛いよ。止めてよ蹴らないで殴らないで」

「……スズ、お前何を言って」

「父上!」


 ただ、狂ったように叫ぶスズの口調が突然変わり、まるで幼子のような口調になった事にハルは驚いた。

 それによって一本の鉤爪を捌き損ねたが、ジークが間に槍を入れて防いだ。


「助かったジーク!」

「いえ、僕じゃ攻撃は通りそうにないですし、今、父上がダメージを受けられては困ります」


 事実、ジークの槍はスズの金属のような皮膚に阻まれて、ゼシェルのナイフも攻撃が通らないので、すでに二人はサポートにまわっている。


「そうなんだ。やっとわかった。もう知らない。僕一人で生きていく。お前達は許さない! 僕は、いや、俺は必ず復讐するんだ!」


 今、スズが口にしているのは過去の記憶。

 この世界でスズが生まれるよりもずっと前、前世の幼い時の記憶。

 物心が付く前に両親を亡くし、祖父母に引き取られるも4歳の時に二人も病死。

 その後、叔父夫婦に引き取られるも、騙されて遺産を取られ、虐待されていた頃の記憶。

 茨木鈴が超人たる力をつけ始めた頃の記憶。


「あははは、無様だねぇ。殺しはしないよ。殺す価値もない。そのまま俺に恐怖しながら無様に生きろよ。二度と俺の目の前に姿を現わすな!」


 力をつけた茨木鈴が、叔父夫婦に復讐を果たした時の記憶。

 超人と呼ばれるようになった頃の記憶。

 そして、自由になった時の記憶。


「あーあ、死んじゃった。もっと食べたかったな。もっと生きたかったな。もっと、もっと、もっと。……あれ? 生きてる? あー、母さんだー」


 茨木鈴が死んで、スズ・ロゼリアとして目覚めた時の記憶。


「家族って良いなぁ。父さんがいて母さんがいてシエルがいてソラがいて」


 愛を知らずに育ち、超人となった少年は、生まれ変わり、家族に囲まれて愛を知った。


「せっかく、知ったのに! 転生して初めて知ったのに! 初めて家族があったのに! 奪われた! 奴らに奪われた! だから喰ってやったんだ! ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ喰ってやったんだ! まだまだ喰べるんだよーーー!! 邪魔する奴は殺すのみ! みんなみんなみんな死んじゃえええええええ!!」


 スズの魔力は叫び声をあげながらさらに増大し、より禍々しく凶暴な姿に変身した。

 しかし、その場にいる全員がその事を悲観したかった。

 そして、決意した。


 シアンとハルとジークは知った。

 スズが転生者であると。

 前世で愛を知らずに育った人であると。

 だか、それがどうしたのか?

 スズはスズであるのだ。

 前世がどうとか関係ない。


 スズを転生者を知っていたゼシェルとセレスも同じ気持ちであった。


 愛を知り、家族を愛した鬼。

 優しい鬼は愛した家族を失い深く悲しんだ。

 それでも強い鬼は成すべき事をする為、行動した。

 残された妹を救い出し、後に暴走した。

 暴走してなお、家族を想い、悲痛な叫びをあげる鬼。

 強くて優しくて自分達の愛する鬼。

 そんな鬼が悲痛な叫びをあげるいるのだ。


「絶対に助けてやるからな!!」


 ハルの言葉に全員が頷く。


 みんな決意したのだ。


 鬼を正気に戻し、みんなで慰め、みんなで泣き、みんなで悲しみ、最後にはみんなで笑うと。


 愛する鬼を悲しみから救い出すと。

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