65 スズの崩壊
グローリアス王国の王城の一室で軍議が行われていた。
もちろんパールミス王国との戦争についてである。
ハル、ジーク、エシェントなどが主なメンバーである。
「だから、……待てっ!」
そんな大事な軍議の最中に突然扉が開かれてゼシェルが入ってきた。
「軍議中失礼します」
ゼシェルは一礼してから会議室の大きな机の中央に持っていたものを放り投げる。
「これは!」
「ひっ、あ、お、おおおお、グローリアス王か! た、助けてくれ! あの化け物に殺される! いや、それよりも酷い目に合わされる!」
ゼシェルによって放り投げられたパールミス王はハルの存在を視認すると、ガタガタ震えながらも助けを求める。
「おい、ゼシェル! これはどういう事だ!?」
「それはスズ様からの贈り物にございます」
「どういう意味だ?」
ゼシェルは答える。
グレイスとアーシャ、そしてあの村の住民が妖精を除いて全滅した事。
シエルが攫われた事。
シエルを取り戻し、原因を作った一人であるパールミス王を捕らえた事。
「スズ様は私にこの者はまだ役に立つから陛下に届けるようにと」
「グレイスとアーシャが死んだだと!?」
「そんな……スズとシエルは!?」
「シエル様はシアン様の元にいるかと。スズ様は今はパールミス軍を滅ぼっっっっっ!! ぐ、があああああ!!」
突如ゼシェルは胸を押さえて苦しみ始めた。
「スズ様、何があったのですか!?」
「スズに何かあったのか!?」
「わ、わかりません。魂の回廊が途切れました。私は今すぐスズ様の元に向かいます」
ゼシェルは急いでスズの元に転移しようとする。
「待て。俺も行く!」
「僕も行きます! スズに何かあったのなら放ってはおけない!」
「かしこまりました。では、私に掴まりください」
ハルとジークはゼシェルに掴まる。
「エシェント、少し抜ける! 後は任せた!」
ハルがそう言い残し、3人は転移していった。
ー▽ー
ゼシェルとセレスの二人が行ってしばらく経ちました。
何が起こっているか分かりません。
不安で不安でたまらないです。
もし、スズの身に何か起こったら私は……。
そんな時、セレスが帰ってきました。
シエルちゃんを抱えて。
「シエルちゃん!? どうしてシエルちゃんが!? 何が起こっているのですか!?」
私は大声で質問しますがシエルちゃんは全く反応しません。
どうやら眠っている様です。
しかし、セレスは違いました。
とても、とても悲痛そうな顔をしています。
「その、グレイス様とアーシャ様はお亡くなりになりました」
「は?」
セレスは何が起こったのか話してくれました。
妖精を除いて村の住民が全滅した事。
シエルが攫われた事。
そして、攫われたシエルをスズが助け出し、今に至るようです。
「そんな、グレイスさんとアーシャさんが」
グレイスさんとアーシャさんには幼い頃からお世話になっています。
スズのご両親ですので、私の未来のお義父様とお義母様でもあります。
そんな、二人が亡くなるなんて……
とても、とても悲しいです。
でも、それよりも、もっとスズとシエルちゃんが心配です。
二人は家族を深く愛していました。
そんな二人がご両親を失うなんて……。
しばらくセレスと話していると、突然、セレスは胸を押さえて苦しみ始めました。
「そ、そんな、スズ様!?」
「スズの身に何かあったのですか!?」
「わ、わかりません。た、魂の回廊が途切れました。すぐにスズ様の元に戻らなくては!」
そう言ってセレスは転移しようとします。
「待ってください! 私も行きます!」
「しかし、シアン様まで行かれるとシエル様とソラ様が」
「お母様に預けます。お願いします。私も連れて行って下さい! もし、スズの身に何かあったら私は!!」
「……かしこまりました」
セレスの許可も得ましたので、お母様の部屋に転移します。
幸いお母様は部屋に居ました。
「シアン? あなたいきなりどうしたの? しかも、シエルちゃんとソラちゃんとセレスちゃんまで」
「申し訳ございませんお母様、説明している暇はごさいません。シエルとソラをお願いします」
お母様に無理やりシエルとソラを預け、セレスにスズの元に連れて行ってもらいます。
転移した先は異様な光景でした。
草木一つ無い、まるで生命が存在しない、死の荒原でした。
「シアン!?」
声のする方を見ると、お父様とお兄様とゼシェルがいました。
彼らもちょうど転移して来たようです。
「ここは、どこなのですか?」
本当に何も無いしスズも見当たりません。
「ここには、パールミス軍がいたはずなのですが……」
という事はここはパールミス王国との国境付近の草原!?
「まさか!?」
「お父様、心当たりが?」
「ああ、スズの暴食結界だと思う。あれの効果に結界内で殺したモノを結界を解除さする際にそのまま捕食するという能力があったはずだ。」
「つまり、父上はスズがパールミス軍を文字通り全滅させたとおっしゃるのですか!?」
「ああ、パールミス軍どころか生命の気配一つも感じない。嫌な予感がする」
「それで、スズは、スズはどこなのですか!?」
「落ち着け、よく探ってみろ。あっちだ」
お父様に言われた通り、パールミス国の方に気配を探ると、一つだけ反応がありました。
しかし、スズにしては何がおかしいです。
「とりあえず、行くぞ」
気配のする方に移動します。
しばらく走ると人影が見えました。
後ろ姿で、髪は白くなっていつもの髪型とは違いますがあれは間違いなくスズです。
「スズ! よかった、無事だったのですね!」
私はスズの無事にホッとしてスズを呼びかけます。
スズは私達に気づいたのか、ゆっくりと歩いていた歩みを止めて立ち止まり、こちらを向きました。
そして、次の瞬間、スズが消えました。
「シアン! 避けろ!」
お父様に横から押されて倒れてしまいます。
その瞬間、
ーーギィィン
と言う大きな金属音がしました。
「へははは」
振り返るといつの間にかスズが後方にいました。
黒かった髪は白くなり、肌も白磁のように白くなり、角は逆の黒くなって、目から血の涙を流すスズがいました。
「スズ?」
「いやぁーーーーはははは、お、お、お、おいしーーーーーーーー!!」
スズは狂ったかのように笑っていました。
腕のような何かを喰らいながら。
いえ、あれは腕です。
ふと、横を見ると、お父様が腕を押さえていました。
押さえられた方の腕は肘から先が無く、血のドバドバと出ています。
「お父様!?」
「大丈夫だ。治る」
お父様の言った通り、患部が光ったかと思うと元どおりに再生されました。
「ス、スズ、どうしたのですか? どうしてこんな事を?」
「ぐちぐちぐちぐちごっくん。あーん」
スズはお父様の腕を喰べ、さらに持っていた刀を丸呑みにします。
すると、スズの体に変化が現れました。
片腕が三本の巨大な爪のようになり、長い牙が生えました。
他にも人型のまま変化してスズでありながら様々な魔物が合わさった異形の姿になりました。
「えへえへえへ、おいしそーなのがいっぱい。うれいいなうれしいな」
「スズ、どうして、私達ですよ! 正気に戻って下さい!」
「下がれシアン! 今のあいつに何を言っても無駄だ」
「そんな!」
「父上! スズが何かに干渉されているように見えます!」
「おそらくあいつが取り込んだ魂だろう。パールミス軍を皆殺しにしたのなら、20万もの魂を取り込んだはずだ。暴走しても無理は無い」
スズは大量の魂を取り込んで暴走したのですか。
だったら!
「私が歌を歌って鎮めます! 隙を作ってください!」
「それしか無いな。ジーク、ゼシェル、セレス! スズを抑えるぞ!」
「し、しかし、スズ様に刃を向けるなど」
「そんな事を言っている場合じゃ無いぞ! このままじゃスズは戻ってこなくなる! 覚悟を決めろ!」
「そう、ですね。分かりました」
最初に覚悟を決めたのはゼシェル。
「……スズ様、貴方様に刃を向ける事をお許しください!」
次にセレスが覚悟を決めて武器を展開します。
「えへへへへ、いっぱい、いっぱい食べれるな。もっといっぱいたべべべべよほほほほほほほほほ」
「来るぞ!」
こうして、スズを取り戻す戦いが始まりました。
明日投稿できるかわかりませぬ




