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63 飢餓地獄

残酷な描写あります。

「さてと」


 セイヤを処分し終えたスズはゆっくりとパールミス王の元まで歩いていく。

 周りの騎士達は、およそ人が出し得ないおぞましい悲鳴をあげて手足から崩壊しているセイヤを見て動けないでいた。

 スズがパールミス王の元に辿り着くまで誰一人動けないでいた。


「次は、お前な」


 シュピッとスズは刀をパールミス王に突きつける。


「ひっ。き、貴様! パールミス王国国王たる余にこんな事して許されると思っているのかっ! だが、まあ、まあいい。今貴様が謝れば余の親衛隊に取り入れてやってもよいぞ」

「お前、アホか? こっちはお前が泣いて許しを乞おうがお前を許すつもりは無いぞ。お前もあいつの様に悲惨な目に合わせる」


 スズはクイっと顎でセイヤを示す。


「ひっ、い、嫌じゃ! あんな風に死ぬのは嫌じゃ!!」

「ほら、想像してみて? 存在するだけで体中が発狂しそうな痛みに襲われるのを。そんな状態で手足から徐々に崩壊する……チッ、うっせーな」


 スズは途中で話すのを止め、その場から未だに叫び続けているセイヤに斬撃を放った。

 すると、おぞましい叫び声をあげていたセイヤから叫び声が聞こえなくなった。


「これで静かになる。まあ、安心しろお前はまだ殺さない。生きて恐怖を味わってもらう」


 スズは刀を大上段に構え、パールミス王を斬りつけた。

 斬られたパールミス王は、今までよりもさらに恐怖を感じるようになった。

 あまりの恐怖にガタガタと震え、失禁し、もう何も見たく無いという風に蹲る。


「爺や」

「お側に」


 スズの呼びかけにフッとゼシェルが側に現れる。


「こいつはパールミス王らしい。ハルさんの所に持って行ってやれ」

「……よろしいので?」

「ああ、何かと役に立つかも知れない。それまでは生かしておいてやる」

「かしこまりました」


 ゼシェルはパールミス王を掴み、フッと消えていった。


「き、貴様! 陛下をどこに!?」


 その光景を見て最も早く我に返ったのは騎士団長だ。


「どこだっていいだろ? お前達はすぐに死ぬのだからな。あと一人残っているあいつ以外はどうでもいいが、ほんの少しでも俺の怒りが収まるように付き合ってもらうぞ」

「何を馬鹿な事を!」


 騎士団長はスズに襲いかかる。

 騎士団長はSランク相当の実力を秘めている。

 伊達にパールミス王国の騎士団長をしていない。

 しかし、剣はスズに届くことなく騎士団長は塵となった。

 この程度なら今の鈴にとっては雑魚でしかないのだ。



「暴食結界ーー飢餓地獄ーー」


 そして、スズは地獄の結界を発動した。

 その瞬間、辺り一面は赤黒く、薄暗い空間になる。

 その空間はファルセム軍20万全てを飲み込む巨大な空間だ。

 スズの周囲の騎士達も、中央で起こっている事も知らない徴兵された兵達も皆突然の異変に警戒する。

 しかし、辺りの空間の雰囲気が変異した以外に変化はない。



 ふと、腹が減ったように兵達は感じた。

 持っていた携行食で腹を満たそうとするが一向に満たされない。

 それどころか余計に腹が減るように感じた。

 加速度的に腹が減っていき、飢餓感すら感じるようになった。

 食えども食えども空腹になり、食料が尽きた。

 そして、他人の食料を奪う事に意識が向くほどの飢餓感に襲われる。

 各地で保有している食料の奪い合いになった。

 補給部隊の食料を求め、隣人を殺した。

 そんな時、偶然口に入った血がとてつもなく美味く感じた。

 そして、僅かに飢餓感が薄れた気がした。

 普通の食料では物足りなくなり、遂に人を喰らい始めた。


 もう止まらない。


 隣の人物を殺し、喰らい、殺され、喰われる。

 それは、結界内全てで行われていた。



 とある騎士は同僚にして恋人の女性騎士と行動を共にしていた。

 共に将来を誓った二人はお互いを貪り喰らう。

 生きたままお互いの首筋に噛みつき、血を啜り肉を喰いちぎる。

 お互いに喰らい合い、死んだ。

 女性騎士の胎内に宿っていた小さな存在ごと。



 とある聖職者は信者を喰らっていた。

 信者に噛みつかれながらも全て殺し、喰らった。

 最後には無数の信者に噛みつかれ、出血多量で死んだ。



 とある貴族は四肢を損壊していた。

 自身が飼っていた獣人の奴隷に食い千切られたのだ。

 その獣人の奴隷も他の者に喰われて死んだ。

 四肢を損壊し、地面に倒れ伏せていた貴族は群がってくる平民の兵どもに抵抗すらできずに生きたまま喰い殺された。



 貴族も平民も奴隷もそこには関係なかった。

 親友も上司も部下も恩師も弟子も家族も恋人も全て喰らい尽くす。

 それでも飢えは満たされず、次々と人を喰らい殺していく。

 まさに地獄絵図。

 飢えた餓鬼どもが互いに貪り喰らいあっているのだ。



 "暴食結界ーー飢餓地獄ーー"


 これはスキルによる異界化の技だ。

 以前スズがレヴィアの教わった。

 スキルによって周囲を異界化し、副次的に様々な効果を生む。

 レヴィアの"蒼海結界"は空間内を海中のフィールドに変えるし、スズの"暴食結界"は空間内にいる者に狂えるほどの飢餓感を与える。

 そして、スズはさらに空間を作り変えて、唯一生者を喰らっている時だけ美味しく感じ、飢餓感が少し薄まるようにしたのだ。


「ほら、見ろよ」


 そんな中、飢えの影響を受けていない存在が二人、空中に浮かんでいた。


 一人はスズ、もう一人はワーナー。

 スズはワーナーの髪を掴み、持ち上げて空中に避難している。


「あんなに偉そうにしていた奴が必死に人を喰らっているぞ。あっちでは貴族っぽい人が奴隷に喰われているな」

「ひ、ひぃ、助けて、お願いしますお願いします」


 ワーナーは顔面蒼白でガタガタ震えていた。

 何しろ今スズが手を離すと、あの地獄に入り込んでしまうのだから。


「助けるわけないだろ? さて、あの異世界人にやったように考えられないほどの苦痛を感じるようになるのと、パールミス王のように考えられないほどの恐怖を味わうのどっちがいい?」

「どちらも嫌です。た、助けてください」

「そう。だったら両方な」


 スズは持っていた刀でワーナーの首をスパッと切った。

 もちろん外傷は無い。


「ぎぃやあああああああああ!!」


 ワーナーは考えられないほどの苦痛と恐怖に悲鳴をあげる。

 オマケとして、飢餓感も植えつけられている。


「じゃあな」


 スズはワーナーをポイと投げ捨てる。

 地面に落ちたワーナーに人が、いや、人の姿をした餓鬼がたむろし、ワーナーを喰らっていく。

 ワーナーはスズに恐怖と苦痛を作り変えて昇華された状態で、喰われて死んだ。

 最悪の死に方だっただろう。


「父さん、母さん、村のみんな。仇は討ったぞ」


 スズは空中でしばらく黙祷する。


「もういいかな」


 黙祷を終えたスズは眼下を見下ろす。

 地上では人同士が喰い、喰われて大量の死体が存在した。

 それでもまだまだ生きている者も多い。

 スズにわざわざ全滅するまで待つ気は無い。


「暴食結界ーー無空地獄ーー」


 その瞬間、台風の様な風が巻き起こる。

 スズは『暴食(グラ)』によって辺りの空気を吸い込み、捕食しているのだ。

 それによって風が巻き起こる。

 さらに、この結界内は異界だ。

 つまり外部との接点が一切ない密室である。

 空気が捕食された事により、空気が薄くなり、やがて結界内は真空に至る。

 ただの人に真空で生きていけるはずが無い。

 真空による異常圧力と酸素を失った事によって、パールミス軍20万は死に絶えた。


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