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59 絶望

なんとか投稿

 気がつけば家の前に立っていた。

 14年間住んでいた我が家だ。

 どうやってここに来たかは覚えていない。


 母さんとシエルは無事だろうか?

 ーーそんなはずは無い。


 きっと家に隠れている。

 ーーもうわかっている。


 大丈夫大丈夫大丈夫、玄関のドアを開けて中に入れば母さんとシエルはいる。

 ーー嫌だ、開けたく無い。開けたく無い。


 俺がみんなを守らなければならないんだ。

 ーー守れなかった。みんな死んだ。父さんも死んだ。


 さあ、ドアを開けて母さんとシエルを保護しよう。



 ガチャリとドアを開ける。


 中では血塗れの母さんが倒れていた。


「かあ、さん……」


 知っていたのに知らないふりをしていた。

 匂いで分かっていたのに、鼓動で分かっていたのに、魔力で分かっていたのに、気配で分かっていたのに。

 この目で確かめるまで信じることができなかった。

 信じられなかった。

 信じたくなかった。


「あ、ああ、なんで。どうして、母さん」


 俺は呆然としながら倒れている母さんを抱き寄せる。


「ほら、母さん目を覚まして、父さん、死んでしまったんだよ。立ったままだよ。凄いよね。村を守っていたんだよ。悲しいけど俺たちは生きなきゃいけないんだよ。ほら、シエルもまだ幼いし。母さんが必要なんだよ」


 そう呼びかけながら治療魔術を母さんにかける。


「ああ、これだけじゃ足りないかな。ほら、回復薬だよ。俺特性の。闇の森の素材が材料の特級品だよ」


 そう言って母さんに口に液体の回復薬を注ぎ込む。


「手足だって生えてくる回復薬だからこの程度の傷、なんて事ないよ。さあ、起きて」


 俺は母さんの体をゆさゆさと揺さぶる。


「なあ、起きてよ。母さん! 起きてよ!」


 しかし、母さんはなんの反応も示さない。

 当たり前だ。


「母さん! 起きてよ! なんで、なんで! やっとできた家族なんだよ! なのに、なのに!! こんなところで終わらせないでくれよ! 頼むから目を開けてくれよ!!」


 俺は現実に目を背けながら必死に母さんを揺さぶり、呼びかける。


「なんで、なんで、なんでーーー!! くそっ! 目を覚ましてくれよーー!!」


 そんな時、母さんの手から何がこぼれ落ちた。

 くしゃくしゃに丸められた血まみれの紙だった。

 俺はそれを手に取り広げた。

 血まみれだったが、そこには同じ血で確かにこう書かれていた。


 ーーシエルが攫われた。スズお願い。二人ともごめんね。ーー


「なん、で、どう、して。あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア







 不幸な出来事はいつも突然やってくる。

 気づいた時にはもう遅い。

 すでに結果は出ているのだから。

 あの時こうすればと後悔してももう遅い。

 無かったことになんてできないのだから。


 いくら起こり得る結果すら作り変える能力を持っていても無意味だ。

 原因も結果も未来にあってこそ使われる能力なのだから。

 過去の出来事、結果なんて作り変えることはできない。


 どんなに力を持っていようが原因を察知できなければ、起こりうる結果を阻止することはできない。

 起こった結果を知っても無意味だ。

 すでに結果は出ているのだから。


 後悔と無念と自責と怨念と悔恨を吐き出すかのように叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。


 只々叫び続ける。


 叫び続け、叫び続け、叫び続け、叫び続ける。


 そして、叫び続けた果てに。



 何かが切れる音がした。

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