56 ジークの旅立ち
「明日だな」
「そうですね」
シアンは少し寂しそうに呟く。
何が明日なのかと言うと、ジークが旅立つのだ。
ジークは10日前に学園を卒業した。
そして、昔のハルさんと同じように冒険者として国中を旅するのだ。
もちろん旅立つのはジークだけでなく、婚約者のティリアと護衛兼パーティメンバーとしてミラルドとクレセナも一緒に旅に出る。
ジークは冒険者として冒険するのも楽しみにしているが、それ以上に王子として国を見回りたいと思っているようだ。
立派だと思う。
ハルさんなんか絶対、冒険したいから冒険者になったもんな。
そして、今日はジーク達との俗に言うお別れ会である。
ジーク達が冒険者として旅立つのは一部の人しか知らないので内輪でのパーティーをするのだ。
そして俺はそのパーティーに出す料理を任されている。
これから料理を作りに城に行かなくてはならない。
本当は機材とかの関係で料理自体は俺の屋敷の方が良いんだけどあいにくとパーティー会場は城だ。
まあ、機材とか無くても普通に作れるけどな。
城の設備も悪くないし。
俺の屋敷の機材が少しオーバーテクノロジー過ぎるだけだ。
そして、料理長などが補佐についてたくさんの料理を作った。
量もさる事ながら種類も豊富だ。
なかなかに作りがいがあったよ。
ジーク達にはたくさん栄養を付けてもらわないといけないからな。
パーティーはたくさん食べてたくさん喋るだけの些細なものだ。
およそ王族が行うパーティーでは無い。
まあ、あんな形式ばったパーティーよりも内輪で楽しくする方がいいだろう。
ジーク達と喋りったりしながら楽しくパーティーをした。
「ジーク、元気でな。お前達の活躍を耳にするのを楽しみにしているぞ」
ハルさんがジークに別れの挨拶を告げる。
俺たちは、ジーク、ティリア、ミラルド、クレセナを出送り来ている。
それぞれの家族と何故か俺も一緒だ。
まあ、これてよかったけど。
みんなそれぞれと別れの挨拶をしている。
しばらく離れる事になるしな。
フェルミナとかは少し泣いている。
「ジーク、やるよ」
俺は持っていたブレスレットをジークに投げ渡す。
「これは?」
「ピンチの時に魔力を流すといいよ。その時に助けてくれる物だ」
渡したブレスレットは俺特製の魔導具だ。
「そう、ありがとう」
ジークはカチャリとブレスレットを装着する。
既に他にもあげているのだが、昨日の深夜にやっと完成した物だ。
だから今渡せて良かった。
その後もみんなと少し話し、そして、
「それではいってきます!!」
ジーク達は旅立っていった。
「行ったな」
「ええ、そうですね。スズは覚えています? 今日ってスズが王都に住み始めてちょうど1年なんですよ」
そうなのか。
言われてみれば確かにそうだ。
王都に住み始めて1年。
いろんな事があったな。
爺やとセレスに出会って。
古代金剛亀竜を倒して。
闇の氾濫を退けて。
レヴィアとアルマに会って。
かなり濃い1年間だったな。
秋頃からはそこそこ平和だったけど。
「まあ、あれだ。寂しいだろうけど俺はいるから安心しなよ」
シアンが寂しそうな顔をしていたので慰めたら意外そうな顔をされた。
「なんだその顔は」
「いえ、スズもそんな事言うのですねって思って」
失礼な。
俺だってシアンが寂しそうにしてたら慰めたりするくらいするさ。
「ふふっ、ではお言葉に甘えてこれからはもっとスズの屋敷に行かせてもらいますね」
「ほぼ毎日来てるじゃん」
「もっとですよ。私の部屋に来てもらってもよろしいですよ」
「えー、めんどい」
そもそも俺にはやる事がいろいろとある。
闇の領域の調査もまだ終わっていないのだ。
まあ、闇の領域は広大だからな。
地道にやっていくしかないだろう。
そう言えば闇の領域と言えばあの人。
確か、ネフィーだったか。
気まぐれで助けたあの女の人だけど、シアンによると何故か俺のストーカーと化したらしい。
ストーカー、懐かしい言葉だ。
前世じゃ俺もストーカー被害に遭っていた。
学校だけで何人いたのやら。
ストーカーって言うのはかなり厄介だ。
あいつらは執念が凄いので俺をストーキングする為にあらゆる技能を身につけようとした。
俺を遠くから付きまとったり、家に侵入しようとしたり。
無駄にスペックが高いのだ。
まあ、そのストーカー達を打つけあわせて、互いに邪魔する様に仕向けたり、家の防犯も強化したりしたり、俺のファンクラブ的なのを利用して監視させたりしたからほとんど被害とか受けていなかったけど。
いつか刺されるってゼンジローに言われたな。
ストーカー程度なら刺しに来たって余裕で回避できる自信があったんだけどな。
刺される前に死んじゃった。
それで、何か最近ネフィーの気配が近くにあるなって思っていたらストーカーと化していたとは思いもしなかった。
そもそもストーカーとかいう存在自体忘れていた。
今世じゃ村では大人ばかりだったのでストーカーはいなかった。
王都の屋敷も防犯観点から見たら、前世よりも遥かに良い。
何より俺をストーキングするなどシアンが許さないのだ。
いつの間にかストーカーと化したネフィーの対処してくれたらしい。
手際の良さからこういう事に慣れているのだろう。
おそらくネフィー以外に似た様な者もいたのかもしれない。
俺が対処しなくて良いとはシアン様々である。
閑話休題。
俺にはやる事がいろいろとあると言ったが基本的には暇だ。
シアンの部屋に行くのも吝かではない。
でも、最近シアンの部屋に行くとソフィアに会ってしまう。
彼女はシアン専属に侍女なだけあって俺との交流も多い。
最近の事だが俺は漫画を造った。
俺が描いた物では無く、俺の前世の記憶から『暴食』で作り出した物だ。
言葉だけこちらの物に変えた漫画だ。
俺はそれをソフィアにも見せた。
ソフィアは漫画にドップリとハマった。
結果、ソフィアの言動が少し痛々しくなったのだ。
ちょっと、そうちょっとだけいわゆる厨二病っぽくなったのだ。
メイド服のまんまだが隠れている部分に包帯を巻いたり、魔術で片目の色を変えてから眼帯を着けたりと見た目も少し変わった。
何より言動も少し変わった。
何というか、見ているこちらが恥ずかしくなるような存在になってしまったのだ。
これにはシアンにも文句を言われた。
厨二病を直そうとしても、もはや手遅れなレベルにソフィアは至ったのだ。
結果、俺はソフィアを厨二病にしてしまった責任感とソフィアの痛々しさからあまりソフィアと会いたく無くなったのだ。
俺が異世界に転生したり魔術やスキルを使ったり角を生やしたりしているからか余計にそう感じる。
俺がシアンの部屋にあまり行きたく無い理由は面倒だったり、忙しいというよりもソフィアに会いたく無いからだ。
「そうおっしゃらずに。最近、ソフィアは益々凄くなっているのですよ? スズもぜひ見にいらっしゃいませ」
「嫌だ! あいつ最近(厨二)仲間を増やそうとしているって聞いたぞ。俺にも眼帯を渡されたし」
「ふふふ、何言っているんですか。眼帯? まだまだ可愛い方ですよ。私なんてフリフリの魔法少女の衣装を着せられましたからね。流石にあれは恥ずかしかったです」
「その、何ていうかごめん」
「いえ」
まあ、こんな感じに王都に来てからも楽しく過ごせたのだ。
これからも楽しく笑って生きていこう。
シアンもいるしきっとそれができる。
前世よりも楽しい生を満喫するのだ。