6 グローリアス家の人達
「ただいま」
俺はシアンとジークを連れて家に帰ってきた。
すぐに母さんが玄関までやってくる。
「お帰りなさい。ジークくんとシアンちゃんも。ってシアンちゃんどうしたの!?濡れているじゃない!?」
俺は母さんに事情を説明した。
「まあ、そうだったの。スズ、よくやったわね。あ、そうだ、スズ、シアンちゃんをお風呂に入れてあげなさい。風邪を引いちゃったら困るわ。」
「わかった。シアンこっちだよ。」
俺はシアンを連れて風呂場に行き、湯船を魔法で水を出して温め、いい感じのお湯にした。
「はい、タオルここに置いておくね。」
俺は風呂場を出て行こうとする。
「あの!」
「どうした?」
呼び止められたので振り向くと、シアンがもじもじししている。
「その、お風呂の入り方わからないです。一緒に入って欲しいです」
あー、たぶんこの子貴族のお姫様だろうしな。知らないけど侍女とかに入れてもらっているんだろ。
「あー、わかった。」
あれ? でも、5歳とはいえ一緒にお風呂はいっていいのか?
この子たぶん貴族のお嬢様かなにかだろ?
…まあ、いいか。
母さんも一緒に入れ的なニュアンスだったし。
俺はシアンとお風呂を出て着替えた。
え? 詳しい描写?
そんなんあるわけねぇだろが、このロリコンどもが!
さて、冗談は置いてといて、居間に行くと両親とジークの他に二人の大人がいた。おそらくシアンとジークの両親だろう。
「お前がスズか?」
赤毛の男が俺を睨みつける。
やべぇ! この人とにかくやべぇ! こう言っちゃなんだけど父さんや母さんよりも遥かにやばい。
「は、はいそうです」
俺はなるべく平静装う。
座っていた男は立ち上がり、俺の目の前まで来る。
え? なに? 俺なんか悪いことした?
そう思っていると男は俺と目線を合わせるようにしゃがみ込み俺を抱きしめた。
「娘を助けてくれてありがとう!」
どうやら少し目つきが悪く見えただけのようだった。
赤毛の男の名前はハッシュバルトと呼ぶらしい。父さんと母さんはハルと呼ぶので俺もそう呼ぶようにとの事だ。
さすがに呼び捨ては無いのでハルさんと呼ぶことにした。
そしてハルさんの妻であるジークと同じ金髪碧眼の女の人はリーシアと呼ぶらしい。
こちらもリーシアさんと呼ぶことにした。
二人ともすごい美男美女だ。
「じゃあ、お昼ご飯作ってくるね」
「ほう、スズが作るのか。その年齢ですごいな。」
「ふふん。それだけで驚くなよハル。スズの料理はとんでもなく美味いからな。」
「それは楽しみだな」
「うん、楽しみにしておいてよ。すごいの作る」
俺は台所に向かうとシアンがちょこちょこついて来た。
「どうしたのシアン?」
「あの、見てていいですか?」
「別にいいけど」
「あ、スズ、僕も見ていていいかな?料理をしているところってあまり見た事ないんだ」
「いいよ。面白いかどうかわからないけど」
俺は二人が見ている中先ほど釣り上げた魚を中心に料理をしていく。
「はい、お待たせ」
「ほう、旨そうじゃないか。匂いも素晴らしい」
「ほんとね。とても美味しそうだわ」
ハルさんとリーシアさんの賞賛を受ける。
まあ、俺の料理だからな。
俺は料理に関しては絶対の自信を持っている。
前世じゃ料理に関して有名になったもんだ。
だてに『調理師』を持っているわけじゃない。
皿も並び終えて、料理を食べる。
うん、美味い。流石俺。
前世で磨き上げた技術に加えてスキルのお陰で、只でさえ圧倒的に上手い料理の腕に拍車がかかっている。
周りを見回すと、みんな一口食べて驚いたような顔をしてその後一心不乱に食べている。
それほど美味いってことだろう。
どんなもんよ!
「これは、すごいな。」
みんな食べ終わって、一息つき、ハルさんが最初に言葉を発した。
「ほんとに、すごいわね。うちの料理長よりも腕が上じゃないかしら?」
続いて言葉を発したのはリーシアさんだ。
「すごいねスズ!こんなに美味しいものは初めてだよ!」
「スズ!美味しいです!」
それを追うようにジークとシアンが感想を述べる。
両親はドヤ顔だ。
その後は両親がハルさんやリーシアさんと冒険者をしていた時の昔話を聞いたりジークやシアンと遊んだり今度は夕食を作って食べたりして時間を費やしてあっという間に夕方になった。
「さて、そろそろ帰ろうか。」
「そうね。ジーク、シアン、帰るわよ」
「わかりました母上」
今は夏だからまだ明るい、でもこんな時間から村の外にでるの!? って思ったけど、どうやらリーシアさんが転移魔術を使う事ができるらしい。
魔術ってすげー。
ただ、少し広い場所が必要らしく俺たちは村の広場に向かった。
その間何を気に入ったのかシアンはずっと俺の手を握っていた。
一通り別れの挨拶を終えてリーシアさんは転移の魔法を発動しようとするがシアンは俺の手を離さない。
「シアン、スズちゃんの手を離してこっちに来なさい」
リーシアさんが呼びかけるが、シアンは動かない。
「シアン?」
「やー」
「え?」
「やだーーーーー、スズともっと一緒にいるのーーー!!」
シアンは俺の手を強く握って泣きはじめた。
えー、どうすればいいんだよ。
「シアン!スズちゃんが困っているでしょう早くこっちに来なさい」
「やーーーーー!」
「シアン!」
リーシアさんが怒るがそれでもシアンは俺の手を握ったまま動じない。
「あらあら、じゃあこうしましょう。スズがそちらにお泊りすればいいのよ。」
名案だわ、とでもいう感じに母さんは言った。
「そうだな、スズはこの村から出た事無いしいいんじゃないか?」
父さんも便乗してきた。
確かに村から出た事ないな。
「あらそう?スズちゃんはそれでいいの?」
リーシアさんの問いに俺は頷いた。
村の外には興味あるけどそれ以前にこのままだとシアンが手を離してくれなさそう。
「シアン、スズちゃんは来てくれるそうよ。それでもまだここに残る?」
「ううん。私もかえる」
さっきまでの大泣きはなんだったんだってくらいシアンは元気よくリーシアさんの側まで俺の手を引っ張って行った。
「はっはっは。スズには美味い飯を食わせて貰ったからな。今度はこちらが持て成そう」
「スズ!後でまた話をしよう。」
俺は頷いてから両親の方を向いて。
「じゃ、行ってくるね」
と言うと転移の魔法が発動した。
一瞬空間が揺らいだと思うとすでに広い中庭のような場所だった。
んー、かなり複雑な術式だ。
あと一回くらい見せてくれたら転移使えそうかな。
そう思って辺りを見回すと貴族のような人がこちらに向かって跪いていた。
「おかえりなさいませ陛下!」
「へ、陛下?」
俺はハルさんの顔をバッと見上げるとハルさんはイタズラに成功したような顔をしていた。
「ああ、お前には言っていなかったな。俺はグローリアス王国の国王。ハッシュバルト・グローリアスだ」
「えぇーーー!」
俺のびっくりした叫び声が中庭に響きわたった。
だって普通の貴族位だと思ったんだもん。
まさか両親が一緒に冒険者をしていたのが国王だとは思わなかったんだもん。
あれ?てことは、リーシアさんは王妃でジークは王子?シアンはガチなお姫様?
その後リーシアさんに転移魔術を教えてもらい使えるようになった俺はたびたび城に呼び出されるようになった。