52 アルマとシアン
前回のあらすじ
レヴィア「しばらくこの子を預かっていて」
「というわけでアルマは屋敷でシエルたちと遊んでいるよ」
俺は今、アルマを屋敷に連れて来てから王城に向かい、ダンジョン調査の結果をハルさんに報告している。
「まさか、ダンジョンがそのようにして生まれるとはな」
「多分、アルマも神王クラスの存在だ。下手に手出さないほうがいいぞ」
「わかっている。彼女はお前に任せる。海神王様からもそう言われているのだろう?」
そうなんだよな。
はあ、最近トラブルに巻き込まれること多いな。
屋敷に帰ると、予想通りアルマはシエルと遊んでいた。
アルマはこの屋敷に来てからずっとはしゃいでいる。
「ここには何でもあるのじゃ!」
と言ってすごく嬉しそうである。
シエルとの仲も良好だ。
あまり、年下と接した事が無いのか嬉しそうにお姉さんぶっている。
年齢的にいったら俺のほうが遥かに年下なんだろうけど、見た目通りの精神年齢なのだろう。
年下って感じしかしないし。
「わははは、楽しいのじゃ。シエルもなかなか良いしのう。シエルは妾の妹分にしてやっても良いのじゃ」
「そっか、良かったなシエル」
「あのね、アルマお姉ちゃんは優しいし、何でもできるんだよ!」
「わははは、そうだ、妾は優しいのだ!」
アルマはシエルからお姉ちゃんと呼ばれ、優しいと褒められて気分が良いようだ。
「そう言えばさ、アルマは何で旅しているんだ?」
20年もレヴィアの元へ帰らずに旅していたみたいだし、何かあるのだろうか。
「そうじゃの、とあるモノを探しておるのじゃ」
「とあるモノ?」
「うむ。妾にもそれが何なのか分からぬ。それが物なのか人なのかも分からぬ」
「なんだそりゃ」
「実際に目にすれば分かると思うのだがの」
探している物がわからない探し物って。
まあ、そんな事もあるのかな?
「じゃから、それを探して旅をしておるのじゃ。ついそのまま何十年もレヴィアに連絡を寄こさずにおると今回みたいに怒られるのじゃがな」
そう言うアルマは少しゲンナリとしていた。
「レヴィアの所に住んでいるのか? あいつも引き取りに来るって言っていたし」
「まあ、そのようなものじゃ。ある意味親みたいなものじゃ。おかげでよく怒られるがの」
ふーん、そうなんだ。
まあ、レヴィアもアルマの事を心配していた感じだし、確かに親子みたいだな。
「スズ、お邪魔しますよ」
シエルと遊んでいるアルマと話していると、シアンがやって来た。
「む、誰か来たのかの」
ちょうどシアンに背を向けていたアルマは振り返った。
「あ、あ、あ、あ……」
シアンを目に納めたアルマは信じられない物を見るかのように目を開いてシアンを凝視している。
どうしたんだ?
「お、お主、名は?」
「えっと、私ですか? 私はシアンですよ。あなたがアルマ様?」
「そ、そうじゃ。いきなりですまぬが、何か歌を歌ってはくれまいか?」
アルマは心の底からお願いしているように見える。
まるで長年の目的が成就する可能性があるかのように。
「えーと」
「シアン歌ってやってくれ」
「そうですね。わかりました」
シアンは、こほんと咳払いを一つして歌い始める。
シアンは歌うのがとても好きだ。
よく小さい頃から歌を歌っている。
ユニークスキル『歌姫』を保有するほどだ。
そんなシアンの歌う歌はとても素晴らしい。
綺麗な歌声が心にまで響き渡る。
前世でもここまで素晴らしい歌い手はいなかった。
俺はシアンは世界一の歌い手だと本気で思っている。
シアンの歌はそれほど素晴らしい。
「ふう。いかがでしたか?」
一曲歌い終えた。
相変わらず良い歌だ。
ふと、アルマを見る。
彼女は泣いていた。
懐かしそうに、そして嬉しそうに泣いていた。
心の底から求めていた物が手に入ったかのように嬉しそうに泣いていた。
「やっと見つけた」
そう呟いて、アルマはゆっくりと歩み寄り、シアンに抱きついた。
「えっと、アルマ様?」
「すまぬ。すまぬが少しだけこうさせてはくれまいか」
シアンはアルマの様子に心打たれたのか慈愛の目をしながらギュッと抱きしめた。
「さっき、やっと見つけたって言っていたけど、アルマの探し物ってシアンなのか?」
紅茶を飲みながらアルマに聞く。
今は、テーブルに着いておやつを食べている。
ちなみに何故かアルマはシアンの膝の上に座っている。
それに対抗してかシエルは俺の膝の上だ。
「うーむ。妾でもよく分からないのだがそうと言えばそうだが、違うと言えば違うの。強いて言えば、それに限りなく近い存在と言った所かの」
うーん、あんまり言っていることが分からん。
おそらくアルマの探し物は人だ。
アルマは分かっているだけでも20年、おそらくそれよりも遥かに長い間探している。
俺たちが生まれるよりもずっと前からだ。
そう考えるとアルマの探し人がシアンっていうのはおかしいな。
アルマの探し人に限りなく近い存在。
アルマの探し人は『歌姫』の保有者か?
「シアン、これは美味いのう。こんなに美味い物は初めてじゃ」
「ふふふ、そうですか。全部スズが作ったものですよ」
「そうなのか!? スズ、お主すごいではないか! あ、あれも美味そうなのじゃ! シアン、食べさせておくれ」
「仕方ありませんね。はい、あーん」
「あーん」
仲良いな。
アルマも甘えてるみたいだし。
まるで母親に甘えている娘みたいだ。
結局、アルマの探し物は分からないままだが、アルマは満足しているみたいだしそれでいいか。
それからアルマは俺の料理をたくさん食べたり、温泉で大はしゃぎしたり、シエルと遊んだりして数日間屋敷ですごした。
さすがに温泉は一緒に入っていないからセレスから聞いただけだけど。
中でも、シアンといると嬉しそうにしていた。
「世話になったわね」
そんなある日、レヴィアが突然やって来た。
「アルマ!」
「レ、レヴィア、久しいの」
レヴィアと対面したアルマはとても気まずそうな顔をしている。
まあ、20年も会ってなかったもんな。
実際に会ったらそりゃそうなる。
「もう! 心配したのよ!」
「す、すまぬ」
「まあ、いいわ。帰ってからたっぷり説教するから」
「堪忍しておくれ〜」
情けない声を出すなよ。
「すぐに帰るのか?」
「そうね。やる事はあるし帰ろうかしら」
「えー、妾はまだここに居たいのじゃ」
アルマはワガママを言うがレヴィアにひと睨みされ、諦めたようだ。
「仕方ない。ここは帰るとするかの。ただ、最後にシアン、歌を歌ってくれないかの?」
「ええ、いいですよ」
シアンはアルマの要望に応えた歌を歌った。
「ああ、なるほど」
一緒にシアンの歌を聞いていたレヴィアは何か納得したようだ。
「どうした?」
「いえね、アルマの探し物がなんとなく分かったから」
「それは?」
アルマの探し物、探し人についてはずっと気になっていたのだ。
どうやらシアンの歌を聞いて付き合いの長いレヴィアは分かったらしい。
やはり歌に関係があるのかな。
「うふふ。今は秘密よ。あなたならそのうち分かるわ」
「なんでお前はそんなことばっか言うんだ?神様は時期をみないと喋れないのか?」
「そんな事無いけど、あなたならそのうち知ることができる可能性があるのだからネタバレするよりはいいじゃない」
うーん、気になる。
でも、レヴィアは喋ってくれ無さそうだし。
「さて、そろそろ帰るわね。歌、素晴らしかったわ」
「ありがとうございます」
そう言ってからレヴィアはアルマを連れて屋敷を出て行こうとする。
「あ! 少し待つのじゃ!」
アルマは思い出したかの様に俺たちの所まで戻ってきた。
「世話になったからの。これをやるのじゃ」
ポンと俺に白い宝石のような球を渡す。
「妾はまた来るのじゃ!」
と宣言して今度こそ去って行った。
何だか嵐のような奴だったな。
たった2話で帰ってしまったアルマさん。後でちゃんと出番があります。