51 迷宮皇女
前回のあらすじ
ハル「ヤバいダンジョンが出現。調査してこい」
「ここが、ダンジョンか」
ハルさんに依頼されて翌日、俺はダンジョンに入った。
初期のダンジョンという事で最初は挑戦者も多かったそうだが、あまりの難易度にほとんどの者が挑戦しなくなった。
未だに攻略しようとするのは噂になっている難易度を信じない者達と実力を勘違いしている者達だけだ。
逆に言えば、いないわけではない。
もっとも、その者達はダンジョンから出てこないのだが、二度と。
そんなバカ達の仲間入りしないように頑張りますか。
俺はダンジョン内をひたすら進む。
道中現れる魔物も無視して進む。
誰も俺に追いつけない。
正面に現れた魔物だけ邪魔なので切り裂いて進む。
それでも俺の進行の邪魔にはならない。
それにしても、確かに異常だな。
第一層から情報通りA、Bランクの魔物が出てきている。
中には美味しそうな魔物もいるので狩りたいが、今回の目的はダンジョンの調査だ。
帰りに時間があれば少し捕獲していこう。
第一層〜第十層まで順調に突破していく。
時間も大してかかっていない。
第十層に倒さないと奧に進む扉が開かない、いわゆるボス部屋があったので戦闘をした。
Sランク相当のヘビがいた。
明らかに過剰戦力である。
もっとも少し時間がかかったくらいで突破した。
ヘビはおいしく『暴食』でいただきました。
その後も順調に進んで行き、第五十層まで来た。
この辺りはもう異常過ぎた。
ボスではない、普通にダンジョンを徘徊する魔物のランクはA〜S。
それが一度に数体出てくる事もざらであった。
普通に攻略しようと思ったら俺でもそこそこ危険であった。
もっとも、今回は調査であるためほとんど相手にしなかったが。
そして、第五十層のボス部屋に到達。
第五十層のボスは強かった。
純白のドラゴンだった。
魔力量にして準魔王クラス。
今まで戦ってきた魔物の中で、キデンサーや古代金剛亀竜の次くらいには強かった。
ボス部屋に入った瞬間、部屋を埋めるくらいのとても大きく強力なブレスを吐いてきたが強かった。
長い間吐き続けたので魔力の半分くらいは使っただろうが強かった。
『暴食』で捕食して、ブレスを完封、その後、"空切"ではなくて、狂鬼の食斬刀"万華"を使って生きたまま調理、下ごしらえした。
鱗を剥ぎ取ったり血抜きしたりした。
最初のブレスが俺に効かなかった時点で俺の勝利は確定していた。
初見殺しもあって、ハルさんなら少し苦戦していただろうな。
その点、俺はブレスがきかないので完封できた。
しかも、純白のドラゴンは最初のブレスで消耗していたので、ブレス後の戦闘は楽だった。
生きたまま下ごしらえできるくらいには。
あれは戦闘ではなく調理だった。
今日の夕飯はドラゴンステーキだな。
さてと、奧に進むか。
これ以上階層がないといいんだけど。
扉を開ける。
とても大きくて豪華な扉だ。
今までで一番豪華な感じだ。
「ほう。妾のダンジョンを攻略したのか。お主やるではないか!」
扉の先には12〜13歳くらいの女の子がいた。
「誰?」
「む? 妾か? 妾は、迷宮皇女アルマ・テラスぞ。ひれ伏せい!」
アルマと名乗った少女は膨らみかけの小さな胸を突き出して偉そうに言う。
ていうか、アルマって確か。
「お前はアルマなんだな?」
「様をつけい。妾は偉いのだぞ!」
「ああはいはい。ところで、レヴィアが探していたぞ」
「なに? 本当か?」
「ああ、ちょっと待って」
俺は宝玉のような魔道具を取り出して起動する。
「もしもし?」
『あら、その声はスズかしら?』
宝玉からレヴィアの声が聞こえてくる。
簡単に言うと電話みたいなものだ。
以前、レヴィアに貰ったのだ。
その時に、もしアルマを見つけたら連絡してくれと言われていた。
さすがはレヴィアが持っていただけのものはある。
異界とも言えるダンジョン内からも通話できるとは。
『ところでその"もしもし"ってなにかしら?』
しまった、つい前世の癖で。
「いや、何でもない。それよりもアルマが見つかったぞ」
『本当!? 今そこにいるの!?』
「あ、ああ。代わろうか?」
『ええ、お願い!』
宝玉をアルマに渡す。
「ひ、久しぶりじゃのレヴィア」
『あなた! 20年間もどこほっつき歩いてるのよ!』
「ひっ」
宝玉から大きな声が溢れてくる。
レヴィアとアルマの関係は知らないが少なくともただの知り合いってことはないだろう。
レヴィアは心配しているような感じだし。
『探し物があるのは分かっているけど、せめて連絡くらい寄越しなさいよ!』
「す、すまぬ」
その後も10分くらいアルマはレヴィアと話し、いや、説教されていた。
「スズと言ったかの? レヴィアが代われと」
アルマはレヴィアの説教によって泣きそうな顔をしながら俺に宝玉を渡してくる。
「代わったぞ」
『はあ、スズ、アルマを見つけてくれてありがとうね』
「いや、偶然だしいいよ」
『それで迷惑ついでにしばらく引き取ってくれないかしら?』
「はあ!?」
なに言ってんだこいつ。
しかもしばらくって、まさか年単位じゃないよな?
『ほんの数日だけでいいのよ。後で迎えに行くから』
「……まあ、それくらいだったらいいけど」
『本当? ありがとね』
それから少しレヴィアと話してから通話を切った。
「それで、レヴィアに引き取れって言われたんだけどアルマはそれでいいのか?」
「だから様をつけいと……まあ、レヴィアも認めている様だから特別に許してやろう。それで、妾はここにいてもいいのだが、他に住む場所があるのならそこでもよい」
「そっか。じゃあ、しばらく俺の家に泊まるといいよ」
気分は親戚の子供が家に泊まりにくるである。
まあ、前世ではそんなこと無かったけど。
て言うか、あいつら嫌いだし家にすら入れさせん。
もうあいつら死んだかな?
確認する術は無いが、死んでいたら笑ってやってもいい。
「ところでずっと疑問に思っていたのだけど、何でお前はこんな所にいるんだ?」
「うぬ、それは妾が迷宮皇女だからじゃ」
アルマ曰く、このダンジョンはアルマが作り出したものらしい。
アルマはとあるモノを探しており、世界中を旅している。
寝床としてダンジョンを作り出しているみたいだ。
「じゃあ、ダンジョンってのはお前が作り出したモノなのか?」
「半分正解じゃの」
ダンジョンには基本的に三種類ある。
一つ目は、アルマが直接作り出したモノ。
二つ目は、アルマが作り出したダンジョンを作ることができる宝玉、つまりダンジョンコアを使って作り出したモノ。
三つ目は、アルマがダンジョンを作り出した跡地だったり、長い時間その土地にいる事でアルマの魔力がその地に溜まって自然的に作り出されたモノだ。
上から順にダンジョンとしての性能は劣化していくらしい。
そして、一番多いのは当然ながら3つ目だそうだ。
「でも、ダンジョンコアを操作できるなんて聞いた事ないぞ?」
「あんな不安定な物でダンジョンなんて作り出せるはずなかろう。三つ目のダンジョンは半分ゴーレムみたいな物でだし、せいぜいちょっとしたエネルギー源になるくらいであろう」
そうなんだ。
なんか世界の秘密の一つを知ってしまった気分だ。
それにしても、最近とんでもない奴に会う事多いな。
レヴィア然り、アルマ然り。
アルマに最初出会った時もやべぇて思ったからな。
アルマは神王では無いがそれ並みの力を感じる。
ダンジョンを作り出すなんていうとてつもない能力を持っているしな。
出会って即、死ね、なんて事にならなくてよかった。
「さて、そろそろ屋敷に戻りたいのだけどいいか?」
「うむ。あちらから地上に出られる」
「ショートカットなんてあるんだ」
「当然であろう。いちいちここまで行ったり来たりするのなぞ面倒すぎる」
「ところでこのダンジョンはどうなるんだ?」
「もう、ここには戻ってこぬので破棄するのじゃ」
「このダンジョンは無くなるってこと?」
「うむ。まあ、そのうち自然にダンジョンになるかもしれぬがな」
まあ、ダンジョン跡地だしね。
俺とアルマはショートカットで地上に戻り、屋敷に移動した。
地上に出ると朝だった。
ダンジョン調査に結構かかったみたいだ。
いや、あんな難易度が振り切ったようなダンジョンを1日程度で最奥まで行けたのだから十分早いか。
一人で行って良かったよ。