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49 シエルの大暴れ

「はあー、楽しかったです」


 グローリアス家プライベートビーチでの滞在が終わった。

 確かに楽しかった。

 今世初の海だったし、海の幸も美味しいかったし、たくさん捕獲することもできたし。

 まあ、半分くらいくらいレヴィアとの訓練になってしまったけど。


「それにしてもまさか海神王様が来るなんてね」

「本当にな」

「半分スズが連れてきたようなものじゃないですか」

「そう言われてもな、俺はただ逃げてきただけだぞ? その後はハルさんに会いに来たみたいだし」

「でも、スズが海神王様に会ったのが最初の原因だよね」


 ぐぬぬ、人をトラブル体質みたいに言いやがって。


「ジークだってレヴィアに目かけられてたじゃん」

「あはは、スズや父上ほどじゃないよ。なんとか合格点っていったところじゃないかな?」


 ジークはこう言うが、レヴィアはジークの事を結構評価していたと思う。

 俺とハルさんは確実に目をつけられている。

 次いでシエル。

 その次にシアンとジークってところかな。


 レヴィアはシエルの特殊性を見抜いていた。

 まあ、口外無用と言っておいたし了承もしてくれたが。

 あんまりシエルに種族について知っている者はいない方がいいんだけどな。

 ハーフエルフにして真祖の吸血鬼。

 そんな存在が知られたらやばすぎる。

 知っているのは俺達ロゼリア家と村の人達。

 そして、グローリアス家だけだ。

 爺や、セレス、ジークの婚約者あるティリアですら知らない。

 まあ、爺やとセレスあたりは気がついているかもしれないけど、あの二人は賢いので大丈夫だろう。

 俺の妹であるシエルの不利益になるような事なんてしない。

 シエルの存在は絶対にそこから漏れてはいけない。

 もし、他国に漏れたら大変な事になる。

 レヴィアには知られてしまったが。


 まあ、レヴィアはシエルの種族うんぬんも含めてだけどシエル個人に力を感じているのだろう。

 つまり、シエルを手に入れようと思ってはいないはずだ。

 手に入れようと思っていたら力尽くで手に入れる事ができただろうし、しなかった。

 それどころか、万が一、他国にシエルの存在がバレた時、保護すらしてくれる可能性があるだろう。

 将来、貴重な戦力になり得る存在を、たかが人の国なんかで利用するなんて! って思っているだろうから。

 だから、シエルの事に関してはある程度信頼できるだろう。

 レヴィアにシエルの事がバレたのはむしろ僥倖だと思おう。



「はあー、久しぶりの王都です」


 というわけで、また1日ほどかけて王都に帰ってきた。

 今回は何事もなく帰ってこれた。

 俺たちは別れてそれぞれの家に戻る。


「「おかえりなさいませ」」

「ただいま。あ、これお土産ね」


 出迎えてくれた爺やとセレスにお土産を渡す。


「あ、そうだ。父さんたち、あとどれくらいこっちにいる?」

「そうだな。2日くらい世話になっていいか?」

「いいよー」


 それから2日、王都を観光したり、買い物したりして過ごした。


「じゃあ、村に送るよ」


 転移魔術で父さんたちを村に送り届けようとする。


「シエル、スズの手を離してこっちに来なさい」


 すでに術式は構築しており、父さんたちの足元には魔法陣が現れている。

 ただ、そこにはシエルがいない。

 先程からずっと俺の手を握っており、離そうとしない。

 あれ?

 なんかデジャブな感じが。


「シエル?」

「やー」

「え?」

「やだーーーーー、お兄ちゃんともっと一緒にいるのーーー!!」



 うわぁ、やっぱり。

 初対面のシアンの時も俺から離れて帰ろうとせんかったなあ。

 でも、シエルはシアンとは違った。

 なんと、俺の手を離してそのままどこかへ駆けていってしまった。


「「シエル!」」

「爺や、頼む」

「かしこまりました」


 俺の意図を察した爺やは闇に紛れる様に消えていった。

 影からシエルを守ってくれるだろう。


「はぁ、とりあえずシエルの事は俺に任せておいて。数日くらい預かるよ」

「そう? ごめんね迷惑かけちゃって」

「すまんな」

「ううん、いいよ。たぶん数日もしたら寂しくなって帰りたいっていうだろうしその時に連れて帰るよ」


 そういう事で先に父さんと母さんを村へと送る。


「クゥーン」


 ソラは俺の足元に寄ってきて顔を擦り付けてくる。

 シエルが残るのでソラも残る事になった。

 たぶん早くシエルを迎えに行こうと言っているのだろう。


「わかったわかった。ソラは留守番しててくれるか?」

「ウォン!」


 ソラは任せろ! といった感じに吠える。

 さて、シエルを迎えに行きますか。


(爺や、シエルは今どこらへん?)

(位置情報を送ります)


 爺やから魂の回廊を通してシエルの位置情報が送られてきた。

 わあ、結構逃げたな。

 シエルには幼い頃から魔力制御の練習をさせてきた。

 暴走しないように。

 だから上手い事魔力が制御されていて遠く離れていては感知しにくい。

 爺やを送っておいて正解だったな。


 ー▽ー


 シエルは駆けている。

 いや、逃げている。

 数ヶ月前家を出て行ってしまった大好きな兄。

 その兄と再会する事ができたのだ。

 しかも海に遊びに連れて行ってくれた。

 同い年の友達もできた。

 しかし、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎた。

 村へ帰らなくてはいけないようになった。

 また、大好きな兄と別れなければいけないようになった。

 シエルはそれが嫌だった。

 だから逃げ出した。

 王都にいる限り村に帰らなくていいから。


 シエルは王都内を駆ける。

 目的地なんてない。

 逃げる事が目的なのだから。


「へっへっへ、嬢ちゃん一人か? お父さんやお母さんはどうした? 迷子ならおじさんたちと一緒にくるかい?」


 シエルは適当に走り周っていたら複数の男に道を塞がれた。

 簡単に言うと人攫いだ。

 シエルはとんでもない美少女である。

 そんな美少女が人気の少ない所になんかにいたら悪い大人に捕まってしまう。

 いくら以前スズが人攫いの組織を潰したといっても全てが無くなるわけじゃない。

 ただ、男たちにとって不幸だったのは目の前の少女がシエルだという事だ。


(む、この人たちはきっと悪い人。こういうのに出会ったら遠慮しなくていいってお兄ちゃんが言ってた)


「おじさんたち邪魔ーー!!」

「「「ぎゃーーーーー!!」」」


 シエルはハーフエルフにして真祖の吸血鬼。

 いくら子供といえど男たち程度に止められるものでは無かった。

 シエルは男たちを魔力波によって吹き飛ばし、包囲を抜けて、また駆けていく。


「な、なんだあいつ、化け物か!?」


 男たちは小さな少女、シエルの力に驚愕する。

 しかし、男たちの不幸はこれからだった。


「よう」


 男たちは突如現れた男に気づく。

 黒目黒髪の美しいとも思える男であった。

 もちろんスズの事である。


「お前らさっき、シエルを攫おうとしたよな?」


 スズの額には青筋が立っている。

 そして、その怒りの覇気に当てられた男たちは震えるだけで何もできなかった。

 考える事も動く事も。

 只々恐怖に震えるだけだった。


「まあ、こんなところで殺すとこの街が汚れてしまうからな。でも、この先まともに生きていく事ができると思うなよ?」


 そして、鬼王の妹を攫おうとした男たちは悲惨な目に合い、この先の人生をまともに生きていく事ができなくなった。

 具体的に言うと、スズの能力で神経配列が作り変えられて、右手を動かそうとすれば左足が動くなど、まともに動く事もすらできない体に作り変えられてしまったのだ。

 スズはシエルを追わないといけないため、この程度で済んだのだ。

 男たちにとっては人生最大の不幸であったが。


 その後もシエルの快進撃は続く。

 誤ってスラムに入り込んだり、再び自身を攫おうとした者達を倒したり、その時、力を込め過ぎて近くの家を吹き飛ばしてしまったり、その家が犯罪組織の巣であり、地下に存在する大量の麻薬が丸裸になったりした。

 その都度、スズによって制裁が加えられたり、セレスを通してハルやエシェントに犯罪組織について通達されたりした。

 期せずしてシエルの逃走は王都の治安向上に繋がったが、シエルはそんな事は知らない。

 スズの屋敷から逃走して約二時間後にシエルはスズに捕まった。

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