5 釣れた少女
「よし、釣れた」
目当ての魚が釣れた。
これで数が揃った。
今日は両親が昔冒険者をやっていたころ、一緒にパーティーを組んでいた友人の家族が来るらしい。
ならばと俺は昼食のために魚を釣りに来たのだ。
必要な数が釣れたので道具を片付けようとした時、上流からちいさな女の子が流れてきた。
え、え?なんで?どうしよう?助けなきゃいけないよな。
よし。
俺は持っていた釣竿を操作して流れて来ている女の子の服に針を引っ掛けてこちらに手繰り寄せた。
「ケホッケホッケホッ」
幸い女の子の意識はあるみたいだ。
たぶん俺と同い年の女の子だ。
確か今日来る人達の中に俺と同い年の子がいるって言っていたな。
たぶんこの子だろう。
やべぇ、なんで上流から流れてきたんだ?
わけわからん。
落ち着くのを待って聞こう。
「うぇええええええん!」
泣き出した。
どうすればいいんだ。
いくら前世の記憶があっても今世じゃ同い年の子供どころか子供自体はじめて見るのにハードル高くないか?
いや、妖精達は子供みたいなものか。
うーん、だったら。
俺は以前作った飴玉を取り出して、女の子の口に押し込んだ。
すると女の子は一瞬ビックリしたように震えたが、すぐにパァと顔を光らせた。
「おいしい!」
よかった、泣き止んだ。
ー▽ー
「それで、なんで流れてきたんだ?」
俺はタオルを出して濡れていた女の子を拭いている。
「あのね、わたしはお兄様とスズ様を迎えにきたです。でもね、わたし、あっちで足を滑らせて川に落ちちゃったです。あなたがスズ様?」
なるほどね。
思ったよりも早く来たみたい。
「そうだよ。ああ、様はいらないよ。スズでいい。君は?」
「わかりましたスズ。わたしの名前はシアンです。」
「わかった。よろしくシアン。」
俺は握手を求めて手を差し伸べた。
「よ、よろしくお願いします。」
シアンは少し顔を赤らめて俺の手を握った。
ふっ、惚れられたかな?
俺ってば何故か前世と同じ容姿だし。
天使みたいとか言われて幼い頃誘拐されたことある位の整った容姿だからな。
しかたないよ。
ちなみに、誘拐された時は紐で拘束されたけどがんばって脱出して最寄りの交番に駆け込んで助かったのだ。
と、冗談は置いといて。
「さて、君のお兄さんを探しに行こうか」
「お兄様の居場所がわかるのです?」
残念ながら俺の知覚範囲にはいないから正確にはわからない。
だけど。
「シアンは川に落ちるまでお兄さんと一緒にいたんだろ? だったら川の上流に向かっていけばいいよ」
俺は荷物を『捕食者』で捕食して保管した。
『捕食者』はいわゆるアイテムボックスのように使うこともできるのだ。
「ほら、シアン行こう」
俺は上流に向かって歩き出す。
「あ、まって!」
シアンは急いで俺の側まできて、俺の手をとった。
さっきまで溺れ掛けていて怖かったのかな?
仕方ないので俺はシアンの手を握り返した。
ー▽ー
「ーーーアーーン! どこだーーー!」
少し歩くと大声が聞こえてきた。おそらくシアンのお兄さんなのだろう。
「お兄様の声!」
どうやらシアンにも聞こえてきたらしい。
シアンは俺の手を引っ張って声のする方へ走っていく。
「お兄様ーー!」
「シアン!」
シアンのお兄さんと思われる少年が目視できるようになるとシアンは俺の手を離しさっきよりも早く走り少年に抱きついた。
「シアン! どこに行っていたんだ! 心配したぞ!それに濡れているじゃないか!」
「ごめんなさい」
シアンは少年に怒られてシュンとしている。
それにしてもすごいな。
まだ7歳くらいだけど物語の王子様みたいな容姿だぞ。
流石異世界すごい!
俺も二人の側まで行き少年は俺に気付いたようだ。
「君は、スズかい? 二人とも一緒のようだったが何があったんだい?」
「そう、僕はスズ。で、シアンだけど…」
俺は少年に何があったか説明した。
「そうか。スズ、妹を助けてくれてありがとう。」
「いや、いいよ。僕を呼びに来たんだろ?その結果起こった事故だし。こちらこそごめんね。えーと…」
「いや、いいんだ。そういえば自己紹介がまだだったね。僕はジークハルトだよ。気軽にジークって呼んでくれ」
「わかった、ジーク。改めてスズだよ。よろしく。」
「あ、私もじこしょうかいする! 私はシアンです!よろしくお願いします!」
一通り話し終えた俺たちは帰路に着いた。