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45 船釣り

「よし、今日は釣りに行くぞ」


 ハルさんの提案で釣りに行く事になった。

 グローリアス家の所有する船に乗って少し沖で釣りをするみたいだ。

 釣りかー。

 船に乗っての海釣りは初めてだな。


 というわけで出航!

 船は順調に進んでいき、ポイントに着いた。


「うううう。気持ち悪い」


 問題があるとすれば、クレセナが船酔いしたくらいだ。

 サーフィンの事といい、船酔いといい、海に来てクレセナは欠点ばかり晒しているような気がするな。


「ほら、これでも飲むといいよ」


 俺は酔い止めの薬を取り出してクレセナに渡す。

 たった今『暴食(グラ)』内で調合した物のだが効果は優れている。

 何しろ俺が調合したやつだからな。

 薬を飲んだクレセナはしばらくすると、死にそうなほど真っ青になっていた顔が生気を取り戻した。


「ああ、スズくんありがとうございます! スズくんは私の神様です!」


 なんて大げさな。

 そんな時、俺に向かって手を組んで拝んでいたクレセナの前にシアンがズイッ前にと出てきた。


「いくらクレセナさんでもスズは渡しませんよ!」


 何言っているんだこいつは。


「別にスズくんを取ったりしませんよシアン様。私にはちゃんとミラルドくんがいますから。いくらスズくんが賢くて強くてお金も持っていてイケメンで薬をくれるような人でも……あれ? スズくんの方が優良物件?」

「クレセナ!?」

「冗談ですよ。ミラルドくんも嫉妬しない」


 クレセナは調子を取り戻したようでケラケラと笑っている。


「さて、元気になった事ですし、じゃんじゃか釣りますよ!」


 クレセナは釣竿を持って意気込む。


「あ、クレセナ待って」

「ん? どうしました?」

「さっき渡した薬、効果を確かめる為の簡単な物だったからもうすぐ酔い止めの効果が切れる」


 俺がそう言った瞬間、ちょうど薬の効果が切れたようでクレセナの顔が青くなっていく。


「そ、それを早く言ってくださいよ」


 クレセナはそう言って気持ち悪そうにしながら倒れてしまった。

 うーん、やっぱり海に来てからダメな子になってしまっているような気がする。



「ふう。楽になりました。今度の薬はすぐに切れませんよね?」

「ああ、少なくとも数時間は持つよ」

「なら安心です」

「じゃあ、そろそろ釣りを始めようか。他の人達は始めているし」

「だね」


 みんな釣竿を持って甲板に向かう。


「おお、もう結構釣れているな」


 すでに釣りを始めていた人たち、特にハルさんと父さんがたくさん釣っている。


「なんかね、お父さんとハルさんが勝負を始めちゃったの」


 シエルがテコテコとやって来た。


「勝負?」

「うん。どちらがより大物を釣れるかだって」


 ああ、なるほど。

 それであんなに真剣なんだ。


「だったら、みんなで勝負しません?」

「勝負?」

「はい。一番大物を釣った者が勝ち。一番小物を釣った者が負け。」

「ほお。それはおもしろそうだな」


 シアンの提案にハルさんが食いついた。


「勝者は敗者になんでも一つ命令する事ができる権利を与えるのはどうだ?」


 しかも、罰ゲームまで付け始めた。


「いいんじゃないか」

「おもしろそうね」


 などなど、みんな肯定的な意見だ。


 というわけで、急遽始まってしまった釣り大会。

 ルールは簡単。

 制限時間2時間で一番大物を釣った者が勝者。

 一番小物を釣った者が敗者。

 勝者は敗者になんでも一つ命令する事が出来るというものだ。

 ちなみに、シエルとフェルミナはハンデとして二人一組になっており、罰ゲームも無しだ。


「それじゃ、みんな準備はいい? それでは、スタート!」


 ジークの宣言と同時にみんな釣竿を振るう。


 ーーザバァンッ!!


 ものの数秒で水しぶきを上げて魚が釣れた。

 100センチメートルを超えるスズキっぽい魚。


「はい、一匹目」


 釣ったのは俺だ。


「はやっ!」

「しまった。そう言えばスズは釣りが得意だった」

「家でも良く釣りをしていたものね」


 そう、俺は釣りが大得意だ。

 故郷でも海では無いが良くやっていたし、感知能力も高いので大きな魚がどこにいるか手に取るようにわかる。

 それに餌を作り変え、昇華させてより良い餌にしている。

 俺は『暴食(グラ)』の所有者。

 獲物を捕らえる事なんてわけ無いことだ。


「っと、僕も釣れたね」


 次いでジークが90センチメートルほどの魚を釣り上げた。

 ジークもジークで何でもそつなくこなす。


 今回の釣り大会で警戒すべき相手は3人だ。

 一人は今釣り上げたジーク。

 ジークの『見聞者』による感知能力と解析能力は危険である。

 獲物に合った誘いをしかねない。


 次にシアン。

 シアンもソナーを持ち合わせているし、何だかんだと運が強い。

 きっと大物を釣り上げるだろう。


 そして母さん。

『浮遊者』の能力で糸や針を自在に操る事が出来るので誘いの技術は一級、水中で強引針を魚に刺すことだってできるだろう。

 また、この能力で海面付近まで獲物が来たらそのまま浮かす事も出来るので逃す事も無いだろう。

 後は、ハルさんや父さんも釣りは上手いけど3人ほど警戒すべき相手ではない。



 1時間半経過。

 トップは俺で次いでジーク、シアン、母さんだ。

 このまま何事も無ければ俺の勝ちだ。

 すでに何匹も大物を釣っている。

 一般家庭で何食分になるのやら。

 多分大半は俺の腹の中になるだろうけど。


「あわわわわ。どうしようこのままじゃ負けちゃう」


 ちなみに最下位はクレセナだ。

 釣ったのも10センチメートル程度の名も無き小魚だ。

 他の人も30センチメートル〜50センチメートルといったところだ。

 狙って大物を釣り上げる俺たちが異常なのだろう。


「ふっふっふ。このままだと俺の勝ちだな。何の命令をしようかな」

「まだ、時間はありますよ! 私はここから一番の大物を釣り上げてみせる!」


 クレセナの願いが通じたのか何かが近くにやって来た。


「ねえ、スズ」

「なんか来たな」

「へ? 二人ともどうしたんですかっ!?」

「クレセナあぶねぇ!」


 クレセナの釣竿が突如引っ張られ、釣竿を持っていたクレセナも海に落ちそうになる。

 寸前でミラルドが後ろから支えて何とかなった。


「ミラルドくんありがとう」

「おい! スズ、ジーク! なんか来やがったぞ!」


 反対側にいたハルさんがやって来た。

 その時、海面が盛り上がり、水しぶきを上げた。

 そして、現れたのは巨大な蛇のような魔物。


「あー、シーサーペントか」


 Aランクの魔物である。

 シーサーペントの口には糸が繋がっていて、それはクレセナの釣竿に繋がっている。

 シーサーペントほど大きな魔物があの程度の餌で釣れるはずがないので、おそらく針に引っかかっていた魚ごと食べたのだろう。


「どうする?」

「倒せばいいんじゃないか?」

「それもそうだな」


 刀を取り出し跳躍、一閃。

 外傷だけは無い斬撃に作り変えてシーサーペントを殺した。

 狩りなんかをする時に良く使うスキルの使い方だ。

 獲物の状態が良いまま殺せるからな。


 それにしてもシーサーペント、哀れだな。

 Aランクの魔物だしフィールドも海だから普通は船に乗っていて出くわしたら終わりの絶望的な存在。

 でもこの船に乗っているのは普通の人たちじゃない。

 俺、ハルさん、父さん、母さん、エシェントさん、ジーク、シアン、ソラなら余裕で倒す事ができる。

 ミラルドとクレセナなら二人がかりで倒す事は可能だろう。

 シエルも多分一撃で倒せる。

 まだ幼いから危ないけど。

 

「これどうする?」

「この船には入らないだろ。とりあえずお前が持っておけ」

「わかった」


 確かに、この巨体では船に入らないな。

 全長30メートルくらいあるか?

 捕食してから船に戻る。


「あっ! 確か、一番大物を釣ったらいいんですよね! だったら私が一位なんじゃ無いですか!」

「え、確かに魚じゃ無ければいけないなんてルールないし実際に釣ったのはクレセナだけど」


 まあ、釣ったと言うよりシーサーペントから出てきたって感じだけどね。


 結果、クレセナの意見が認められた。

 そのまま制限時間も過ぎて、クレセナが勝者となった。


「ふっふっふ。どんな命令をしようかな」

「あんまり酷いのは止めてくれよ」


 そして、クレセナが最下位からトップに躍り出たことで敗者はミラルドに決まった。


「うーん。パッと浮かばないから今度命令するね」


 結局、命令はしなかったがクレセナは満足そうな顔をしている。

 まあ、サーフィンができなかったり船酔いしたりと散々だったしな。

 活躍できて嬉しいのだろう。




船釣りってした事ねーや

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