44 海だーーー!
海だーー!!
照りつける太陽、白い砂浜、どこまでも広がる青く澄んだ海。
「海だーーー!」
「何当たり前のことを言っているんだい?」
「ノリ悪いなジーク。海に来たら海だーーー! って叫ばないといけないんだよ」
「そうなのかい?」
「ジーク様、騙されないでください。そんな話聞いたこともありません」
ジーク達と話しながらビーチを歩く。
グローリアス家の別荘で一泊して翌朝から海で遊ぶのだ。
すでに男性陣は着替えてビーチに出てきている。
ソラは雄なのでこちらにいる。
ほぼみんなトランクス型の水着だ。
なぜかミラルドだけブーメランだが。
「お待たせしましたー」
どうやら女性陣がやって来たようだ。
声のする方を向くとシアンとティリアとクレセナ、そして手を引かれてシエルとフェルミナがやって来た。
シアンはフリルのついた水着を着ている。
スタイルも良く美少女であるシアンにはとても似合っている。
ティリアとクレセナは王道のビキニを着ている。
また、シエルとフェルミナは似たようなワンピース型の水着を着ている。
みんな美少女のためとても似合っている。
「ほらっ! どうですか、ティリアお姉様! 言った通りスズの水着姿は素晴らしいでしょう!」
「あら、ジーク様も負けていませんわよ!」
シアンとティリアはなんだか張り合っている。
水着の感想を言うのは普通こっちの台詞のような気もするけど。
二人が張り合っている間にシエルが俺の前までやって来て見せつけるようにクルリと回っる。
「お兄ちゃん! えへへ、かわいい?」
「おう、シエル、かわいいぞ」
「えへへ、やったー!」
俺が褒めるとシエルはさらにクルクル回って喜んでいる。
太陽が照りつける中、砂浜でクルクル回るシエルの姿は非常に可愛らしかった。
シエルは吸血鬼だが真祖なので太陽なんか弱点にすらならない。
こんなに日差しがきつくても普通に活動する事ができる。
現に楽しそうにクルクル回っているし。
「あ、シエルちゃんズルいです! スズ、私の水着姿どうですか?」
先ほどまでティリアと張り合っていたシアンは先を越された! と言わんばかりの顔をしてこちらにやって来た。
「え? ああ、似合っているよ」
「もう! ちゃんと見てくださいよ!」
そう言われても、わざわざ描写するくらいにはちゃんと見ているのだ。
……なんだか電波を受信してしまった気がする。
まあいい。
「ちゃんと見ているよ」
「本当ですか? まあ、いいです。むー、私の水着姿でスズをメロメロにしてあげようも思っていましたけどこの程度じゃダメみたいですね」
「シアンお姉ちゃんは可愛いよ?」
「ふふふ、シエルも可愛いですよ」
「ありがとう!」
ふと、気がついた。
母さんとリーシアさんがいないことに。
「母さんとリーシアさんは?」
「あ、えっと、お二人ともお酒の飲み過ぎで二日酔いだそうで今日な外に出るのを止めておくとのことです」
シアンは何とも言えない顔をしていた。
そう言えば昨日、馬車から出てきた時、かなり酔っていたもんな。
「まったく。あの二人は何をしているんだか」
「ハルよ、お前も人の事言えないくらい飲んでいただろう」
「お前は飲まなさ過ぎだ」
「ああ、父さんあんまりお酒飲まないもんね」
「そんな事よりみんな集まったのですから遊びましょうよ。ほら、シエルちゃん一緒に泳ぎましょう」
「うん! あ、フェルミナちゃんも行こう!」
「はい!」
シアンとシエルとフェルミナが海へと駆けていく。
俺たちもそれに続く。
「あ……どうしましょう」
「どうしたのフェルミナちゃん?」
「私、泳げませんわ」
「だったらこれを使うといいよ」
俺は『暴食』から浮き輪を取り出してフェルミナに渡す。
「これは?」
「この輪を体に通して海に入ってみて」
「は、はい。わっ! すごい! 浮いていますわ!」
この世界には浮き輪はなかったようでフェルミナは驚いている。
ちなみにこの浮き輪、ビニール製の浮き輪だ。
材料さえあればスキルで作れるのでわざわざ作りだしたのだ。
もちろんこの世界にはビニールなんて無いのである種のオーパーツだ。
「すごいね。スズが作ったのかい?」
「そうだよ。他にもこんな物もある」
今度はサーフボードを取り出す。
「これは?」
「これは実際に見せたほうが早いかな」
俺はサーフボードを海に浮かべてその上に乗る。
普通こんな浅い浜辺では小さいな波しか無いのでサーフィンなんか無理だ。
しかし、俺は空中を歩く事ができるのだ。
当然、水上を蹴る事もできる。
スケボーのように蹴ることで推進力を得る事ができるのだ。
前世では不可能な方法でサーフボードを操り、少し沖の方へ行く。
そこで波に乗っていろいろ技を決めたりしてからみんなの元に戻っていく。
「とまあ、こんな感じで技を決めたりして遊ぶんだよ」
「おもしろそうだね。僕もやってみてもいいかい?」
「あ、私もやってみたいです」
「俺も」
「私も」
みんなサーフィンをやってみたいと言ってきた。
どうしよう、サーフボード足りねぇや。
まあいいか。
俺は一旦サーフボードを捕食してスキルで複製した。
オリジナルと材料さえあればほぼ瞬時に複製できる。
例外も多いが。
俺の刀、妖刀"空切"なんかは不可能だな。
複製したサーフボードをみんなに渡す。
サーフボードを受け取ったみんなはそれぞれ思い思いにサーフィンを始める。
主に近接戦闘をする人たちはすぐに乗れるようになった。
ハルさんとかものの数分で前世のプロのサーファーもびっくりの技を決めるようになっている。
ティリアとかは水上を蹴ることができないが風の魔術で推進力を得てうまいことやっている。
他の人もみんな運動神経がいいので乗れている。
しかし、ただ一人乗れていない者もいる。
「わきゃあ!」
クレセナはサーフボードの上に乗ることすらできずにすぐに海に落ちてしまう。
「うう、ミラルドくん。どうやって乗っているの?」
「どうって普通にだが」
「それができないの!」
クレセナはミラルドに手伝わせながらなんとかサーフボードを乗ろうとするが失敗する。
それでもめげずに数時間かけてやっとサーフボードに乗る事はできるようになった。
その頃、フェルミナはシアンとシエルに泳ぎ方を教わって、浮き輪無しでも泳ぐ事ができるようになったみたいだ。
ティリアの妹なだけあって運動神経はいいらしい。
海での初日は主にサーフィンをして遊んで終わった。
昼は塩焼きそばを食べ、夜はバーベキューをして楽しんだ。
母さんとリーシアさんもいたけどさすがに酒は控えていた。
ハルさんはがぶ飲みだったけど。
俺も付き合わされた。
お酒は二十歳から、なんてことは無い。
まあ、けっこう好きだから良いんだけど。
それにしてもやっぱ海の幸はいいな。
バーベキューで魚やら貝やらを焼いて食べたけど美味かった。
帰るまでに大量に捕獲しなければ。
「そういえばスズは日焼け止めを塗っていませんでしたが赤くなっていませんね」
「ああ、必要ないからな」
俺は『暴食』による結界を纏っているので過度な日光などの害になるものは捕食、吸収しているのだ。
日焼けなんかするはずもない。
そんな事しなくても日焼けするのかわからないが。
その事をシアンに伝えると、
「ズルいです!」
と怒ってきた。
「別にズルくないだろ。お前だって能力を使えばできるんじゃないか?」
「え、うーん、そうですね。できそうですね。早速明日からやってみます」
シアンは自分の能力で日焼けを防ぐ事ができることに気がついたようで怒りは収まったみたいだ。
そうして1日は終わっていった。