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幕間 篠原善治郎の思い出その2

「ゼンジロー、バイトしない?」

「バイト?」


 明日から夏休みという日、鈴に突然バイトに誘われた。


「そう。これから夏休みだろ。店開ける日も多くしようかと思って。俺一人じゃ大変だからゼンジローも手伝ってくれないか? バイト代は弾むよ」


 鈴の店でバイトか。

 俺は孤児院出身で貧乏だしちょうどいいかな。


「でも、俺、この顔だぞ?」

「大丈夫大丈夫。その程度じゃ客が遠のくなんてないよ」


 鈴がそう言うならいいかな。

 他にもバイトは入れてるけど調節は効くだろうし。


「予定が合えばいいぞ」

「そっか。助かるよ」


 そして迎えた鈴の店でのバイトの日。

 鈴の店は超有名な高級店だ。

 世界一と言っていい味だが店を開けている日がランダムで少ない。

 鈴曰く、気分らしい。

 食べに行く事が出来ればとても自慢になるらしい。

 当然俺はこの店で食べたことなんて無い。

 貧乏どころか一般庶民では到底届かない値段設定である。

 鈴から一品の値段を聞かされた時は卒倒しそうになった。


「なんの予告も無しで店なんか開いて客は来るのか?」

「ああ、常連には連絡入れている。一応予約も入っているんだぞ」

「へぇ」


 そう話していたら、早速客がきた。


「おっ、来たな。いらっしゃい」

「うむ。やっと店を開けたのか待ちわびたぞ」


 入ってきたのは和服をきた老人だ。

 なんと言うか、雰囲気がやばい。

 え、鈴、何なんだこの人は!?


「お兄ちゃん!」


 本日第一号のお客の雰囲気がやばい事に困惑していると、老人の後ろから小さな女の子が出てきて、鈴に抱きついた。


「おお、燐か」


 燐と呼ばれた女の子も和服を着ている。

 お孫さんか?

 ふと、女の子と目があってしまった。


「おじさんは誰?」


 お、おじさんだと。


「あははははは、おじさんだってさ。ゼンジロー、おじさんだってさ」

「うるさい」


 少しは老け顔って思っているけどおじさんとは。

 いや、それ以上に怖い顔の方が問題だな。

 でも何故か子供には怖がられないんだよな。


「ほう。なかなかじゃの。胆力もありそうじゃ。顔的にも我らの世界でもやっていけるかもしれんの」

「ああ、ゼンジローならやっていけるかもね。ところでこいつは篠原善治郎だよ。俺の同級生でバイトしてもらっている」

「ふむ。善治郎か。儂の名は堂極戎造じゃ。これも何かの縁。よろしく頼むぞ」

「よ、よろしくお願いします」

「ああ、堂極組の組長さんだよ」


 な、なんだと!!

 堂極組って、あの堂極組か!?

 しかも、その組長!?


「ふむ。儂を堂極組の組長と知って平然としておるか。お主なかなかやるの。さすがは鈴の友と言ったところか。気に入ったわ!!」


 ち、違います!

 ただ、表情が変化しにくいだけです!

 めっちゃビビっています!


「ああ、こいつ内心超ビビっているよ」

「む、そうなのか? まあ、顔に出さぬだけ大したものじゃ」

「ところで、オヤジさんと燐だけ?」

「ああ、息子に仕事を押し付けて来たわ」

「……後で、お土産作ってやるから持って帰ってやれよ。さて、ゼンジロー、二人を席に案内してやってくれ」

「わ、わかった」


 堂極さんの達を席に案内する。


「何で、堂極組の組長と知り合いなんだよ!」


 案内し終えた俺は堂極さん達に聞こえないように鈴に言った。


「まあ、知り合いと言えば知り合いだけど、ここではただの客だぞ? 取って食おうとしているわけでも無いんだしそんなにビビらなくてもいいぞ」


 そんなに平然としていられるわけないだろうが!


「この程度で驚いてんなよ。あの人と警視庁総監が顔合わせる事もあるし、大企業の社長も来ることあるし、総理大臣とか大統領とかも来るぞ」


 なんだと!

 何なんだよこの店は!?

 鈴の店だった!!

 そう思うと何か納得してしまった。

 そう、鈴の店だよな。

 普通の客が来るわけないか。


「まあ、誰が来ても普通に接客してくれたらいいよ。コネとかもできるだろうし、将来的に役に立つかもしれないぞ?」


 確かに、お偉いさん方がたくさん来るみたいだ。

 プラス面の方が大きいかもしれない。

 でも、俺は小市民なんだよ。


 その後は色々諦めながら接客していった。

 鈴の言った通り、警視総監が来て、堂極さんと顔を合わせてしまったりとしている内に、何だか慣れてしまった。

 慣れって怖いな。



「はい、お疲れ。どうだった?」

「すごく、疲れた。主に精神的に」


 店の営業時間が過ぎてバイトが終わった。

 ちょっと偉すぎる人がたくさん来て、慣れてきたとはいえ、精神的に疲れてしまった。


「でも、そこそこ稼げただろ?」


 鈴の言う通り稼げた。

 鈴はそこそこと言うが、俺にとってはかなりの大金を稼いだ。

 お客が俺にお小遣いをくれたりしたのだ。

 鈴がバイトを雇っているのが珍しいと言って。


「お金持ちってカードしか持たないイメージがあったんだけどな」

「確かに、大体の買い物はカードで済ますかど、現金も持ってないことは無いんだよ」


 確かに現金で貰ったからな。

 合計したら恐ろしい額になった。

 普通のバイトの何ヶ月分になる事やら。

 金持ちってすごい。


「鈴はすごいな。あの人達と同等に話すなんて。俺なんかいっしょにいるだけで精神的に参ってしまったぞ」

「そうか? 所詮は同じ人間なんだから。別に相手は神様でもないし」

「鈴だったら神様相手でも同じ態度を取りそうだな」

「かもな。さて、ほら、賄いやるよ」


 鈴は俺に賄いを持ってきてくれた。

 すごくいい匂いである。

 バイト中もいい匂いがして来ていたので腹は減っている。


「いいのか?」

「ああ、おかわりもあるぞ」


 茨木鈴の料理か。

 賄いとはいえ、まさか食べる事ができるとは。

 賄いを口にする。

 ……ああ、これが鈴の料理か。

 あんな値段設定の料理でも食べにくるのがよくわかる。

 それだけの価値があるのだから。

 一口食べただけで確信する。

 これが世界一の料理人の作る料理だと。

 よく、テレビなんかでやっている食レポのような細かい感想は出てこない。

 ただ、美味いとしか言いようがない。

 それだけに支配されている。

 ああ、みんな静かになるわけだ。

 ここに来た客はみんな食事中は静かだった。

 なぜなら、食事に没頭していたのだから。

 それほどまでに美味い。


 鈴は確かに超人だった。

 勉強もできるしスポーツもできる。

 プロ顔負けであった。

 しかし、その真髄は料理であるのだろう。

 そう確信した。

見た目その筋の人にしか見えない小市民な善治郎くんのお話でした。

次から第四章始まります。

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