幕間 孤児院での出来事
「孤児院?」
「はい孤児院です。一緒にいきませんか?」
夏休みに入ったので屋敷でダラダラしているとシアンがやってきた。
それ自体はいつもの事なのだが今回は普通に用事があるらしい。
「またなんで急に」
「元々お母様が行く予定だったのですけど他に急用が出来てしまいまして、代わりに私が孤児院を訪問する事になったのです。私1人も何なのでスズも一緒に行きませんか? お母様もスズと一緒なら安心だと言っていましたし」
「ようするに護衛代わりだと?」
「半分ぐらいはそうですね」
「うーん、まあいいよ。どうせ暇だし。爺や、服を用意して」
「かしこまりました」
孤児院に行く事になったので爺やに服を用意してもらう。
元々今日は屋敷から出るつもりは無かったので甚平を着ている。
屋敷ではよく和服系統を着るのだ。
もちろんデザインしたのは俺だ。
製作自体はおねぇに依頼して作ってもらった。
甚平なんかはジャージに匹敵する快適さだからな。
前世でもよく着てきたし。
まあ、半分くらいは趣味だけど。
「みなさんこんにちは」
「「「こんにちは!!」」」
子供達が元気よく挨拶する。
ほとんどが10歳以下で生まれて間もなさそうな赤ちゃんまでいる。
シアンは何度か孤児院に来たことがあるらしく、子供達もシアンに心を許しているようだ。
シアンは挨拶を済ますと早速持ってきたお土産、絵本や玩具などを子供達に分け与えていった。
連れてきたソフィアとかも手伝っている。
子供達はシアンのお土産に興味深々だ。
「いつもありがとうございますシアン様、おかげで子供達も喜んでおります」
近づいて来たのは60歳くらいの老人。
彼女はこの孤児院の院長だ。
「いえいえ、子供達が喜んでくれて私も嬉しいです。子供は国の宝です。大事に育てていきましょう」
「シアン様がそう仰ってくれると私たちも救われます。」
院長はそう言うと子供達の方を向いた。
「さあ、みなさん! シアン様にお礼を言いましょう!」
「「「シアンさま、ありがとうございます!!」」」
みんな一斉にシアンに向かってお礼を述べる。
しっかり教育しているのだろう。
シアンは持ってきた絵本を早速読んでいる子供達の元へと向かう。
必要無いだろうけど一応護衛なので一緒に向かう。
「あなたたち、その絵本おもしろい?」
「うん! しあんさま、えほんをくださってありがとうございます」
そう答えるのは絵本を一生懸命読んでいたまだ4歳くらいの子供だ。
「そういってくれると私も嬉しいです。たくさん読んで賢くなってくださいね?」
「うん! わたしがんばってかしこくなる!」
「シアンさま! わたしもがんばる!」
「ぼくもー!」
シアンはとても人気のようだ。
まあ、絵本の登場人物のようなお姫様だもんな。
しかも自分達に優しい。
「ほら、スズも何か言ってあげたらどうです?」
「何かって言われても子供の相手なんかほとんどした事無いんだけどな」
俺が相手した事のある子供はシエルくらいだ。
うーん、シエルが喜ぶ事をしてあげればいいかな?
「暴食」からトランプを取り出す。
「えーと、君でいいや。」
「わたし?」
「うん。ここにトランプがあるよね?」
そう言ってトランプの表を見せてから裏返してシャッフルして、広げる。
「この中からどれか一つを俺に見せないように選んで取って」
「うーん、これ!」
「じゃあ、俺は後ろ向いているからみんなに見せてあげて。終わったら呼んでね」
俺はそう言って後ろを向いた。
「お兄ちゃん、終わったよ」
俺は前を向いてトランプをシャッフルする。
「じゃあ、このトランプの間のどこかに入れて」
「うーん、じゃあ、ここ!」
再びシャッフルをしてから、一番上になったカードを見せる。
「さっき選んだのはこのカードじゃ無いよね?」
「うん」
見せたカードを再び一番上に乗せてから、パチンッと指を鳴らす。
「じゃあ、さっき君が選んだカードはこのカードだよね?」
と言ってもう一度一番上にあるカードを見せる。
「あっ! すごーい! 本当だ!」
「すげー!」
「お兄ちゃんすごい!」
「次! わたしやって!」
トランプで良くあるマジックを見せると子供達は大喜びだ。
他にも色んなマジックを見せる。
「スズ、そんなこと出来たんですね?」
「あれ? 知らなかった? シエルとかには良く見せていたんだけど」
「知りませんでしたよ! なんで言ってくれないんですか!」
「なんでって言われても……」
途中でシアンに文句を言われたがなんとか子供達と打ち解けることができたみたいだ。
最後にシアンが子供達に歌を歌って孤児院の訪問が終わる。
「シアン様ー! ありがとう!」
「お兄ちゃんもまた来てねー!」
子供達に見送られながら孤児院を後にした。
「意外でした」
「なにが?」
「スズって子供達に優しいのですね」
「俺はいつも優しいだろう」
「ふふっ、まあそういう事にしておきます」
「まあでも、俺は父さんと母さんに拾われたからいいけど、あの子達は親が死んだり親に捨てられた子達だからな。少しは同情するさ」
それに今世では両親がいたけど前世じゃ物心がついた時には居なかったからな。
その後祖父母に育てられたけどすぐに亡くなってしまったし。
他の親戚は碌な人がいなかったし。
多少はあの子達に前世での自分を重ねてしまう。
「でも、あんな院長がいるんだ。あの子達も幸せだろう」
少し会っただけだが、あの院長はいい人だろう。
子供達をちゃんと守っているし、しっかり教育も施している。
「そうですね。わたしもそう思います」
そうシアンと話しながら馬車に揺られて屋敷に帰る。
孤児院か。
あいつも確か孤児院出身だったよな。
思い出すのは前世の友人。
見た目だけならやたらと怖い大男。
恐ろしいクマみたいな見た目の癖して何故か子供達からは好かれていたんだよな。
ボランティアしていたりとやたらと善人だったし。
元気でいるかな。