41 親という存在
「で、チェスター侯爵はあの後どうなったの?」
後日、ハルさんとエシェントさんからチェスター侯爵がどうなったのかを聞く。
「ああ、チェスター侯爵、もといチェスターは爵位を剥奪、死刑が決まった。夫人も同じく死刑。息子のユーグは学園退学、親戚の家に預けられることになった」
聞けばチェスター侯爵は奴隷売買以外にも様々な犯罪を犯していた。
中にはこの国の情報を他国に売っていた証拠もあったとの事。
国家反逆罪で死刑だそうだ。
夫人も同様。
息子のユーグは直接的な関わりは無かったそうだが事が事なので、親戚の家に預けられる事になったそうだ。
要は余計な事をしない様に監視されるということだ。
「でも、本当にいいのか? 侯爵家を継がなくて」
また、チェスター侯爵家を捜索した結果、俺がチェスター侯爵の子供であるという十分な証拠が見つかったらしい。
結果、俺はチェスター侯爵家を継ぐ資格を持っているみたいだ。
「うん。何度も言っているけど俺はロゼリアだよ。ちゃんと父も母もいる。妹だっている。そんな家なんて知らないよ」
「そうか。そうだよな。それでこそお前だ」
また、奴隷売買に関わっていた他の貴族や金持ちも一斉に検挙。
いくつかの貴族も爵位剥奪されたらしい。
幸いと言っていいのか、そのほとんどは領地を持たず、重要な役職に就いていない下級貴族だったため、国政には影響がほとんどないらしい。
これがこの奴隷売買の結末だ。
そして、数日後。
明日から夏季の長期休暇だ。
前世でいう夏休み。
今日はいわゆる終業式をやっている。
全校生徒を集め、壇上では学園長が挨拶を述べている。
ふと、俺は先日のチェスター侯爵邸での出来事を思い出した。
「親、か」
「どうしましたスズ?」
ぽつりと言ったのだがシアンに聞こえたようだ。
「いや、ふとね。父さんと母さんという親はいるけど、一応生まれはアレだからな。親って何なんだろうって思って」
「ああ、なるほど。確かにそう考えると親って何かわかりませんね。でも、やっぱりスズのご両親はグレイスさんにアーシャさんなんじゃありませんか?」
「うん、そうだな。はっきり言ってアレが俺の親と言ったことを許せなかったし。うん、やっぱり俺の両親は父さんと母さんだ」
あんなのは親でも何でもない。
ただのクズでこれから死んでいく奴だ。
俺の親は父さんと母さんだ。
「そうですね。私から見てもスズのご両親はグレイスさんにアーシャさんですもの。アレは断じてあなたの親ではありません。親って愛情を持って育て、守ってくれる存在ですかね?」
愛情を持って育て、守ってくれる存在か。
そう考えると爺やとセレスも俺の親と言えるのかな?
前世では、俺に親はいなかった。
物心つく前に死んだ。
その後は祖父母に引き取られたが、その時すでに二人ともあまり体調良くなく、5歳の時にほぼ同時に死んでしまった。
その後は叔父夫婦に引き取られたが悲惨だった。
騙され、両親の遺産も祖父母の遺産もとられ、まともな食事すら摂らせてもらえなかった。
まあ、その後いろいろ頑張って復讐したりしたが親を知ることなく俺は死んでしまった。
今世では生まれてすぐに死にかけた。
爺やとセレスがいなければ死んでいただろう。
その後父さんと母さんに拾われ育ててくれた。
無茶をすれば叱られたし、成長を見せれば褒めてくれた。
うん。
愛してくれているのだ。
育ててくれたのだ。
守ってくれたのだ。
父さんと母さんは俺の親なのだ。
そう考えると俺はなんて幸せなのだろうか。
「うん。なんだがそれがしっくりくるな」
「ええ、私も自分でそう思います」
「だったら、俺らが親が必要な時には必ず助け、守らないとな」
「そうですね。それがいいと思います。この先、たくさん親孝行をしないといけませんね」
「そうだな」
俺を愛してくれた、守ってくれた、育ててくれた父さん、母さん。
あなた達のおかげで俺はこうして幸せに生きている。
何かあった時は必ず助けてみせよう。
感謝しています。
ありがとう。