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39 愚か者との決別その1

「アジトの捜索と奴を尋問したかぎりではスズ殿の情報通りでした」

「なるほどな。……チェスター侯爵か」


 アジト襲撃から数日後、俺は王宮のとある一室に呼ばれた。

 アジト襲撃後の経過報告とこれからの事でだ。

 俺とハルさんとエシェントさんの3人での話し合いだ。


「ふざけやがって! 証拠さえあれば即座に処刑してやるものを!」


 ハルさんは怒りを露わにしている。

 常人なら気絶するような怒りの気配がハルさんから放たれる。

 かなり怒っているみたいだ。


「やっぱりアジトには証拠がなかった?」

「ああ、スズ殿の情報のおかげで多くの違法証拠が見つかったが、残念ながらチェスター侯爵の関与を仄めかす証拠は見つからなかった。ゲフを尋問した結果、チェスター侯爵の事は吐いたがそれだけでは残念ながら証拠にすらならん」


 俺がリオンから得た情報のおかげで多くの証拠を確保する事が出来たらしい。

 情報通り多くの貴族などの金持ちが関与しているとの事だ。

 近いうちに一斉摘発を行うらしい。

 しかし、チェスター侯爵に関しては、あのアジトで唯一生かしていた男、ゲフからも関与を尋問で聞く事が出来たらしいがそれだけだ。


「しかし、なんとしてでも証拠を押さえ、チェスター侯爵を捕まえなければなりません」

「まあ、このまま野放しには出来ないもんね。……証拠を確保すればいいんだよね?」

「ああ、何か案が?」

「これなんか使えないかな?」


 俺は、とある手紙を取り出す。


「それは?」

「チェスター侯爵から俺宛への手紙」


 あのふざけた内容の手紙だ。


「これにはぜひチェスター侯爵邸に来てくれって書かれているんだよ」

「つまり?」

「ご招待に預かろうかなって思って。侯爵邸に行った時、偶々変な部屋に入り込んでしまってもしょうがないよね?」

「なるほどな。それならば仕方がない」

「だよね。まあ、そこで偶々違法な証拠を見つけてしまったらハルさんとエシェントさんに連絡しないといけないよね?」

「それは……偶然なら仕方がないな。スズ殿は何も悪くない」


 よし、この国のトップから許可はもらった。

 俺がやろうとしていることはこうだ。

 チェスター侯爵邸に行って違法証拠を探してくる。

 それだけだ。




 ー▽ー


「おお、おお、会いたかったぞ! こんなに立派に育って」

「お招きいただいきありがとうございますチェスター侯爵」

「そんなかしこまらずともよい。私たちは親子なのだ、父と呼ぶがいい」


 スズは手紙で言われた通りにチェスター侯爵邸に向かった。

 そこでとある一室に案内され、そこには2名の男女がいた。

 男はその身を贅肉で包んでおり、悪い意味で貴族らしい姿である。

 そして今、スズの目の前で感極まったようにしている。

 彼がチェスター侯爵だ。


「ああ、まさかこうして再び出会えるなんて」


 そして、よよよ、と泣く女の方はとても華美な服装で高価な宝石類もたくさん身につけており、さらにはとても厚化粧の同じく悪い意味で貴族らしい姿だ。


(これは、醜いな)


 スズは必要だとはいえこんな奴らと会話をしなければならない事に辟易とする。


「それで、あなたは俺の父だとおっしゃるみたいですが本当で?」

「ああ、本当だとも、お前はユーグの双子の弟でな……」


 チェスター侯爵と侯爵夫人は如何にスズの事を愛していたか、スズがいなくなった時にどれだけ悲しんだかをスズに伝える。


(いや、そんなこといいから親子である証拠を出せっていっているんだけどな。まあいい)


「しかし、俺は見た目通り黒髪黒目、あなた達とは髪の色が違うのですが?」

「ああ、それはな、我が先祖には異世界人がいてな。その先祖も黒髪黒目であり、その血のせいか時たまそのような色が現れるのだ」


(さもありなんな回答だな)


 もちろんチェスター侯爵の先祖に異世界人がいるなどは嘘である。

 スズはそれを嘘であると見抜いていた。

 しかしスズにとってはそれが本当であろうと変わらない。

 スズが黒髪黒目なのは前世と同じ容姿だからだ。

 仮に他の親から生まれてきたとしてもこの容姿であるだろうと考えている。


「なるほど。確かに俺には育ての親がいますが本当の親を知りませんでした。まさかチェスター侯爵だったとは」

「その育ての親とは?」

「俺の家名のロゼリア家の人ですよ。しかし、育ての親に聞けば俺の本当の親は魔物に殺されたと聞いたのですが」


 スズはそれこそ生まれて一年も経っていない頃にロゼリア家に拾われたと話す。

 とある村で住んでいたが、魔物に襲われ両親は死んだと聞かされていたと話す。


(ほう、こいつを連れて行ったあの執事とメイドは死んだみたいだな。これは好都合)


 その話を聞いたチェスター侯爵は内心で微笑む。

 あの執事とメイドから自身の事を聞かされていたら厄介だった。

 しかし、スズはそれを知らない様子である。

 チェスター侯爵にとってはかなり好都合であった。

 もっとも、知らされていても言いくるめるだけだが、とも思っていた。


 チェスター侯爵が今更スズを自身の子供にしようとするのにはもちろん目的がある。

 簡単に言えばスズを利用するためだ。

 スズは最近現れた英雄、無貌の鬼である。

 息子のユーグから決闘をする事を聞いた。

 チェスター侯爵家の力を示すにはちょうどいいとユーグに高ランクの冒険者を貸し与えた。

 侯爵家の力を示す事以外はどうでもいいと思っていたが相手の名前を聞いて考えが変わった。

 相手はスズ・ロゼリアという男らしい。

 しかも珍しい黒目黒髪である。

 昔、突如、執事とメイドと一緒に消え失せた気味の悪い子供と同じ色、同じ名前である。

 ほぼ確信を持ってチェスター侯爵は決闘を見に行った。

 そこで、スズが無貌の鬼であると判明した。

 さらにその戦闘で圧倒的な力を見せた。

 また、スズの容姿は黒髪黒目であり名前もスズである。

 また、王女とも仲がいいらしい。

 これを利用しない手はない。


(この儂の息子と認めてやるのだ。せいぜい儂の役に立てよ?)


 チェスター侯爵はスズの事を自身の道具としか見ていなかった。

 もちろん夫人もである。


「しかし、何故俺はあなた達の元を離れて村なんかにいたのです?」

「ああ、それはな……」


 チェスター侯爵はスズがとある理由で暗殺されようとしている事が判明し、スズの安全のため執事とメイドをつけて村に隔離したとスズに伝える。

 おそらく、その執事とメイドが両親お思われたのだろうと。

 もちろん嘘だ。

 しかし、スズを見ると納得しているかの表情をしている。

 実に御しやすい。

 チェスター侯爵はそう思った。


「うん。わかった。じゃあ出てきて」


 スズが何の脈絡もなく、突如そう言った瞬間、執事服に身をまとった老人が現れた。


「これはお久しぶりです、チェスター侯爵に夫人」


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