4 消えた妹
その日1組の家族がスズの住む村にやってきた。
本来この村は外部から訪れる事が非常に困難である。村の住人が招き入れるか、特別な方法を知らなければ簡単に入ることはできない。
「久しぶりだな、我が友グレイスよ。息災だったか?」
「おう、お前も元気そうじゃねーか。ハル」
赤毛の精巧としたした顔つきの男、ハルと呼ばれた人物は同じく赤毛の二本の角が生えた鬼、スズの父、グレイス・ロゼリアと挨拶を交わす。
すぐそこでは、スズの母、アーシャ・ロゼリアと金髪碧眼の美女、ハルの妻が嬉しそうに抱きしめ合っている。
「ふむ、さて、こいつらが俺の子供たちだ。ほら、挨拶しなさい」
「はい、僕の名前はジークハルト・グローリアスです! 父上と母上からお二人の事はお聞きしております。よろしくお願いします!」
元気よく挨拶するのは、母親から受け継いだのであろう金髪碧眼の天使のような少年である。おそらくこのまま成長すれば物語の王子のような容姿になるであろう。
「わ、わたしは、シアン・グローリアスです。よ、よろしくお願いします。」
そして、少し恥ずかしそうに挨拶するのは、父親よりも淡い色、桜色とでも言うべき髪と目をした妖精の様な少女である。
一通り挨拶が終わった。
「ところで、息子がいると聞いたのだが?」
「ああ、スズなら川で釣りをしているよ。お前たちの分も釣るっていっていてな。たぶんもう少ししたら帰ってくるんじゃないか」
「ほう、シアンと同じ5歳だろ? 凄いじゃないか」
「父上、僕も川へ行ってみてもよろしいですか? スズに会ってみたいです」
「ん? まあ、良いぞ。シアンも一緒に連れて行くといい。仲良くするんだぞ?」
「はい、わかりました! シアン行こう」
「はい、お兄様」
ジークハルトはシアンの手を取って二人で川の方へ歩いていく。
ー▽ー
ジークハルトは今日を楽しみにしていた。
大国、グローリアス王国の第一王子である自分には友達がいない。
いや、正確には対等な友達がいないのだ。
一応友達と言える人達はいるのだが彼らは友人ではあるが将来配下となる者たちであり、対等ではないのだ。
しかし、ジークハルトは父と母より聞いていた。
冒険者をしていた時にパーティを組んでいた大切な友人がいると。
信頼できる配下も大切だが、王国として何の関係も無い友人は何にも代えがたいものだと。
その両親の友人にシアンと同い年の子供がいると。
自分にもその様な友人ができるのではないかと。
ジークハルトは今日を楽しみにしていた。
ー▽ー
ジークハルトはその光景にしばらく見惚れていた。王都ではまず見れない自然に溢れた光景に。まるで川を主体とした絵画のような光景に。
「シアン!綺麗な所だな!」
しかし、シアンからその言葉に対する返事がない。
「シアン?」
ジークハルトははっと辺りを見渡すがついさっきまで手を引いていた妹の姿が見当たらない。
「シアーーーン!どこにいる!」
大きな声で呼びかけるが返事は一切ない。
妹がいつの間にか消えたのだ。