幕間 篠原善治郎の思い出その1
スズくんがまだ転生する前の話です。
「や、おはよー」
「お、おはよう」
「いやー、ちょっと用事でね、入学式から10日間学校に来れなかったんだよ。だから誰も知り合いいなくてね。仲良くしてよ」
「……」
「ん? いやか?」
「い、いや、そうじゃなくてだな」
「なら、席が近いんだし仲良くしよーぜ。俺の名前は茨木鈴。鈴でいいよ。よろしく」
「あ、ああ、俺は篠原善治郎だ。よ、よろしく」
それが俺と鈴の初めての会話だった。
高校に入学してから10日、俺は避けられていた。
理由は単純だ。
俺の見た目が怖いのだ。
俺は小学生の頃に怪我をして、顔に大きな傷が残っている。
さらに目付きも悪くガタイもいい。
自分ですらその筋の人にしか見えないのだ。
結果恐れられて誰にも近寄られない。
中学を経て高校に上がるとますます見た目が怖くなった。
誰も俺に話しかけない、近寄らない。
見た目に似合わず俺は悲しいと思うがこれが俺の日常だった。
俺の席は教室の一番後ろの窓際だ。
そして、俺の前の席はいつも空席だった。
入学式から休んでいるらしい。
入学式から10日も経てば幾つかのグループが既に出来上がっている。
そこに今から入るのは少し困難だろう。
そう少し哀れんでいた。
そして、10日目の一限が終わり、休み時間になった時、教室に一人の男子生徒が入ってきた。
その男子生徒は男の俺から見てもとてつもない美形であり、女子から既にキャーキャー言われている宮本よりも遥かにイケメンだった。
そんな男子生徒は悠々と教室内を歩き、席に着いた。
俺の前の席だ。
彼は席に着き荷物を降ろすと、後ろを向いて、
「や、おはよー」
と俺に話しかけてきた。
その日から鈴とよく話す様になった。
聞けば鈴は既に料理人として働いているらしい。
少し調べてみると鈴はかなりの有名人だった。
ネットじゃ超人とか呼ばれている。
テレビに出ていないから知らなかった。
また、鈴は予想通りモテた。
異常にモテた。
俺と話しているにも関わらず女子生徒が大量に集まってきた。
怖い見た目の俺がいるにも関わらずにだ。
そのお陰か俺にも話しかけられる事が増え、少しずつ、鈴以外の友達ができていった。
ある日、鈴に聞いてみた。
「なあ」
「なに?」
「なんで最初俺に話しかけてきたんだ?」
「ん? どういうこと?」
「お前が初めて学校に登校してきた日、俺に話しかけてきただろう?」
「ああ、席が近かったからだよ」
「……俺が怖く無かったのか?」
「はあ? 怖いって何が?」
「いや、だから、俺の見た目が怖く無かったのかって」
すると鈴は笑い出した。
我慢出来なかったかのように笑い出した。
バカにするように笑い出した。
「あっははははは、ヒィー、こわっ、怖いって、それで最初俺が話しかけた時驚いたような顔をしていたのか?」
そんな顔していただろうか?
「別にお前の顔が怖いからって俺に何の害がある訳でもないじゃん」
「それは、そうだが」
「お前な顔なんかよりもよっぽど目の前で銃を向けてくるような奴の方が怖いよ」
なんだそりゃ。
それは、当然だろう。
「だからその程度の顔で怖がることなんて無いんだよ」
ある意味当たり前過ぎて逆に変な回答だと思った。
でも、そう言われた時俺はとても嬉しかった。
確かに、受け入れられる事もある。
それでも大半の人に今までこの顔で避けられてきたから。
拒絶されてきたから。
恐れられてきたから。
鈴は俺の事をどう思っているか知らないが俺にとってはスズは大切な親友になった。
高校生活に慣れてきた頃球技大会が始まった。
俺は鈴の事をすごい奴だと思っていた。
それこそ超人だと思っていた。
授業はほとんど受けていないし、教室にいてもタブレットで何かしていて授業なんて聞いてもいなかった。
それでもテストでは全教科満点だった。
この学校の偏差値はかなり高いのにだ。
体育の授業なんかでも高い運動能力を見せていた。
俺はそれだけで鈴の事を確かに超人だと思っていた。
俺は鈴の事を過小評価していた。
球技大会の種目は野球、サッカー、バスケだ。
鈴は全種目出場していた。
俺も運動神経は良いので野球とバスケに出場していた。
最初に種目は野球だった。
トーナメント形式で第一試合は3年生との試合だった。
相手のクラスには野球部が3人おり、全員レギュラーだ。
規定で部員は2人までしか出場出来ないがその内の1人はエースらしい。
しかも甲子園出場経験がある。
どう見ても勝ち目がなかった。
ピッチャーはストレートのみだがそれでも打てない。
そんな時鈴の打席が回ってきた。
鈴が打席に入ると黄色い声援が送られる。
見学には女子生徒がいっぱいだ。
関係無い学年やクラスの女子生徒が大勢いる。
相手クラスの女子生徒まで応援している。
相変わらずすごかった。
しかし、その事にムカついたのかピッチャーは全力でボールを投げた。
今までは一応手加減していたのか今試合で明らかに一番速い球だった。
それを鈴は初球で打ち返した。
ボールは大きく飛んでいった。
ホームランだった。
大きな歓声が聞こえてくる。
ピッチャーは信じられないような顔をしていた。
さらに、続く2打席目もホームランを放ち、3打席目ホームランだった。
ピッチャーは泣いていた。
3打席目に至っては変化球を投げたにも関わらず初球でホームランを打たれたのだ。
少し可哀想になってしまった。
さらに、ピッチャーも務め、完封。
普通にフォークとかも投げていた。
優勝候補だったクラスを打ち破り、そのまま優勝していった。
続いてバスケ。
こちらはと酷かった。
相手はまた3年で部員が2人。
2人ともレギュラーだった。
そんな2人に対しても鈴は圧倒的だった。
身長が170センチ近くしかないのにダンクを決めるし、3ポイントシュートもすべて決める。
部員2人にマークされてもものともしなかった。
最後はブザービートでコートの端からシュートを決めた。
俺も参加していたが、ほとんど鈴が点数を決めていた。
「ブザービートって一回やってみたかったんだよね。やれば出来るもんだ」
それはお前だけだろうと俺は思った。
みんなも思ったと思う。
続くサッカーでもたくさんゴールを決めてクラスの勝利の立役者となった。
結果、全ての種目で優勝した。
後日、鈴はたくさんのクラブから勧誘を受けた。
特に野球、バスケ、サッカーはすごくしつこく誘われたみたいだ。
しかし本人は「めんどい」とのことですべて断っていた。
俺は今回の件で鈴が本当に超人なんだなと深く認識した。
スズくんが半分人を辞めちゃっていたのでここらでタイトル詐欺にならないよう超人要素を入れました。