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超人さんの転生譚〜人間超えて鬼になる(旧題:超人さんがいく!異世界転生)  作者: 羽狛弓弦
第二章:よくあるかもしれない王都学園生活(仮)
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33 無貌の鬼

 闇の氾濫防衛戦は大勝利に終わった。

 当初予想していた被害よりも圧倒的に軽微だったのだ。

 もちろん死んでいった者達はいるのだが、それと同時に死に際で助かった人たちもいるのだ。

 それは遊撃部隊、特に多くの魔物を殲滅したスズとハルによって助けられた人が数多くいたのだ。

 ハルはその伝説に新たな一ページが加えられた。

 そして、スズの活躍は最初の大魔術と遊撃での活躍により多くの者に感謝され、王都を救った英雄となったのだ。

 ただ、とてつもなく強い上に珍しい黒髪であり、純白の角を生やし貌の無い仮面を被っているという目立つ存在なのにほとんどの人物が彼を知らなかった。

 しかし、冒険者ギルドで見たことがある者もいるらしい。

 聞けば最近冒険者ギルドにふらっと現れるらしいがその時も同じ格好をしていたらしい。

 さらには、あの『桃壊姫』を倒したこともあるという。

 しかし、誰も名前は知らない。

 しかし、人々にとって名前など関係なかった。

 名前など知らなくても彼は自分たちにとって英雄なのだ。

 そして、スズの活躍が人々の間で話されるうちに何時しかこう呼ばれるようになった。

 その姿から"無貌の鬼"と。

 

 ー▽ー


「なにが、無貌の鬼だよ〜」


 闇の氾濫から数日、なにやら俺は無貌の鬼などという大層な厨二ネームをいただいた。


「スズ様、王都はその話題で持ちきりですよ」

「とうとうスズ様のお力が世間に知れ渡ることが出来たのですね。この爺は嬉しゅうございます」


 厨二ネームで呼ばれるようになって精神的なダメージを負った俺とは逆に爺やとセレスは喜んでいる。


「スズは嫌みたいですね。かっこいいと思うのですが」


 かっこいいか…。

 俺は逆に恥ずかしい!

 仮面だって冒険者の俺≠普段の俺、スズという事を示す為に着けていた。

 その方が都合がいいから。

 逆に言えば冒険者の俺がスズであるとバレてもよかった。

 でもまさかこんな厨二ネームで呼ばれることになろうとは。

 あれが俺だと知られたらさらに精神的なダメージを負うような気がする。

 貌の無い仮面だって俺に合うように作ったけど貌を掘るのが面倒だったからこのままでいいやと思っただけだよ。


「でもさー、うー。うん、うん。そうだ。その無貌の鬼って人と俺は違う人なんだよ。いやー、無貌の鬼って人はすごいね」


 俺は現実逃避したかった。


「スズみたいな髪の人はほとんどいないのですから、たとえ仮面を被っていて鬼化していても例えばSクラスとかなら感づくかもしれませんよ。おそらくバレるのも時間の問題です」

「まじかよ。……ところで学園はいつ再開するんだ?」


 これ以上この話題は嫌だったので話を切り替える。

 今回の闇の氾濫のせいで学園はしばらく閉鎖になっている。

 戦うことができる教師は勿論、生徒達も戦いに参加していたらしい。

 まあ、生徒だからって遊ばせておく余裕はないもんね。

 王都防衛に失敗したら下手したらそのまま国が無くなっていたかもしれないのだから。

 それに彼らは成人している。

 戦わなければいけなかったのだろう。


「ああ、それなら再来週には始まりますよ」

「へー、早くない?」

「スズのおかげで闇の氾濫の終息も早く、被害が極小でしたのでほとんどの人たちが早期に日常に戻ることができたのです。学園もすぐに稼働が可能になったので」


 なるほどね。

 うーん、学園に行っても"無貌の鬼"とか言われたらどうしよう。

 まあ、いつも通り学園長の所にいけばいいかな。




「いやー、あなたの活躍のおかげでこうして無事学園を再開する事ができました。ありがとうございます無貌の鬼殿」

「はっ倒すぞ学園長!」


 学園が再開した日、俺とシアンは学園長に呼び出された。

 内容は、俺のおかげで学園が再開できましたありがとうございます、だ。

 最後の無貌の鬼がなかったら気分が良かったのに。


「学園長止めてあげてください。スズはその呼び名を嫌っているようなので」

「おや、そうなのですか? 格好いいと思うのですがね」


 そりゃ厨二という概念が無ければかっこいいと思うかもしれない。

 だが、厨二という概念があれば恥ずかしさが上回るのだ。

 そして今わかった事だが、恥ずかしさより他人にその呼び名で呼ばれると何だかイラッとする。


「まあ、その呼び名で呼ぶ事は止めておきましょう」

「ぜひそうしてください」


 学園長があの呼び名で呼び続けるような事になったら力尽くで阻止しなければならなかった。

 まあ、そうしなくてすんだが。


「……教員たちに俺のこと言ってないだろうね?」

「それなら大丈夫ですよ。それを言うと返って混乱してしまいますからね。ただ、あなたの担任には言ってますよ。下手に噂になるような事は無くなると思います」

「そっか、それくらいならいいよ」

「でもスズ、Sクラスの皆さんは気付くかも知れませんよ?」

「うーん、そうだな」


 と、そこでチャイムがなる。

 学園再開の最初の日ということで特別ホームルームをするそうだ。

 俺たちはその特別ホームルームが始まる前に学園長に呼び出されたのだ。


「おっと時間のようですね。それでは二人とも教室に戻ってください」


 学園長の言葉に従って俺たちは教室に向かう。

 教室に入るとシアン以外のSクラスの生徒がバッとこちらを向いてきた。

 その目線はシアンではなく俺だ。

 うーん、バレてそう。

 席に着くと担任がやって来てホームルームが始まった。

 内容は闇の氾濫の事やこれからの事だ。

 お昼から集会があるそうだがこれはサボろうか。

 ホームルームが終わると2人の生徒が俺の元にやって来た。


「ね、ねぇ、ロゼリアくん」


 やって来たのはエルフの女の子と人間の女の子だ。

 リュエルとミュアって名前だったかな。

 たしか二人とも魔術科だったと思う。


「何かな?」

「あのね、"無貌の鬼"って知ってる?」


 あー、これは……はぁ。


「知っているけど?」

「あのね、私、一度冒険者ギルドで見たことあるんだけど、その服とか髪とかそっくりなんだ。だからね、そのロゼリアくんが無貌の鬼様と関係があるのかなーと」


 鬼様ってなんだよ。


「うーん、そうだな」


 周りを見るとみんなこちらを見ている。

 この教室内で俺のことを知っているのはシアンと担任だけだ。

 俺は席を立ち上がり、術式を構築する。

 使用する魔術は以前Aランク昇格試験で使った半異界化魔術だ。

 もっとも空間を広くしたりしないので半異界化したのに気がついたのはほとんどいないだろう。

 さて、やるか。


「みんなが思っている通り俺は無貌の鬼とか呼ばれているみたいだね」


 そう言って俺は仮面を被って鬼化する。

 最近話題の英雄がクラスメイトだったことにみんなは驚く。

 そうかなあと思っていたけど本当だったなんて! って感じだろう。

 特に女子生徒がキャーキャー言って興奮している。


「……スズ、いいの? 嫌がっていませんでした?」

「うん、下手に噂されるよりはここで止めておこうかなって」


 俺は仮面を外して人化した。

 そして、今度はクラスのみんなに向けて意図的に覇気を放つ。

 ハルさん曰く、魔王クラスの覇気だ。

 魔王じゃないけど、以前狂鬼王キデンサーを倒したし、俺も鬼だから"鬼王覇気"ってところかな?

 その覇気を受けてシアン以外の全員が時を止まったかのように微動だに動かなくなる。


「ただね、その呼び名はちょっと嫌いなんだ。だから、黙っててくれないかな?」


 俺は一人一人の目を睨みつけてお願いする。

 いや、命令する。

 みんなは冷汗をかきながらコクコクと何度も頷く。

 これだけ脅せば大丈夫だろう。

 俺はその様子に満足していると、後ろからスパーーン! といい音を立てて頭を叩かれた。


「スズ、やり過ぎですよ」

「はいはい、わかったよ」


 シアンに怒られたので覇気を止め、半異界化を解除する。

 半異界化したのは万が一にも覇気を教室外に漏らさないためだ。


「と、みんな脅かしてごめんね?」

「い、いえ、わ、私も嫌がっているとはつゆ知らず聞いてしまってごめんなさい」

「んー、別にいいよ。そのうちバレるかも知れないし。まあ、それまでは黙っておいてよ」


 再び全員コクコクと首を縦に降る。


 さて、釘は刺したしもういいかな?

 俺は教室を出て学園長の部屋に行こうと、


「あ、ま、待ってください!」

「ん? 何?」


 俺に話しかけてきたミュアに呼び止められた。


「あ、あの、私の兄はロゼリア君に魔物に殺されそうになったときに助けられたみたいなんです。それで、その、兄を救ってくださってありがとうごさいます!」

「あ、そうだったんだ。良かったね、お兄さん助かって」

「は、はい! 本当にありがとうごさいます!」


 俺はミュアのお礼を聞いて、教室から出て行った。


「待ってください」


 廊下を歩いていると後ろからまた呼び止められた。

 今度はシアンだ。


「どうしたんだ?」

「学園長の部屋に行くのでしょう? 私も行きます」


 シアンも学園長の部屋に行く事になったので共に廊下を歩く。


「スズ、良かったです」

「何が?」

「ミュアさんの事です。あなたはあの呼び名を嫌っているようですが、呼び名で呼ばれるくらいスズは沢山の人を助けました。でも、誰もスズに感謝していません。みんな無貌の鬼に感謝しています。確かに無貌の鬼はスズの事ですけど、私は何だかそれが嫌でした。でもミュアさんの様にスズ本人に感謝してくれる人がいて私は嬉しいのです」

「なんでお前が嬉しいんだよ」

「えへへへ、スズは私の大好きな人です。その人が誰かに感謝されると私も嬉しくなるのです」

「なんだそりゃ」


 変な呼び名で呼ばれるようになってしまったけど、まあ、シアンは喜んでいるみたいだ。

 それならいいかなあと、少し思いながらシアンと他愛もない話をしながら歩いていく。




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