29 氾濫の予兆
「スズ様! いかがなされたのですか!?」
屋敷に戻ると、セレスに驚かれた。
「あー、セレス、なにがあったか後で話すよ。ごめんハルさん、ちょっとそこのソファに寝かせて」
そう言うとハルさんが俺を近くのソファに寝かせてくれた。
「さてと、俺はいったん城に戻る」
「あ、ちょっと待って」
ハルさんが城に戻ろうとするのを引き止める。
あんなでかい魔物が出現したのだ。
すでに討伐は終わっているが地震などで何か影響がなかったか確認しなければならやい。
ハルさんはすぐさま城に戻らなければならないのだが、一つ伝えなければならない事がある。
「なんだ?」
「あのね、古代金剛亀竜が出現した付近を監視した方がいいと思うよ」
「どういうことだ?」
「あの古代金剛亀竜のせいであの辺り、闇の領域から見て王都方向の場所の魔力の流れが異常に乱れた。そのせいで闇の領域との境界が一部あやふやになっていると思う。端的に言えば闇の領域から一時的に外へ出る道が出来たってところかな? で、その道を通って闇の領域の魔物が外に出てくると思う。」
「なに!? スズ、本当か!?」
「おそらくそこそこの数の魔物が出てくるよ。最悪の場合闇の氾濫になるかも」
闇の氾濫。
簡単に言えば闇の領域の魔物が大量に外に出てくることだ。
それによっていくつもの国が大災害に遭ったり、最悪消滅している。
闇の領域の魔物が領域外に出ると多少弱体化するとはいえ、それでも普通の魔物よりも遥かに強いのだ。
そんな魔物が大量に闇の領域から出てくる。
大災害である。
「なんだと! くそっ! いきなりあんな化け物が出現したと思ったら今度はこれか! 早急に対策せねばならないな。スズ、教えてくれてありがとう。では、急いで城に帰るとしよう。」
「お送りいたします」
「いや、いい。スズの面倒を見ていてくれ」
そう言うとハルさんは屋敷を出て行った。
「スズ様、先ほどの話は本当でございますか?」
「うん。仮に闇の氾濫とまでいかなくてもそこそこの量の魔物が出てくるだろうね」
「さようでございますか」
「ってなに落ち着いているんですか。闇の氾濫ですよ! 闇の氾濫!」
「そうですが、今慌てたってどうにもならないでしょう?」
「それはそうですけど…」
「セレス、大丈夫だよ。ハルさんもいるし俺もいる」
「ス、スズ様! そのようなお身体ですのに戦うつもりですか!?」
「ああ、確かに今は動けないけど魔物が攻めてくる頃には動けるようになるよ」
「さそうでございますか」
「うん。さて、遠征に行ってからあった出来事を話そうか」
「先にお部屋で休まれた方がよろしいのでは?」
「いや、大丈夫」
俺は爺やとセレスに遠征での出来事、主に古代金剛亀竜の事を話した。
「そのような恐ろしい魔物が…。このようなお身体になってまで我らをお守りくださりありがとうございます。この爺や感激しております」
爺やが大げさに感動している。
「そんなこんなでしばらく動けそうにないよ」
そう言った時、
「スズ! ご無事ですか!?」
シアンが飛び込んできた。
「スズ! どうしたのですか? 怪我をしたのですか!?」
シアンがソファに寝ている俺の姿を見て心配したかのようにしている。
その目は本気であり、ただソファに寝ているだけでなく、何らかの異常があると察知しているのだろう。
外見は怪我どころか汚れ一つもないんだけどな、よくわかるな。
「シアン、怪我はないよ」
「でも、様子が」
「大丈夫……では無いけど休めば治るよ」
「そうですか」
それから転移させた生徒たちの事やこちらで何があったかを話し合った。
そして、話しているうちに思っていたよりも疲れていたのか俺は眠ってしまった。
起きるとお昼だった。
爺やに聞けば2日ほど眠ってしまっていたらしい。
2日も経っているのにまだあまり回復していないようだ。
まともに動くことすらできない。
なんとなくマシになったかなって思う程度にしか回復していない。
あ、でも能力はなんとか普通に使えるな。
そして、王都の様子と言えばやはり大騒ぎだそうだ。
闇の氾濫に至った時に備えて、王都防衛に軍が防衛線を築いており、王都民は不安に思っているらしい。
しかし、ハルさんが自ら出陣するとの事で混乱は最小限に抑えられているようだ。
本来、王自ら出陣するなんてありえないけどハルさんだもんな。
この前の古代金剛亀竜も真っ先に駆けつけて来たし。
まあ、それだけの力を有しているのだけど。
そして、シアンやジークは何度かお見舞いに来てくれたそうだ。
後でお礼言っておこう。