27 金剛亀竜?
目の前から迫ってくる馬鹿げた大きさのブレスを俺はすべて『暴食』にて捕食する。
危なかった。
ブレスはちょうど王都の方へと放たれてた。
あと一瞬遅れてたらブレスが王都に張り巡らされている結界を簡単に破って甚大な被害にあっていたらだろう。
下手したら跡形も無くなっている。
(シアン、聞こえる?)
(!? スズですか?)
俺は念話でシアンに話しかける。
(ああ、今から言うことを良く聞いてくれ。さっきの地震の原因は俺の目の前にいる亀、おそらく金剛亀竜だ。尋常じゃない大きさと質量で地面に埋まっていたこいつが起きた事が原因だろう)
実際普通の金剛亀竜よりも遥かにでかい。
こんな大きな金剛亀竜は聞いたことがない。
(今からシアンの能力でできる限りこの森にいる生徒たちに村に戻るように呼びかけてくれ。そしてそこに待機するようにも。ジークには今から転移で王城に行ってハルさんを呼んでくるように伝えて欲しいって言ってくれ。他のみんなは村に向かうように。生徒たちが集まったら俺が王都に転移させる。俺からは以上だ。あとはシアンの判断に任せる。)
(わかりました!)
シアンとの念話を切ると、金剛亀竜はまた口を開けて俺に向かってブレスを放ってきた。
当然俺は『暴食』でブレスを捕食する。
俺じゃなければ危なかった。
(スズ様! ご無事ですか?)
今度は爺やから念話が送られてきた。
念話は相手を感知できていないと無理だが、爺やは魂の回廊を通して念話をしてきた。
(爺やか。俺は大丈夫。そっちは?)
(我らも無事にございます)
(わかった。今さっきの地震の原因と対峙しているんだけど詳しくは後で話す。俺が呼ぶまで待機していてくれ)
(かしこまりました。どうかご無事で)
念話を終え、金剛亀竜を観察する。
亀竜というだけあって頭は亀と言うよりも竜のような頭だ。
頭だけで何メートルあるのやら。
この大きさからして相当の年月を生きてきたのだろう。
そして、この地に何千年と眠っていたのかもしれない。
それこそ、その甲羅の上に山ができるくらいに。
ブレスが効かないと感じたのか今度は首元から無数の触手のようなものを生やして俺に襲いかかってきた。
俺は刀を取り出してすべて切り落とす。
しかし、切り落としたはずの触手の断面から新たに触手が生えて俺に襲いかかってきた。
……『調理師』の能力で再生できないように作り変えたはずなんだけどな。
俺の能力を上回る再生能力があるってことか?
仕方ないので刀で触手を捌いていると、横から風の魔術が金剛亀竜に襲いかかった。
「スズくん! ご無事ですか!?」
やって来たのは風の魔術で空中に浮いた学園長だ。
当然といえば当然だが、今は空中にいる。
「学園長か! 今どうなっている?」
「シアンさんが生徒や先生や騎士や冒険者たちに村に戻るように指示しています。既に村にいる人たちも混乱はしているようですが、勝手に逃げるような人たちはほとんどいません。」
シアンが指示してなお逃げる奴はいるみたいだがかなりの少数らしい。
そいつらは放っておこう。
そんなやつらを助ける時間はない。
「そっか。あとどれぐらいで生徒たちは集まりそう?」
「ほとんどの生徒たちは既に村にいましたし、森にいる生徒たちも村の近くまで来ていたのでおそらく10分くらいでしょう」
「わかった。学園長、村にいる人たち全員を転移させる事はできる?」
「不可能です。魔力が圧倒的に足りません。」
まあ、1000名以上を転移させるなんて普通は不可能だよな。
「じゃあ、術式の構築は?」
「それなら可能です。」
「だったら俺の魔力を渡すから術式の構築だけでも行って欲しいんだけど」
「そんなことして大丈夫なんですか?」
おそらく学園長が心配しているのは魔力を渡す量のことを言っているのだろう。
1000名以上の転移なんてとんでもない魔力をつかってしまう。
「大丈夫」
「……わかりました。それしかなさそうですね。術式の構築に時間がかかりそうなのですが?」
「じゃあ、今から行って!」
「わかりました」
そこまで話すと再び触手が襲ってきた。
学園長は転移していったことによって触手は学園長まで届くことはなかった。
しばらく、触手の対応を続ける。
今はこの金剛亀竜本体が動かずに触手のみで攻撃してきているが、こいつが動けば再び地震が起きる。
幸いここはメルデル大森林の中央に近い場所。
地震が起きても村や町にはあまり被害がでないだろう。
俺の故郷の村もここからだと遠いので大丈夫だろう。
しかしこの巨体だ。
移動スピードは早そうだ。
村や町に近づかれたら危ない。
結界を張ってもおそらくすぐに突破されるから無意味だ。
そんなとき、シアンの声が響き渡ってきた。
(スズ! 生徒たちを集め終わりました! 学園長の術式構築も終了しています!)
俺はすぐに学園長の元まで転移してきた。
「学園長!」
「ええ、あとは術式の構築は完了しています!」
俺は学園長に魔力を渡し、学園長が大規模転移魔術を使う。
次の瞬間、俺以外の人たちはみんなは消えた。
学園に転移させたのだ。
とんでもない量の魔力を消費してしまったが問題ない。
俺は再び金剛亀竜の元まで転移した。
再び金剛亀竜と相対する。
しかし、金剛亀竜は俺が現れたというのに攻撃してこない。
そう思っていたら金剛亀竜が歩き始めた。
王都の方角へ向かって。
やはりその巨体ゆえ一歩が大きく、なかなかに速い。
王都までまだかなり距離はあるが、それでも放っておくとこのスピードなら2日もしないうちにに王都まで辿り着いてしまうだろう。
金剛亀竜が走ることがあればもっと早いかもしれない。
そんなことさせる訳にはいかないので、刀で金剛亀竜の頭にめがけて斬撃を放つ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
金剛亀竜が叫び声を上げて、後ずさる。
しかし、ほとんどダメージを与えていないようだ。
頭がパックリ二つに別れるが、すぐさまくっついて元に戻る。
能力で再生できないようにしているのだが、やはりそれを上回る再生能力を持っているらしい。
単純に堅くもあるので倒すのにどれだけ時間がかかる事やら。
回復したは金剛亀竜怒ったのか、頭を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてくる。
俺はそれに対抗して刀で切り上げて金剛亀竜の首を切り落とす。
しかし、落ちてゆく首の断面から触手のようなものが生え、本体の断面とくっつき修復される。
キデンサーみたいな真似をしやがって!
仕方がない。
ここはひたすら大技で攻めて王都へと向かわないようにするしかない。
そう覚悟を決めた時、上空から赤い閃光が金剛亀竜を貫いた。