26 森への遠征
学園に入学して二ヶ月近くたった。
正直俺が今更教わる事なんて何もないので授業にはほとんどでていない。
だって、魔法科に所属しているけど、先生よりも圧倒的に魔法上手いし、理論的な事も俺の方が知識上だ。
戦闘訓練?
残念、相手になるやつがいない。
という訳で俺は授業も出ずに何をしているかと言うと、もっぱら学園長と魔法の研究をしている。
シアンが毎日迎えに来るため、学園には行くが授業を受けないので、それならばと学園長が提案してきたのだ。
生徒が授業をサボっているぞ! 学園長注意しろ! 何一緒になってやっているんだ! とか聞こえて来そうだが、Sクラスは授業に出なくても良い事になっている。
ただ、ホームルームには出る必要があるけど。
もっとも、授業に出なくて成績下がってSクラスから落ちようがその生徒の自己責任なのだけど。
まあ、そんな訳で俺は学園では学園長と研究をしている事が主である。
ちなみにシアンはちゃんと授業にでている。
「いやー、いくら授業を免除されているとはいえここまで授業に出席しない生徒なんておそらく君が始めてでしょうね」
「そうなの?」
「陛下ですらそれなりに出席していましたから」
「へぇ、そうなんだ」
「ところで、もうすぐ遠征なのですが、これは参加してくれますよね?」
遠征、この学園の行事として魔法科や騎士科、冒険者科など戦闘に関する生徒たちはメルデル大森林に一週間ほど遠征して、探索を行うのだ。
これは、成績への影響が大きく、ほぼ必ず参加しなければならない。
参加しないのはそれこそ文官志望の人達くらいだろう。
危険ではあるが、基本的に魔物の弱い森の浅いところで活動するし、先生や冒険者たちが付いていくのでそこまで危なくはない。
俺からすると安全をほぼ保障されているお遊びの遠征だ。
それでも死んだりした人はいるんだろうが、ここで死ぬような人は将来戦闘に関する仕事は無理だろう。
「うん、それは参加するよ」
「ああ、よかった。最悪、参加してくれなければSクラスから落とすと脅さなければいけないところでした」
こいつ……。
「……なんで、そんなに参加してほしいの?」
「君の実力があれば少なくとも君と同じ班の安全は保障されるでしょう?」
確かに俺ならメルデル大森林での探索で班のメンバーをほぼ確実に守ることができる。
魔王クラスでもでない限り大丈夫だ。
まあ、さすがに魔物の数が多すぎる闇の領域は難しいと思うけど。
俺はその言葉に頷く。
「私も行きますが万が一ってことがあれば困りますからね。予想はしていると思いますがあなたの班はジークくんとシアンさんも一緒ですよ」
他にも、ティリアにあと3年のSクラスの生徒が2人だそうだ。
おそらくその2人はあの人たちだろう。
はっきり言って過剰戦力である。
危険だが闇の領域にも入れる。
「と、いう訳で当日までに準備しておいてくださいね。頼りにしていますよ、スズくん」
そして当日、俺たちはメルデル大森林に向かう事になった。
同じ班の人たちと馬車に揺られている。
メンバーは俺とシアン、ジーク、ティリア。
そして、エシェントさんの息子のミラルドとその婚約者、クレセナだ。
2人とも3年のSクラスで幼い頃からの知り合いである。
「にしても、この馬車まったく揺れねーな」
俺たちが乗っている馬車はまったくって言ってもいいほど揺れていない。
その理由は、この馬車は俺が作ったゴーレム馬車だ。
物理的にも魔術的にも内部が揺れないような構造で作っている。
また、空間魔術も併用しており、外見よりも遥かに内部は広い空間になっている。
パチン
この遠征に基本馬車で行く事になるのだが、学校からも出してくれるが自分で所有している馬車を使ってもいいのだ。
貴族なんかは家で所有している馬車で向かうことが多いらしい。
まあ、転移で向かってもいいのだがせっかくなので馬車を作ったのだ。
「そうだよね、こんな馬車見たことないよね。もし、みんなに知られたら手に入れようと躍起になるんじゃない?」
「だよな、貴族とか商人に知られたら確実にスズにちょっかいをだしてくる」
「大丈夫だよ。外見はちょっと豪華な馬車だし。中に入らないとこの馬車の価値は分からないよ」
パチン
「それもそうだよね。スズくん、安心して、私もミラルドくんも誰にも話さないし」
「ああ、こんな快適な旅をさせて貰っているんだ。恩を仇で返すような真似はしねーよ」
「本当ですよ。もし、この馬車のことが他の人に知られたらスズ様の事を殺してでも奪い取ろうとする輩が出て来ると思いますわ」
「それほどかな?」
「それほどですよ! こんな馬車、わたくしの実家はもちろん王家にもございませんわ」
まじか、けっこうパパッと作ったんだけどな。
俺的にはこの馬車自体より馬車を引いている馬の方が遥かに価値が高いんだけどな。
パチン
その馬車を引いているのはもちろん俺のゴーレムだ。
外見は鎧を着せた馬に見えるのだけど、なんとこのゴーレム、人型に変形するのだ!
まだまだ試作品ではあるが、俺のゴーレムの中でも現時点で最強のゴーレムとなっている。
やっぱ変形はロマンだよね。
さらに自動操縦が可能なので行者はデコイを置いている。
つまり今、誰も馬車を操作していない。
それでも安全だ。
パチン
「はい、王手」
「あ」
これは……詰みだな。
「あー、負けたー」
「これで2勝2敗だね」
目的地に着くまで暇なので俺はジークと将棋をしている。
他にもチェスやオセロやトランプもある。
これらは俺が作った物、ではない。
元からこの世界にあった物だ。
これを意味する事は異世界人がいるという事だ。
転生者は聞いた事はない。
異世界人はこの世界では認知されている。
時空の歪みで極稀に現れるそうだ。
まあ、あった事は無いんだけどね。
それにしてもジーク強いな。
これでも前世じゃ将棋の名人に勝った事があるんだけどな。
はっきり言ってあの名人よりも遥かに強い。
やっぱりジークは賢いな。
この国で一番頭がいいと思う。
揺れない馬車に揺られ、森の手前の村に到着。
馬車と馬は『暴食』で回収しておく。
生物は『暴食』で生きたまま捕食は一部を覗いて不可能、というより捕食すると殺してしまうが、この馬はゴーレムなので問題ない。
この村は村っていうか半分砦みたいなものだ。
何しろほとんど無いとはいえ闇の領域から魔物が出てこないか監視しなければならない。
よってこういう場所が必要なのだ。
そこで学園長による最終確認の説明会が行われ、一夜を過ごす。
翌朝から一週間野営をしながらメルデル大森林を班別で探索する。
班ごとに先生や騎士やCランク以上の冒険者が引率をしているが、俺たちの班には誰も付いていない。
必要がないからだ。
何しろ全員冒険者でいうAランクを超えた力を持っている。
ジークやシアンはユニークスキルを保有していて更に強い。
俺は言わずもがな。
それから何事もなく森での探索の最終日になった。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「ですね。あー、弱っちいのばっかでつまんなかったです」
「こら、クレセナ、余計な事を言うな。危険が無くてよかっただろ」
「ミラルドくん、そうですけど、ほとんど瞬殺じゃないですか。なんの訓練にもなっていませんよ」
クレセナの言う通り出てきた魔物はせいぜいC〜Dランクだろう。
Bランクが一体だけ出てきたかな?
この辺りではその程度だ。
それでも一般的な生徒達ならとても危険だ。
倒せて単体のCランクの魔物だろう。
おそらく俺たちの班が一番奥まで進んでいる。
何故なら帰りは転移で帰れるので戻る時間を考えなくてもよかったからだ。
きっと、ほとんどの班は既に村へと戻っているだろう。
もっと奥に行けば強いのがいるだろうが時間がない。
「そのような事を言うんじゃありませんわクレセナさん。他の生徒が聞いたらマズイですわよ」
まあ、優秀な生徒たちって言っても所詮は生徒だ。
この班が異常なだけで他の班は苦労している人も多いだろう。
「はぁーい」
「それでは、みんな、帰ろうか」
野営での後片付けをして、転移で帰ろうとしたその時、世界が揺れた。
そう感じるほどの地震が足元を揺らす。
今まで、それこそ前世ですら感じた事のない地震だ。
効果音をつけるとしたら、グラグラグラ! ではなく、ゴゴゴゴゴゴ! って感じに揺れる。
大きく、長く、地面が揺れる。
みんな立っていられなくなり膝をついている。
これ程の地震、もちろんただの地震ではない。
その証拠に今度はとても大きな音の衝撃が襲ってくる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
声にもならない声。
絶叫のような甲高い衝撃となるほど大きな咆哮が響き渡る。
すぐさまその咆哮のする方を見るが木々が邪魔で何も見えないので上空に飛び上がり視認する。
森の奥、遥か遠くに山が足を生やして立っていた。
そう表現するしかない。
そして、その山の下の方から大きな突起物のような物が見える。
あれは頭か?
だったらあれは……亀?
この距離からでも凄まじい魔力量を感じる。
「スズ! あの亀はなんだ!? 突然現れたぞ!!」
ジークの声が下から聞こえてくる。
どうやらジークにはあそこからでも視えているみたいだ。
「わからない! 少なくても転移ではない! もともとそこにいたのだろう!」
だとすると今の地震はあそこに埋まっていたあいつが起きただけのものか?
そう考察した次の瞬間、巨大な亀の頭に膨大な魔力が集まりだす。
「やっば!」
俺は急いであの亀の頭の近くまで転移する。
転移は基本行ったことのある場所にしか行けないが、そこに膨大な魔力が集まった為簡単に空間座標を割り出すことが出来たので転移に成功する。
転移すると、亀が口を大きく開けていた。
その亀の頭は竜のようだった。
そして、その竜のような亀の口から馬鹿げた大きさのブレスが放たれた。