21 スズくんの3分間ビルディング
転移した先は王城に用意されている俺の部屋だ。
今もゼシェルとセレスティナの体の構築が進んでいる。
そういえば今日は朝ご飯しか食べていないな。
ちょっと遅いかも知れないけど食堂に行ってよう。
まだ誰かいるかも知れない。
食堂に向かうとみんなまだいた。
どうやら夕食は既に終わっており、デザートを食べながら談笑しているみたいだ。
「スズ! 今までどこに行っていたんですか! 夕食の時間になっても現れませんし心配したんですよ!」
シアンが怒ってきた。
何時もの事だ。
「せめて、どこかに行くのなら教えて欲しいものです! ってスズ? あなた、泣いているの?」
「え?」
俺は目元に指先を当てる。
すると、指先が濡れた。
確かに涙を流しているみたいだ。
「あれ、本当だ」
「……何かあったのですか?」
シアン以外にもハルさんやリーシアさん、ジークも訪ねてくる。
みんな意外そうな、心配そうな顔をしている。
そう言えば赤ちゃん時代以外泣いたことないかもしれないな。
そんな俺が泣いているのだ。
みんな心配してくれているのだろう。
「うん。シアンにもみんなにも聞いて貰っておいた方がいいかな。」
俺は席に着いて今日あった事を語り出した。
「……そうか、そんな事があったのだな」
「スズ、よかったね。彼らと出会えて。それにしてもスズの出自がチェスター侯爵家とはね」
「そういえば、たしかに15年ほど前にチェスター侯爵家の生まれたばかりの子供が誘拐されたとか聞いたな。それがスズとは。もっともチェスター侯爵はスズの事を殺そうとしたみたいだけどな」
ハルさんとジークが殺気だっている。
「まあ、出自はどうでもいい。俺はスズ・ロゼリアだからな。そのチェスター侯爵を今更どうこうしようと思わないよ。正直どうでもいい」
そう、俺の両親はグレイスとアーシャ、妹はシエルだ。
俺はロゼリアなのだ。
「そうか、お前がそういうなら放っておこう」
「うぅ、スズくん、よかったわね。ああ、涙が止まらないわ」
「ぐす、スズ、私、お二方にスズを助けてくれたお礼が言いたいです。お会いする事はできませんか?」
リーシアさんとシアンは咽び泣いている。
どうやら俺の話を聞いて感動したようだ。
「二人ともまだ受肉が終わっていないからむりだよ。」
「そうですか。では後ほど会わせてくださいね」
「わかった」
とりあえず、話は終わったので何か食べるものは無いと聞く。
俺は『半人半鬼』という、半精神生命体なので、おそらく食事をしなくても生きていく事は可能だ。
しかし俺にとって食べる事は生きがいなのだ。
だてに『暴食』を習得しているわけしゃない。
幸いすぐに料理を作ってくれるみたいだ。
「そうだ。スズ、既にあの土地を使うことができるぞ」
「ハルさんほんと!?」
昨日、ギルドから帰ってからベロニカさんに欲しい土地を知らせておいたのだ。
まさかもう使用可能だとは。
「ああ、あの場は既にお前のものになっている。」
「さすがベロニカさん仕事が早い」
「……本当に建設業者は必要ないのか?」
「うん、悪いけど自分で建てた方が遥かに早い」
それこそ1日どころか3分もかからないと思う。
「あ、そうだ、土地の代金は?」
「ああ、それなら必要ない。あれは、俺からの入学祝いだ」
「……いいの? たしかに一括で払えるほど今は所持金は無いけど」
「ああ、その代わりと言ってはなんだが、どのように建築するのか見学しても良いか? 興味がある」
「あら、私も興味があるわ」
「そうだね、とても気になるよ」
「私も気になります。スズ、見学してもよろしいですか?」
「別に見られて困るようなものじゃ無いからいいよ。じゃあ、明日の早朝でいいかな? それならみんな大丈夫でしょう?」
みんな一応スケジュールを確認してから頷いた。
「あ、そうだ、ハルさん聞いておきたい事があるんだけど」
「なんだ?」
「お金欲しいから闇の領域の魔物の素材を売りたいのだけど冒険者ギルドで売ってもいい?」
俺の言葉に4人ともポカーンとしている。
「……あぁ、そういえば闇の領域に出入りしていたらしいな。どれくらいある?」
「いっぱい」
「なんだそれは。仕方が無い。ギルマスには俺から言っておくからしばらく売るのはしばらく待ってくれ。あと、Sランク以上のものは売るなら俺に言ってくれ。こっちで買い取る。あとは、一度に大量に売らないでくれよ。小出しにしてくれ」
「わかった」
よし、これで俺の王都での経済事情が格段に良くなるな。
何しろ闇の領域の魔物の素材と言えば非常に有用だけど希少だからな。
かなりの高値で売れる。
ちょうど料理が運ばれてきたので俺は食事を始めた。
この時間こそ至福だ。
翌日の早朝、まだ日は昇りかけで辺りは薄暗い。
そんな時間帯にシアンたちと俺は中流区の目的の場所までやって来た。
「じゃあ、みんな少し離れていて」
シアンたちが俺から少し離れた事を確認する。
さて、始めよう。
3分間ビルディングを!
さて、始まりました!
スズくんの3分間ビルディング!
今回建設するのはスズくんの夢のマイホームです!
用意するのはこれ。
整地された平坦な広い土地と闇の領域で採取した大量の木材や石材、さらにSランク相当の魔物から採取された大きな魔石、そしてその他もろもろ。
まず、最初に『暴食』内部に用意しておいた材料をすべて取り出します。
一気の取り出した為すごい物音がしましたが気にしてはいけません。
早朝からの騒音ですが幸い周辺に住宅は少ないので騒音被害に遭われた方は少ないでしょう。
被害にあった方はご愁傷様。
そして材料を取り出した後は魔術を使います。
術式の構築を正確に行わないといけないので慎重に構築しましょう。
術式の構築を終わり魔術を発動させます。
「ゴーレムクリエイト!」
なんという事でしょう!
バラバラだった材料は次々と形を変えてあっという間に屋敷なったではありませんか!
木を中心とした立派お屋敷です。
土地も広かった為後に大きな庭も出来るでしょう。
スズくんの夢のマイホームが完成です!
この間たった3分!
と、脳内茶番はこれくらいにしておく。
あらかじめ設計した通りの完璧な屋敷になっている。
土地ごと"ゴーレムクリエイト"したので土台もしっかりしていて耐震もバッチリだろう。
まあ日本ほど地震はないが。
「はい、出来たよ。どうよ、凄いでしょ!」
後ろを振り返れば4人ともポカーンとしている。
「あ、ああ、まさか、"ゴーレムクリエイト"で屋敷を建設するとは」
「たしかに、あっという間に屋敷が出来たわね。まさか"ゴーレムクリエイト"にこんな使い方があるなんて」
「しかし母上、先ほどのの術式構築の精密さと必要な魔力からこんな事が出来るのはスズくらいでしょう」
「スズ、すごいですね! 入ってもよろしいですか?」
4人ともすぐに我に返り各々感想を述べる。
「入ってもいいけど家具とかはまだ無いよ。それでもいい?」
「はい! では参りましょう!」
シアンたちを案内しようと思ったが、体内、と言うよりは『暴食』内部での変化を感じた。
「あ、ちょっと待って」
みんなを引き止める。
「たった今、ゼシェルとセレスティアの受肉が完了した」




