16 冒険者ギルド
翌日、俺はシアンたちと朝食をとってからベロニカさんに土地の件を聞きにいった。
ベロニカさんは数枚の書類を持ってきた。
どうやら、これらの中から選べとのことらしい。
実際に見てみようと書類に移された場所に行くことにした。
シアンも一緒に来たがっていたが断った。
その後に冒険者ギルドに行く予定だからだ。
一通り書類に記された土地を見て回る。
その土地は全て、下級貴族や富豪などが屋敷を構えている上流区である。
俺はハルさんに学園が近くてそこそこ広い土地であればいいと言ったのだがかなりいいのをを紹介してくれるみたいだ。
その書類に記された土地は全て学園に近く、かなり広い土地で、ついでに王城にもかなり近い。
見回った中から気に入った土地を決める。
……うん、ここがいいかな。
俺が決めた土地は学園にも近く、王城にも近い。
さらに人通りも少ない。
中流区、中でも上流区に近いため人通りが特に少ない。
あと、ここならアレができるかもしれない。
欲しい土地を決めたので次は冒険者ギルドへ向かう。
この時間帯ならあまり人はいないはずだ。
ギルドに着くと王都のギルドなだけあって大きく、この時間帯でもそこそこ人の出入りがあるがかなりマシだろう。
俺は中に入り受付と思わしき所に向かった。
「すみません」
「はいはっ!」
座って何か作業をしていた受付嬢? は顔を上げて俺を見ると固まった。
「ここは受付ですか?」
「……っっ!は、はい!ここは受付でしゅ!」
彼女は盛大に噛んだ。
顔が真っ赤になっていく。
まあ、どうでもいいので聞きたいことを聞く。
「冒険者に登録したいんだけど」
「ぼ、冒険者の登録ですね。少々お待ちください」
そういうと彼女は一枚の紙を取り出した。
「そ、それではこちらに必要事項をご記入ください。読み書きが出来なければこちらで代筆いたします」
首を横に振って、紙とペンを受け取り必要事項書き始める。
書いている途中視線を感じたのでチラッと受付嬢を見ると俺をガン見している。
なにこの人怖い。
紙に必要事項の記入を終え、受付嬢に渡す。
「はい、スズ・ロゼリア様ですね。……スズ・ロゼリア? 」
受付嬢は俺の名前を見て、あっとしたような顔をした。
「スズ・ロゼリア様で間違いないでしょうか?」
「うん。そうだよ。」
「あなたがいらっしゃったらギルドマスターがお呼びしろとの事です。ギルドマスターと面会してもらってもよろしいでしょうか?」
お、これは、まさか、あれではないか!
冒険者登録といえばテンプレ。
酒を飲んでいるC〜Aランクのガラの悪い冒険者に絡まれ、捻り潰し、ギルドマスターが出てきて、最高ランクを与えてくれるという。
まあ、実際は絡んでくる冒険者なんていないんだけど。
周りを見る限り受付嬢さんに馴れ馴れしく話しやがって! 的な感じにこれから絡んできそうな冒険者もいない。
ちょっとだけ期待してきたんだけど断念。
新人が来るたびに絡んでいくような奴はいないだろう。
そんな事していたら確実に注意を受けるし嫌われる。
でもまあ、ギルドマスターには会えるみたいだ。
おそらくハルさんの差金だろう。
俺は受付嬢の言葉に頷き、案内に従って奥へ進んだ。
受付嬢はギルドマスターがいるであろう部屋のドアにノックする。
「失礼します。ギルドマスター、いらっしゃいますか?」
「ああ、いるぞ。どうした?」
「スズ・ロゼリア様がいらっしゃいました」
「なに? 本当か? 入ってくれ」
受付嬢はドア開き俺に部屋に入るように促す。
部屋に入るとそこにはゴツめの壮年の男がいた。
「よう、お前がスズか。会うのは初めてだが話しは聞いているよ。ギルドマスターのグランツだ。」
「はじめまして。スズです。どうして登録しに来た俺をわざわざギルドマスターが呼んだんだ?」
「はっはっは、陛下からいろいろ聞いているからな、実際にこの目で見ておきたくてな。エリー、こいつの登録用紙があるなら持ってきてくれ」
「かしこまりました」
どうやらこの受付嬢はエリーと呼ばれているらしい。
エリーは部屋を出て、すぐに紙を持って戻ってきた。
先ほど俺が書いた登録用紙だ。
それをギルドマスターに渡した。
「ごくろう。仕事に戻ってくれ。ああ、ついでにこれも頼む。」
エリーは少し不満そうな顔をするがグランツさんから紙を受け取る。
「あ、名前まだ言ってませんでしたね。私はエリーと申します。今後ともよろしくお願いします」
そして去り際に名前を言って出て行った。
「なんだあいつ、仕事に戻りたくなさそうだったな。さっきもすぐに戻ってきたし。」
そう言ってからグランツさんは俺の顔を見て納得する様な顔をする。
「あー、なるほどな。これはたしかに。お前も罪作りなやつだな」
グランツさんはニヤニヤしながら言ってくる。
「そんな事より要件は?」
「ああ、冒険者ギルドの制度については知っているか?」
「だいたいは」
「そうか、なら一応ランクアップの制度だけ少し話そう」
ギルドマスター、ギルマスでいいか。
ギルマスが言うにはこうだ。
まず、冒険者はランクがあり、F〜Sランクに別れている。
登録するとFランクから始まる。
ランクアップするには幾つかの依頼を達成するか、ランクアップ試験を受ける必要がある。
Dランクより上に上がるには必ずランクアップ試験を受ける必要がある。
SランクになるにはSランクの依頼を1回達成して、Sランク冒険者2名以上とギルドマスターの推薦があればなる事ができる。
「お前の実力は陛下から一応聞いているが実際は知らんからな。いまからAランクのランクアップ試験を受けてもらう。」
「いまから?」
「ああ、試験官をさっきエリーに呼ぶように言ったからもう少ししたら来ると思うが。」
しばらくすると、ノックの音がする。
ドアはグランツさんが返事する前に開かれた。
「はぁーい! ギルマス、あたしをお、よ、び?」
現れたのは2メートルを軽く超え、腕が丸太のように太い筋肉隆々のとてつもなくゴツい男だった。
ただし、とても濃い化粧をしておりピンクを基調としたフリフリの服を着ており、なんだかクネクネしていて気持ち悪い女言葉で話す。
そう、オネェである!
「あれ、おねぇだ久しぶり」
「あら、スズちゃんじゃない! 相変わらずカッコいいわね」
挨拶を交わすと彼、もとい彼女はクネクネしながら近づいてきた。
SAN値がガリガリ削れそうな光景だが俺はもう慣れた。
彼女こそが俺が面識のあるSランク冒険者の一人、『桃壊姫』プリティーナ・ロドリゲスである。