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121 決着

 ーーガギィン!!ーー


「なにっ!?」


 ジブリールが驚きの表情に染まる。

 何しろ振り下ろされた刃が受け止められたのだから。

 それも満身創痍で意識も朦朧として何の抵抗もできそうにない相手に。


「まだ抗うのですか!?」

「ーーーーだよ」

「何を言って?」

「ーー言ってんだよ。シアンが頑張れって言ってんだよ!! こんな所で負けてたまるか!!!」


 なけなしの力を込めてギリギリと膠着していた鍔迫り合いを押し返す。


 そうだ、こんな所で負けてたまるか!!

 シアンと約束したんだよ。

 何を弱気になっている。

 あいつとの約束は自らの存在を賭してでも守らないといけないのだ。


 それにシアンは言っているのだ。

 頑張れと。

 負けるなと。


 魂の底から聞こえてくる。

 シアンの歌声が。

 そこに込められた想いは俺に力を分け与えてくれる。


 通じ合った魂は時空を超えて響かせる。

 最も力のある言葉。

 原初の言葉、歌を。


「あああああああ!!!」


 だけど足りない。

 それでは奴に届かない。

 後必要なのは俺の力。

 しかし、そんなものはとうに無くなっている。

 それでも絞り出す。

 無理矢理絞り出す。

 俺は自らの胸に手を突き刺し、心臓を抉り取った。


 霊的側面が強い俺に心臓なんて必要ないのだが、人間だった頃の名残だ。

 無くなったところでどうという事ない。

 しかし、これは契機なのだ。

 引き金なのだ。

 力を無理矢理絞り出す為の。


 引き抜いた心臓を俺は喰らう。

 やっている事はタコが自らの脚を食べているのと一緒。

 切り札でも奥の手でも何でもない。

 無様な延命行為。

 俺は自らの存在を喰らっているのだ。

 一歩間違えればそのまま喰い尽くしてしまう。

 ましてや今の状態では制御なんて不可能にちかい。

 危険極まりない行為たが、無理矢理力を絞り出す事は出来る。


 シアンの歌声が俺に勇気と力をくれた。

 足りない分は無理矢理でも絞り出す!!


「何をしてっっっつ!??」


 ジブリールの表情が再び驚愕に染まる。

 奇行とも取れる俺の行動の後に、俺が信じられない力を発揮したからだ。


「どこにそんな力が!?」

「時間がない。このまま決着をつけさせてもらうぞ!!」


 ガムシャラに刀を振るう。

 そこには何時もの繊細な技術なんて存在しない。

 ただ生きる為に、生存本能のままに刀を振るう。

 その姿はとても無様だろう。

 だけど、俺は生きて帰らないといけない。

 絶対にシアンの元へ帰らないといけない。

 例え地を這ってでも。

 無様だろうが何だろうが絶対に。


「何なのですお前は!? どうして死なないのです!?」


 一刻一刻と俺に時間がなくなっていく。

 時間と共に俺の存在は希薄になっていく。

 ジブリールの攻撃によるダメージも受けている。

 それでも俺は止まらない。

 ひたすら刀を振るい攻め続ける。

 そんな俺にジブリールは心底恐怖しているようだ。


「大神様はすぐそこなのに、早く死んで! 死んで! 死んで!!」

「死ぬのはあなたよ」


 顔を歪めながら戦うジブリールの腹部に槍の一撃が入る。


「ああ、勇気と力が湧いてくるわ。本当にいい歌」


 そう言うのは先ほどまで倒れていたレヴィアだ。

 どうやらシアンの歌声は俺から流れ出してレヴィアにも届いているらしい。

 と言う事は。

 すぐさま体勢を立て直して間合いを詰めるジブリールを横から切り裂くユウ。


「本当だ。力が溢れるようだ。いいお嫁さんを持ったねスズ」


 ああ、世界で一番の自慢の嫁だ。


「何なのですお前達は!? どうして動けるのですか!!?」


 満身創痍で今にも消えそうな俺。

 ジブリールの不意打ちをくらい、瀕死で意識を失っていたレヴィアとユウ。


 俺たちが立ち上がり戦う姿を見てジブリールは恐怖する。


「あら、貴女にはこの歌が聞こえない? とってもいい歌よ」

「歌?」


 次の瞬間、ジブリールはハッとなり恐怖に歪んでいた顔が盛大な怒りで醜く歪む。


「この歌は、あの女の!! また私の邪魔をするのですか!!? 何処だ!! 出てきなさい!! 縊り殺してやる!!!」


 怒りに身を任せてジブリールは暴れまわる。

 滑稽だな。

 お前の言うあの女は既にこの世にいないと言うのに。

 お前が聞いているこの歌は彼女の因子が大きく発現した存在の歌だ。

 彼女とは関係ない。

 しかし、そんな事はジブリールに関係ないようで怒り狂っている。

 ジブリールは彼女の事が世界で一番嫌いだ。

 何故なら大神が彼女の事を愛していたから。


 だけどな、この歌はシアンの歌だ。

 彼女じゃない。

 そこんとこ間違えんなよ。


「ふっ、何を怒り狂っている。大神様が見たら失望するぞ?」


 さらに乱入するのは漆黒の堕天使。

 ……あれ、片方の翼だけ純白だ。

 だけど、今はそんな事はどうでもいい。


「シエルは?」

「私の神殿で眠っている。ちゃんと無事だ」


 良かった。

 無事だ。


「ミトラ。裏切り者!!」

「もうそのやり取りは飽きているんだ。今更会話でどうにかなるものでもない。さて、お前達は満身創痍だろう。ここは私に任せるといい」


 確かに、この中ではミトラが一番軽傷だ。

 それでも無傷じゃない。

 それには、


「「「冗談言うな!!」」」


 こんなところでお前一人に任せる俺たちじゃないだろ。


「そうだ。お主一人に任せるわけなかろう」


 さらにはアルマまで現れる。

 ああそうか。

 天使は全滅したのだ。

 ここにこない理由はないか。


「お前は!?」

「アルマじゃ。お主がジブリールか。父上に恋慕するのは勝手じゃが、いささか迷惑がすぎる。反省せい」

「大神様にお前みたいな娘はいない!! そんな無礼な妄言を勝手に垂れるな!!」

「無礼はお主じゃろう。それに残念ながら妾の母上は決まっているのじゃ。お主の出る幕はない」

「黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」


 大神が愛した彼女をアルマが母と慕うのは道理でだろう。

 だから、アルマは彼女の因子を持つシアンにすぐに懐いたのだ。

 だけど、ジブリールはアルマを大神の娘と認めない。

 アルマの存在を認めない。

 それを認めてしまえばアルマの母、つまり大神の伴侶は彼女だと認めてしまうという事だから。

 ジブリールもアルマが大神の娘と半分程は認めているのだろう。

 だからこうも怒り狂う。


「はっはーー! まだ決着はついていないようだぞ爺さん!!」

「そのようじゃのぉ」

「ちょっと!! そんなに揺らさないでよ!! 落ちちゃうでしょ!!」


 最後に現れるのはシャイターンとベルフェストとイルミス。

 その姿は人ではなく巨人と竜だ。

 イルミスは相変わらず妖精の姿であり、二人と比べると小さすぎて見失いそうである。


「私は戦えないから後ろにいるけどここが崩壊しないように努めるわ」


 さらには、そそくさと後方へ下がっていった。

 だけどこれで勢揃いだ。

 ルシアはいないけど、神王にアルマにユウ。

 この世界の最高戦力がここに揃ったのだ。


「俺たちはここに揃った。お前の負けだジブリール」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れえええええ!!!」


 突っ込んでくるジブリール。

 だけど、この状況じゃあお前は終わりだ。


「"デストロイアッパー"!!」


 地面を抉りながらのシャイターンの巨大な拳に上空へ打ち上げられ、


「"カオスブレス"」


 ベルフェストのブレスが直撃し、


「"水蛇転生"!!」


 レヴィアの蛇の水流に噛みつかれ、


「"ワールドエンド"!!」


 アルマの小世界の創造と破戒に巻き込まれ、


「"破邪の聖剣"!!」


 ユウの聖なる剣に切り刻まれ、


「"断罪の閃光"」


 ミトラの光と炎が入り混じった閃光に貫かれ、


「これでお終い!! "天翔烈空斬"!!」


 俺の全てを喰い切る斬撃がジブリールを包み込んだ。



 ー▽ー



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 誰もが今できる最大の技を叩き込んだ。

 だけど、ジブリールは未だに原型を保っており生きている。


「ぐっ、ふっ。ま、まだです。まだ終わっていません。私は大神様を」

「いいや、終わりだ」


 よろよろと立ち上がるジブリールだが、もう終わりなのだ。


「な、何なのですかこれは!!? は、離れろ!!」


 彼女を徐々に蝕んでいく黒いオーラ。

 それは、俺の『暴食神(ベルゼブル)』が具現化したものだ。


「お前はもう終わりだよ。さようならジブリール」

「い、いやだ!! やめなさい!! 私は大神を」

「いただきます」


 最後は俺が直接触れてジブリールを捕食した。


「勝った。シアン、お前のおかげだ。約束は守ったぞ」


 そして、俺は意識を失った。






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