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116 ヒトの極致

 ああ、心配だ。

 シエルは大丈夫だろうか。

 ミトラが戦っている相手はミカエル。

 詳しくは知らないが天使の中で最強らしい。

 そんな奴がいる所にシエルを行かせないといけないとは。

 妹を死地とも呼べる場所に向かわせないといけないなんて、不甲斐ない兄だな。

 まあでも、ミトラの援護を出来るのはシエルだけだからな。


 シエルは本来、ハルさんと同等かそれより少し下の強さだ。

 つまり、ミカエルに敵うはずがない。

 それどころかミトラの足手まといになるだけだ。

 普通ならば。


 あれはいつの事だったか。

 ミトラがシエルに訓練を施したのだ。

 俺はそれを側で見ていた。

 訓練も終わりに近づいた頃にそれは起こった。

 二人の魔力ばぶつかり合った時、とてつもないエネルギーが発生した。

 近くにいた爺やが余波だけで死にそうになったほどだ。

 真正面から受けていれば俺でも致命傷になりかねないほどのエネルギー。

 それは偶然ではなく、後に色々と試した結果、二人の魔力が融合した結果生まれるエネルギーである事が判明した。


 はっきりとは原因はわからないが、波長が奇跡的に合うのだろう。

 二人の存在はとても似ている。

 存在が矛盾しているのだ。


 シエルは真祖の吸血鬼だ。

 その存在は魔。

 にもかかわらず勇者であり、その力は血であり氷であり、そして聖なる力だ。

 そして、ミトラは堕天使だ。

 その存在は闇。

 にもかかわらず、その力は光。

 大いなる美徳の力を持っている。


 二人とも存在と力が矛盾している。

 だが、それがお互いを邪魔する事なんて一切ない。

 だからだろうか。

 二人の波長が合うのは。

 融合した魔力は絶大な力を誇る。

 それこそミトラ一人よりも断然強い。


 だからシエルにはミトラの援護ができる。

 シエルにしかできない。

 仮に、ミトラが一人でミカエルに勝てるならばシエルを行かせる必要はないのだが。

 こうなってしまった以上は仕方ない。

 今はシエルの無事を祈りながら、自身の役割をこなすことだ。


 世界を終わらせない為に。

 ハルさんを死なせない為に。


 ー▽ー


「ふっ、はっ、おぉ!!」


 ハルは己が愛槍を振るう。

 極限まで感覚を研ぎ澄ませて相手の攻撃を回避し受け流し、一瞬の隙を見つけては鋭い突きを放つ。

 一度でも直撃を受けようものなら致命傷になる存在を相手にして、ハルは優位を保っていた。


「くそがぁぁ!! ちょこまかと動きやがって。いい加減あたりやがれ!!」


 一撃一撃は大したことはない。

 しかし、積み重なったダメージはもはや無視できない。

 何よりも問題なのは時間と共に受けるダメージ量が多くなっていっている事だ。

 能力によってダメージを受け流しているにもかかわらず。


 ウリエルは思うように事が進まず怒り狂ったように剣を振るうが、それを紙一重で避け続け、カウンターをいれる。


 何度それを繰り返しただろうか。

 慣れと経験により、極限まで研ぎ澄まされた槍術は神の領域に届かんとするものであったが、いかんせん消耗が大きく息が乱れてくる。


 ただでさえ不利な状況であるのに、このままでは自身の体力が先に尽きてしまうという時だった。

 ウリエルの攻撃を掻い潜って槍を放つ。

 目にも留まらぬはやさで放たれた鋭い突きはウリエルの腕を捉えて吹き飛ばした。


「なっ!?」


 通常ならそんな事はありえない。

 何故ならそんなもの受け流して周りの天使に押し付けているのだから。

 しかし、今回はそれができなかった。

 だから腕が吹き飛んだ。


 ハルはそれを見逃さない。

 何故だか知らないがウリエルの能力は封印された。

 ならば今が好機である。

 驚愕に染まるウリエルに何度も突きを放つ。

 一つ一つが先ほどと変わらない威力が秘められている神速の突き。

 さらに怯んだウリエルにハルは上空に飛び上がり渾身の一撃を放つ。


「おおぉぉぉぉ!! "メテオジャベリン"!!」


 上空より放たれる投擲。

 ハルの闘気の全てを槍に込めて放たれた一撃はウリエルを貫き、爆発した。


「はあ、はあ、はあ。どうだ?」


 文字通り乾坤一擲の一撃を放ったハルはさすがに限界である。

 巻きちった砂埃が開けるとそこには瀕死でありながらも未だに健在なウリエルの姿があった。


「化け物め」

「グォォォォ!!? 何故能力が発動しない!?」


 これはどうしたものかと苦笑いするハルに対してウリエルも余裕はなくなっている。

 何故か能力が発動しないのだ。

 ダメージを押し付ける事もできず、思うように自己強化もされない。

 その結果がこれだ。

 さらには、人間如きに致命傷を負わされ深くプライドを傷つけられた。


「クソがっ!! 私がお前如きに負けるなどあってはならんのだ!!」

「いいや、ハルさんの勝ちだ」


 声が聞こえたかと思うと、ウリエルの胸に突如刀が後ろから生えた。


「お、お前は」

「いただきます」


 そして、その刀に吸収されるようにウリエルは飲み込まれてこの世から姿を消し去った。




ウリエルは基本的に敬語ですが、すぐにボロがでます。

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