114 槍聖王vs誓約の熾天使
レヴィア達の元に向かう前に、ひとまずは彼女達に連絡する。
『レヴィア、ユウ、無事か?』
『スズどうしたの?』
『今からそちらに向かう』
『熾天使は?』
『……ハルさんが』
『そう……だったらこっちに来るのは少し待ちなさい』
『何故だ?』
レヴィアが言うにはつい先ほど、この様な事があったらしい。
何でも、ルシアが置き土産にジブリールの動きを封じ込めてくれたそうだ。
つまり、時間制限はあるが、あちらでは2対2で戦う事ができると。
『だったら尚更そっちに向かった方がいいだろ。ジブリールが復活する前に熾天使を倒した方がいいんじゃないか?』
『それもそうなんだけど、スズ。アレ撃てる?』
『アレ?』
『ええ。昔、私と初めて出会った時に撃ってきたアレよ』
ああアレね。
『いけるけど発動に時間がかかるし動きも制限される。発動後はまともに動けなくなるぞ』
『でも一撃でジブリールを仕留めることは?』
『できる』
なんせあの技は世界そのものすら確実に破壊する事ができる技だからな。
いくらジブリールでも当たれば死ぬだろう。
ルシアでも死ぬと思う。
『だったらジブリールが復活するギリギリまで準備して』
『わかった。そちらの方が良さそうだな』
『じゃあまた後で。頼んだわよ』
レヴィアとの念話を切る。
さて、やるからには今できる最大威力でしたいな。
中途半端でミスしたら取り返しのつかない事になるし。
できるだけエネルギーを確保した方がいいな。
今の俺ならある程度は準備したがら動き回る事もできる。
熾天使クラスと戦うにはキツイが。
確か、ベルフェストとアルマの所に爆弾があるな。
膨大なエネルギーを持った。
『アルマ、今大丈夫か?』
『おおスズか。妾は大丈夫じゃ』
『俺が今からそっちに向かって、そこの自爆しそうな天使を捕食する事はできるか?』
『おおなるほどの! それは……無理かもじゃ。今は妾の力で無理やり抑え付けているが、下手に外部から干渉を受ければ爆発しかねん』
くそ、無理か。
出来たらアルマとベルフェストも自由になるし、俺もエネルギーを得られるから最高だったのだがな。
『そうか。邪魔したな』
『そちらは大丈夫なのか?』
『ああ、一応な。レヴィアも大丈夫みたいだど』
『!! レヴィアも一緒にいるのか!?』
『いや、先ほど念話しただけだ』
『そうか。レヴィアは無事か』
アルマにとってレヴィアは育ての親だからな。
今、最も危険な所にいるレヴィアが心配なんだろう。
『では、妾はこの天使の処理に戻る』
『ああ、頑張れよ』
さて、第1候補はダメだったな。
ならば、どうしようか。
他の神王と協力して熾天使を各個撃破する?
だめだ。
今の俺じゃ足手まといだ。
ああ、そうだ。
『シアン、シエルはいるか?』
『スズ! 無事ですか!?』
『ああ、大丈夫だ』
『よかった。えーと、それでシエルちゃんですが先ほど飛び出して行ってしまいました』
おそらく、シエルも世界の異変を感じたのだろう。
そして、向かった所は奴の所か。
指示する必要がなくなったな。
ふむ、さてどうするか。
エネルギーを得るのに一番手っ取り早いのは熾天使を捕食する事。
でもそれは俺が足手まといになる以上は不可能だ。
……いや、待てよ。
あるじゃないか。
俺が足手まといにならないで熾天使と戦う事ができる事が。
あの人の生存率の上昇にも繋げられる。
エネルギーもある程度は得る事ができる。
うん、現状ではこれが一番だな。
俺は体を翻して翔けた。
ー▽ー
(行ったな)
ハルは目の前の存在に対して油断せずに構えながらも物思いにふける。
(思えばあいつと出会ってから充実した日々を過ごしたな)
先ほどこの場を去っていった少年、いや青年と出会った日の事を思い出す。
あの時は、ただ友人に会いに行っただけだった。
もちろん、スズの事も目的にあったが。
ジークやシアンといい友人になればいいと思っていたのだ。
自分とリーシアとグレイスとアーシャの様に。
あの時はシアンが川に落ちてスズに助けられたのだったな。
それを聞いてそれどころではなかったが、あの時のスズを見て心底驚いたものだ。
幼い身体で膨大な力と、そんな力を持ちながら自然体でいられる制御能力。
その他にも、重心や足運び。
一見素人の様に見えるが、それは力を隠すためであって実際は達人のようなそれ。
驚かないはずがない。
こんな幼い子供がいるのかと。
あの時はグレイスやアーシャを見ていたからだと無理矢理納得した。
それができるだけの才能があるのだと。
実際、あの子は天才だった。
俺もいろいろ言われたが、あいつは本物の天才だ。
いや、天才なんて領域を超えていた。
全てを見通す観察眼。
膨大な力。
その制御能力。
特異なスキル。
そして、強い魂。
あいつが悪人じゃなくて心底よかったものだ。
鍛え甲斐があったので鍛えたらすぐに自分に迫る強さになった。
可愛い娘であるシアンがあいつに惚れに惚れ込んだので嫉妬もしたが、シアンに相応しいのはあいつしかいないとも思った。
そして、あの事件であいつは傷ついたが、それを乗り越える強さを持っていた。
乗り越えて強くなった。
まさか、神王になるとは思いもしなかったが、あいつならあり得るとも思った。
自分があいつに負けたのもその時だったな。
俺が未だに至れない領域にあいつは至った。
悔しくはあるが、喜ばしい事だった。
そして、その領域にいる存在が目の前にいる。
俺たちの敵、世界の敵。
誓約の熾天使ウリエル。
神王と同じオーバースキルの保有者。
世界の概念から外れた存在。
ハルはため息を一つついて息子に念話を送る。
『ジーク』
『父さん?』
『いまから俺は熾天使の相手をする』
『それはっ!!』
『ああ、死ぬかもしれん。……ジークハルト・グローリアスよ!!』
『は、はいっ!!』
『いまからお前がこの国の王だ』
『……っっはい』
『声が小さいぞ!』
『私、ジークハルト・グローリアスはグローリアス王国の王としてこの国を導いていく事を誓います!!』
『そうだ。ジークよ。この国の事を、みんなの事を頼んだぞ。我が最愛の息子よ』
『わかり、ました。父さん。どうか死なないで』
死ぬなか。
ふっとハルは笑う。
そうだ、所詮は死ぬかもしれない程度だ。
その程度だ。
その程度で自分が死ぬはずがない。
自分は誰だ?
ハッシュバルト・グローリアスだ。
目の前の天使ごときに殺されるはずがないのだ。
「人間風情が。よくも私の邪魔をしてくれましたね」
「ははっ、人間風情か。一応ハーフエルフの先祖返りでもあるんだがな。まあ、どちらにせよ、お前はその程度という事だ」
「人間風情が私を侮辱するか!」
「ああそうだ。自身の意思を持たず操られるカラクリ人形でしかないお前は侮辱するに値する。いや、意思はあるのか。だが、意志はないな。ただ盲目に従うだけの存在か」
「貴様! 絶対に殺したやる! 生まれたきた事を後悔させてやる!」
「やってみろよ。俺は強いぞ」
ヒトと天使が激突する。
神の領域に届こうかとするヒトと神の僕である天使が。




