12 スズさん、王城へいく
俺はベロニカさんの案内に従って馬車に乗り、王城に行くと、とある一室に案内された。
そこには1人の男が机に座っており、なにやら書類と睨めっこしている。
「よう。来たか。すまんな、すぐに終わるからそこのソファにでも座っておいてくれ」
俺は男の言葉に従ってソファに座る。
ベロニカさんはいつの間にか紅茶を淹れてくれた。
紅茶を飲んで時間を潰していたら、「終わったー!」と男が言うと男は俺の向かいのソファに座る。
すぐさまベロニカさんが男に紅茶を淹れて男は一息ついた。
「さて、一月ぶりくらいかスズよ」
「そうだね。前にここに来たのは入学試験の時だったし。けっこう久しぶりだねハルさん」
俺は男と挨拶を交わす。
男の名前は、ハッシュバルト・グローリアス。
ここ、グローリアス王国の国王である。
俺は、ハルさんと呼んでいる。
なぜ、そんな彼と交友があるかと言うと、俺の両親と彼とその妻は親友同士であるからだ。
この国の王家には変わった風習がある。
それは、王家の男は若い時に冒険者になるというものだ。
あくまで、風習なので人によってはならなかった人もいたらしいのだが、この人は嬉々として冒険者になったのだ。
その際にハルさんは当時婚約者だった妻と配下の一人を巻き込み、俺の両親とパーティーを組んでいたのだ。
そして、大国であるこの国ですら僅かに3名しかいない冒険者としての最高峰であるSランクの冒険者の一人となったのだ。
そんなこんなで幼い頃からハルさんやその妻であるリーシアさん。
そして息子と娘のジークとシアンと交友があるのだ。
ハルさんは俺をじーと見つめてくる。
「うむ。よし! それでは訓練所に行こうか。久しぶりに手合わせをしよう!」
そしてこの人はかなりの戦闘狂だ。
毎回俺が王城に来ると必ずと言っていいくらい手合わせをする。
まあ、付き合う俺も俺だけど。
「まあ、いいけど。いきなり来てそれはどうなの?」
「そうですよ陛下。スズ様にはこれから厨房にてお菓子を作って頂かなければならないのです」
「いや、お前さっき、門から報告があった時我先にとスズを迎えに行ったではないか。どうせ、お土産の催促をしにいったのだろ?」
ハルさん正解。
「冗談です。あまりはっちゃけ過ぎないように。スズ様にお怪我させましたら後でリーシア様とシアン様に文句言われますよ?」
「わかっておる。では、スズ行こうか」
俺たちは席を立ち、訓練所に向かう。
訓練所では、近衛騎士達が訓練をしていた。
どうやら騎士団長自ら訓練を施しているようだ。
騎士団長はこちらに気付いたようだ。
「全員止め! 陛下のお出ましだ!」
そう言うと訓練をしていた騎士達は一斉にこちらを向き礼をとった。
「これは、陛下にスズ殿、こちらにどのようなご用件で?」
「ああ、スズが来たのでな、手合わせしようかと」
「スズ殿に怪我を負わせたらリーシア様とシアン様に怒られますよ」
「さっきベロニカにも同じことを言われたよ」
「エシェントさん、お久しぶり」
「久しぶりだなスズ殿」
彼の名前はエシェント・ゼーレスタ。
ゼーレスタ侯爵家の当主でありこの国の騎士団長だ。
近衛騎士長でもある。
そして、ハルさんの冒険に巻き込まれた人である。
「陛下、試合を騎士達に見せてもよろしいですか?」
「ああ、そのつもりでここに来たしな」
そう言うとハルさんは訓練所の中央部に歩いていく。
俺もハルさんに追随する。
「お前達! 中央部を広く開けろ!」
エシェントさんの命令によって騎士達が中央部を開けて隅に散らばっていく。
「お前達! これより陛下とスズ殿が試合を始める! 一瞬たりとも見逃さないようにしろ!」
エシェントさんが騎士達に命令する。
こう言っちゃなんだが、俺とハルさんはかなりの強い。
周りの騎士達よりも圧倒的に。
強者の試合は見るだけで得るものがあるのだ。
「さて、始めるか」
ハルさんはどこからともなく槍を取り出し構えた。
俺は術式を構築してとある魔術を行使する。
俺を中心に開けた場所に結界を張る。
これは周りの騎士たちが怪我をしないようにするためだ。
さて、やるか。
俺は『暴食』の中から刀を取り出して構える。
「それでは、いくぞ!」
ハルさんはその言葉と共に地を蹴った。