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112 ジブリールの策

 うっわー。

 サヤすげぇな。

 限定的だがあいつ、他者の因果に手を出しやがった。

 あいつの能力は圧縮と解放。

 ■■の因果を圧縮して、存在の全てを潰した。

 結果、人々の記憶から■■の記憶は解放され、ある程度の力を持っている者以外■■を覚えている者がいなくなった。

 一部を除いてだが■■を覚えているのは誰もいなくなった。

 顔も名前も記憶も。

 それが残酷な事か救いなのかは俺には分からない。

 だが、サヤはそれを成したのだ。

 俺は彼女の選択を尊敬しよう。


「考えごとですか? 随分と余裕ですね」

「まあな。ひと月前はちょっと苦戦したがお前1人だし」

「下等風情が!」


 天使の特徴として他種族を見下す傾向にある。

 ミトラ曰く、自身は神の僕であり、その他は下等種族である。

 との事だ。

 ちょっと煽ればすぐに激昂する。

 ミトラはそんな事ないんだけどな。

 個体によるのかな。

 どちらにせよこのウリエルは激昂してくれて行動を誘導しやすいので助かる。


「その下等風情にお前たちはやられるんだよ。お前も、お前の配下も」


 チラリと他の戦闘を見る。


 案の定、ハルさんは智天使を相手に圧倒している。

 倒すのも時間の問題だろう。

 爺やとセレスは均衡しているが、大丈夫みたいだ。


 その他の天使もジークの指揮する軍団に次々と倒されて言っている。

 特筆すべきはゼンジロー、サヤ、おねぇ、学園長だな。

 特にゼンジローがいる限り守りは大丈夫だろう。

 王都が壊滅することはない。


「っと、はずれだ!」


 考え事をしているうちにウリエルは俺に攻撃を加えるが、それはダミーである。

 冷静なら簡単に見破ることができるだろうが、こうも激昂していてると目も曇る。

 ダミーを攻撃して隙だらけのウリエルに背後から”爆神掌”を打ち込んだ。

 んだけど、さすがにしぶといな。


 こいつの能力は大体わかった。

 一定範囲内にいる味方に自身が受けたダメージを押し付け、さらに味方が死ねば死ぬほど自身が強化されるといったものだ。

 つまり、こうして時間が経てば経つほどウリエルは強くなる。

 ジーク指揮の元、こちらの軍団が天使を倒していくから。

 かといって逆に倒さずに戦うなんて不可能だ。

 さらに、俺が攻撃をウリエルに加えれば加えるほど周囲の天使が死んでこいつが強化される。

 厄介極まりない能力だな。

 今でこそこうして翻弄しているが、そのうちこいつが手が付けられなくなる可能性がある。

 まあ、こいつの相手が俺でよかった。

 俺の能力ならある程度だが受け流させずにこいつ自身にダメージを与える事ができるから。

 それでも早く攻略法を見つけないといけないな。

 さっさとルシアたちの所に援護に行きたいし。


 ー▽ー


「ウリエルはスズの所。ラファエルはシャイターンの所。そして案の定ミカエルはミトラの所に行ったようだな」


 世界の中心、ルシアの居城には現在三柱の存在が鎮座している。

 魔神王ルシア、海神王レヴィア、勇者ユウだ。

 3名は来るべき時にそなえてここで待機している。


「そう。だったら私たちの相手はハニエルとラグエル、そしてジブリールね。ミトラには悪いけどミカエルがいないのはありがたいわね」

「俺は知らないんだが、ミカエルって奴はそんなに厄介なのか?」

「ええ。あいつは天使らしくないやつだったんだけど大神の信頼も厚くてね。あの時は天使長をしていたわ。実際に天使の中でも一番強かったし」

「なら、なんでジブリールはこちらに連れてこない?」

「ミトラとミカエルはよく言えばライバルみたいな関係にあったからそこらへん関係あるんじゃない? それにミカエルは一人のほうが力を発揮できるし」

「ハニエルとラグエルは?」

「防御と回復にたけた存在よ。ハニエルはもともと『忍耐』のスキルを持っていてちょっとやそっとじゃ全然傷つけられないわ。仮にダメージを与えても、ラグエルの『救恤』ですぐに回復されてしまうわ。ジブリールも相性のいい二人を連れて行きたかったのでしょ」

「あくまでも大神が生きていた時の話だからな。情報がないよりはいいが先入観にとらわれすぎるなよ。ジブリールに関しては完全に別物だ」

「でも勝つ自信があるのでしょう?」

「俺を誰だと思っている?」

「…つくづくあなたが味方でよかったと思っているわ」


 3名は時折、昔の話をしながら待機していた。


 そしてその時はきた。


「来たか」

「お久しぶりですねレヴィア。それにルシア、先日はどうも」


 とうとうこの決戦の地にジブリールがやって来たのであった。

 ハニエルとラグエルに二名を連れて。


「本当に久しぶりねジブリール。ハニエルとラグエルも」


 まるで久しくあっていない旧友と再会したかのような穏やかな会話。

 しかし、そこには誰一人として気を許している者はいない。


「久しぶりにこうしてあったんだ。お茶でもどうだ?」

「残念ながらそんな暇はございません」


 それに、と言いながらジブリールは嫌そうな顔をしてユウを見る。


「人間ですか? アレがいるようなところでお茶などしたくございません」

「相変わらずね、あなたの人間嫌い」


 ユウはもはや人間を超越した神人であったが、系譜は人間だ。

 どうやらジブリールのセンサーに引っかかったようである。


「そんなことより今日はあなた方にお願いがあって来ました。昔、取り損ねた大神様のお体。お返し願います?」


 ジブリールは優雅にそう言ってのけた。

 答えは当然決まっている。


「「「断る!!」」」

「…そうですか。あくまでも大神様が復活なさるのを邪魔するつもりなのですか。しかも、そのために人間を頼るとは……。堕ちましたね二人とも」

「てめーが言うな! お前も人間に封印を解いてもらっただろうが」

「あら、アレは駒ですよ。私の策通り動く道具です。道具は頼るものじゃなくて使うものでしょう?」


 それがなにか? といった顔をするジブリール。

 ちなみに、ジブリールに言うアレとはご存じ■■である。

 もっとも、ルシアたちは■■のことを愚かな人間程度にしか認識していので憐れなどの感情すら浮かんでいないのだが。


「さて、断られてしまいましたし仕方ありませんね。ここで死んでいただきます」

「ほう。お前、大神の力を手に入れて調子乗ってないか? お前が俺に勝てると思っているのか?」


 そう言ってルシアは剣を抜く。

 ルシアの言う通り、この場ではルシアは圧倒的な力を誇る。

 それはジブリール自身わかっていることであった。

 しかしジブリールは冷静なままこう言ってのけた。


「いいえ、残念ながらあなたに勝つ自信はありません」

「なんだ? もうあきらめているのか?」

「いいえ、あなたには勝つ自身はありませんが、この戦いに勝つ自信はあるのですよ」

「何を言って」

「魔王ルシア。あなたさえいなくなれば私の勝ちです。ここで退場させてもらいます」


 ジブリールがそう言った瞬間、世界が割れた。


「なっ!? しまった!! てめー! 世界を無理やり繋げたのはこのためか!!」

「ええそうです。早く世界の狭間に向かわないと世界が崩壊しますよ」


 そもそもジブリールはルシアと戦う気は全くなかった。

 戦っても勝てない可能性が高いからだ。

 ならばどうするか?

 ルシアを舞台の外に追い出してやればいい。

 自身が封印されていた世界とこの世界を繋げたジブリールは、その道を破壊した。

 それによって起こる世界の崩壊。

 ルシアがそれを放っておくことはない。


「すまんお前ら。後は頼んだぞ!!」


 消えるルシア。

 こうしてジブリールはルシアと戦うことなく舞台から退場させることに成功した。


「さあ、後は雑魚だけです。うふふふ、大神様待っていてください。もうすぐです。うふ、うふふふふふ」













つまり、サヤは■■の存在を全て抹消したので名前なんかありません。

■■■■という人間は存在せず、存在出来ないものは認識出来ないということで伏字にしました。

110話以降は読者にも■■の名前は認識出来なくなったというわけですね。

まあ、誰かは伝わってると思うので大丈夫でしょう。

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