111 開戦
最終章開始!!
連載開始からちょうど一年で終えようと思います。
「ハルさん。ミトラから連絡が入った。戦闘にはいったそうだ」
「そうか」
わかったと頷くとハルさんは兵達の前に顔を出した。
「お前らよく聞けぇ!!」
集まった全ての兵に届く大きな声を発するハルさん。
「間も無く天使どもがやってくる! 天使とは名ばかりの羽虫だ! 奴らは力を得るために同胞を犠牲にした卑劣な存在である! 結果悍ましい化け物も混ざっているようだ!」
ハルさんの演説は続く。
「だがそれがどうした!? お前らには誰が付いている? お前らの王は誰だ?」
兵達の顔から不安が抜けていく。
「このハッシュバルト・グローリアスだ! 俺がいる! 知略に長けた我が息子ジークもいる! 何より我らが守護神、鬼神王様がいる! もはや負ける要素はない! 相手が天使だろうが化け物だろうが安心して己が家族を、仲間を守るといい!!」
精気にみなぎる表情になる兵達。
と、その時ちょうど天使達が見えて来た。
「さあ、戦いの時だ!! 愚かな天使達にわからせてやれ! 我らヒトの強さを! 誇りを! 全員、俺に続けええええ!!!」
「「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」
響く怒号。
さすがはハルさん。
この短時間に士気をマックスにまで上げた。
危険ではあるが、こういう常にみんなの前に立って導く王はいい王だな。
文字通りみんなが付いていく。
だからこそ好かれているのだろうけど。
「おつかれハルさん。さて開戦だけど」
「一発でかいの放つか?」
「そうだね。せっかくだしハルさんに任せるよ。疲れない程度にね」
「わかってる」
槍を構え、すぅと息をするハルさん。
「方天撃」
槍を振りかぶり、巨大な斬撃を放つ。
対人の近接に特化したハルさんだが、あの程度の天使ぐらいはコレでも訳がなかった。
そして、これは開戦の合図となる。
ブワッと広がり、襲いかかってくる天使。
それを迎え撃つ人々。
皆が皆、それぞれの為に命をかけて奮闘している。
がんばれよ。
「さて、俺たちの相手はっと」
無駄な戦闘はしないようにしてお目当の獲物を探す。
「あ、来た」
そして、天使の中から一直線に俺たちの方向に向かう大きなエネルギーをもつ個体を見つけた。
周囲に被害がでてはいけない為、四人で上空に向かう。
「見つけた!!」
その天使の名は宮本勇輝。
智天使以上、熾天使未満の存在となった元異世界人だ。
「見つけたぞ茨木! みんなを解放しろ!」
「は? 何言ってんだ?」
「俺は知っているんだぞ。悪しき神王が卑怯にも徒党を組んで神を追放し、この世界を支配している事を! みんなを洗脳している事を! そんな事させない! この真の勇者である俺がみんなを救いだす! 残念だけど茨木。神王であるお前を見逃す事なんてできない。お前は俺がここで倒す!」
ああもう、支離滅裂だよ。
何言ってんだこいつ?
天使化の影響か元々なのか。
完全に自分に酔っているな。
「スズ様の慈悲で生きておきながら二度ならず三度までも刃を向けるか! 愚か者が!!」
ハイになっている宮本に怒り心頭のセレス。
「落ち着きなさい。奴の対処は彼女に任せる手はずでしょう」
「なんていうか、聞いていたよりもアレだな」
セレスを宥める爺やにため息をつくハルさん。
本当にハルさんのいう通りだな。
本当に、本当に、
「さあ、俺と戦え茨木「憐れだな」えっ?」
憐れ極まりない。
天使にただただ利用されていたとも知らずに。
勇者や正義だという言葉に翻弄され。
こいつは何も見えていない。
何も見ていない。
ただ自分にとって都合のいい事ばかり受けりれている。
憐れと言わずして何というのだろう。
真っ逆さまに落ちていく宮本。
何をしたかは簡単だ。
今の奴は確かに強大なエネルギーを持っていた。
熾天使クラスのエネルギーを。
たとえ適正があっても奴にそれを使いこなすことができるか?
答えは否だ。
力を使いこなすことも出来ない奴が戦っても俺の相手になんかならない。
この通り一瞬だ。
それに、融合したといっても完全ではない。
その証として奴の力の源は天使の羽にある。
あそこに力の大半が集中している。
俺はそこを上手に切り取っただけだ。
そして宮本の天使化は解除され、落ちていった訳だ。
何、死にはしないさ。
落下ではね。
宮本、お前は最後に役に立ったよ。
だって熾天使クラスのエネルギーを俺に届けてくれたんだから。
先ほど切り取った羽を捕食する。
「やはりクズではダメでしたか」
と、そこに三体の天使がやってきた。
予想通り熾天使一体と智天使二体。
こいつはウリエルだったか。
「多少でも鬼神王にダメージを与えられればと思いましたが、所詮はクズはクズでしたね」
「おいおい、随分としたいいようだな。お前たちあいつに助けられたんだろ?」
「助けられた? いいえ違います。全ては神の采配。奴はただの駒です。我らによって使われただけ。むしろありがたく思って欲しいものです」
だからこそ憐れなんだよな。
まあ、もう俺には関係のない事だ。
俺があいつに用があったのはこのエネルギーの補給のため。
こちらも用無し。
あとは、お願いされた通りにあいつに任せるだけ。
聖人サヤに。
こっちはこっちでやるとしますか。
ー▽ー
「っっ! っく!」
なんだ?何がおきた?どうして落ちた?
それが宮本の感想であった。
いざ戦おうと思ったら一瞬で落ちたのだ。
それに力が、
「勇輝」
そこに可憐な声の持ち主が現れた。
身の丈よりも大きな杖を持ち魔導師然とした格好をしているが見間違うはずがない。
子供の時よりいっしょだった女の子。
幼馴染であるサヤだ。
「沙耶! 無事か!?」
「……」
「俺が来たからにはもう大丈夫だ。みんな救ってやる。お前も佐藤さんもみんなも」
「……」
「茨木なんかの元にいて辛かっただろう。だけど大丈夫だ。さっきは不覚をとったがすぐに奴を倒してやる。この真の勇者が」
「はぁ〜」
サヤはため息を吐く。
まだこんな事を言っているのかと。
いつまで子供なのだと。
「あんた、いい加減現実みたら?」
「え?」
「あんたはもう力を無くしたの。そもそもあんたは勇者でも英雄でもない、世界を混乱に貶めた大悪党よ」
ラグナロクを開戦させたのは宮本なのだ。
世界からすれば大悪党である。
「なに言ってんだ。ああそうか茨木に操られてて」
「あんたは本当に幸せよね。おめでたい頭をしているわ。でもいつまでもそんな夢は続くないわよ」
そこに降り立つ一体の天使。
「レミエル」
「チッ」
その天使が宮本を見てしたのは舌打ちであった。
「もう少し役に立てばよかったですのに。本当に役に立たない男」
「え?」
「騙されてたのはあんた。あんたはこの天使にいいように使われていただけよ」
認めたくない宮本。
だが、レミエルが追い打ちをかける。
「あなたはこのクズと違って良くわかっておいでですね」
「な、何言ってんだレミエル。お前は言ったじゃないか。一緒に悪を倒そうって。人類を救おうって。俺は勇者だって。戦いが終わったら一緒になろうって」
「あら、お好きでしょ? そういう言葉。あなたは操りやすくて楽でしたよ。でもダメでしたね。所詮はクズはクズ。鬼神王になんのダメージも与えていない」
「う、嘘だ!」
「現実を認識できないとは。本当に愚かですね」
レミエルの口から聞かされる操られていたという言葉。
それは宮本を絶望させる。
「それで、勇輝にそんな事言いに来たわけ?」
「まさか! こんなクズもうどうでもいいのですよ。重要なのはあなた」
「わたし?」
「ええ。あなたは鬼神王の友人だそうで。その首を奴に晒せば多少の動揺でも得られるかと」
「へぇ。そんな状態でできるの?」
「え?」
そんな状態。
レミエルの右腕が潰されている状態だ。
レミエルはいつの間にかそうなっていた。
気づきもしなかった。
「ぎぃぃ! き、貴様!」
後から迫る痛み。
たかが人に傷つけられたという事実がレミエルのプライドを刺激して、怒りのままに火炎球を放つ。
しかし、それはサヤに届く手前で消える。
「なんですって!?」
その光景に驚くが、次の瞬間。
レミエルは体内から爆発した。
原理は簡単だ。
サヤが火炎球を極小クラスにまで圧縮し、打ち返して、レミエルの体内で解放しただけの事だ。
やり方がエゲツない。
「あんたは首も残らないから安心しなさい」
さらには短距離転移で燃え盛り、炭化しているレミエルに向かって掌を押し付ける。
「”爆神掌”」
使った技はスズ直伝の”爆神掌”。
自身の圧縮する能力で一瞬で無理やり闘気を圧縮、解放したのだ。
衝撃でバラバラになったレミエルに向けて今度は握りつぶす動作をした。
それと連動するようにしてレミエルはグシャリと潰され、跡形もなくなった。
「勇輝」
「沙耶、俺は」
「あんたは罪を犯した。許されない罪」
「ち、違う! 俺は騙されて」
「だから自分は悪くない? 都合の悪い所は認めずに人のせいにするのはあんたの悪い所ね。いえ、都合のいい事しか認めないのも全部、全部」
「違う! 違う違う違う!!」
「そう、あくまでも全部否定して認めないのね。まあ、いいわ。なすべきことをするだけよ」
そう言って杖を宮本に突きつける」
「え? 嘘だろ沙耶。俺たち幼馴染だろ」
「幼馴染として、せめて私の手で始末してあげる。それが私の、あんたを放置した罪滅ぼしでもある」
「いやだ、嫌だ嫌だ死にたくない!」
「安心しなさい。せめてもの情けとして人々の記憶に残らないようにしてあげるわ。10秒時間をあげる。」
聖人による10秒の死の宣告が言い渡される。
「違う、俺のせいじゃない!」
「騙されていたんだ!」
「頼む、助けてくれ!」
「俺たち幼馴染だろ!」
「嫌だ死にたくない!」
「俺が悪かった!」
「謝る! 謝るから!」
「茨木にも謝るから!」
「嫌だ嫌だ嫌だ助けてくれ!」
「死にたく! 死にたくなーい!」
「時間切れ。勇輝、さようなら」
10秒たった。
次の瞬間、宮本勇輝は潰され、跡形もなく消え去った。
ー▽ー
「ふぅ」
サヤはため息をつくと、いつの間にかやって来た後ろにいる人物にもたれかかる。
全身鎧を着て顔も隠れているがサヤにはその人物が誰かよくわかっている。
だからこそなんのためらいもなくその身を預けたのだ。
「お疲れ様」
「うん。ありがとうゼンジロー」
前線で指揮をしているはずなのにどうやら抜け出して来たようだ。
「大丈夫か?」
「ええ大丈夫よ。■■は道を間違えた。放っておいても害にしかならない。だからせめて私の手で始末をつけたかったの。幼馴染の責任ってやつかしらね。ああ、でもやっぱりちょっときついわ」
「俺は■■のことが嫌いだしこれでよかったと思っている。あいつはみんなの事を考えて苦悩しているふりして自分の事しか考えていなかった。自分の優秀さを、特別性を見せつけて優越感に浸りたいだけの奴だ。だからお前が気に病む必要はない」
「ゼンジロー」
「すまんな。こんなことしか言えなくて。なんて言うか、幸い俺はあいつのことを覚えている。お前がしたことも分かっている。だから一人で背負い込まないでくれ。お前の苦悩も覚悟も一緒に背負うから」
「なに、プロポーズ?」
「い、いや」
「あら違うの? 期待してたのに」
「う、うむ」
「ふふふ、冗談よ。今更必要ないわ。でもありがとう。そうね、覚悟は決めていたんだもの。今更うじうじしても意味ないわね。考えるのは後にするわ」
「そうだな。とりあえずは2人とも生き残らないとな」
「あら、私のことはあなたが守ってくれるのでしょ? 旦那様」
「当然だ」
「だったら大丈夫よ。少なくともこの場で死ぬことはないわ。スズくんを応援しながら私たちは私たちにできることをしましょ」
2人は歩み出す。
夥しい数の天使がいる前線に向かって。
最終章の一話目で死んじゃう■■。
今まで運良く生き残ってきたけれどはっきりとスズと敵対しちゃったので仕方ない。
一応■■の結末です。
■■がどう惨たらしく死ぬのか楽しみにしていた方もいらっしゃると思いますが、彼にとって天使に裏切られ、幼馴染であったサヤに殺されるのが絶望だったかと。
思ってたのと違うと感じたら申し訳ありません。
なんで名前が伏せられているかは次話の後書きにでも。




