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110 最後に向けて

「というわけで"ラグナロク"が始まります。みんな頑張りましょう」


 あの後、続々と神王やユウが集まった。

 その場でラグナロクへの対処の計画を立て、解散となった。

 ジブリールの目的はわかっている。

 一つは世界の破壊。

 一つは大神の聖遺骸の奪還。


 というか奴らはそもそも大神の聖遺骸を奪還しないと始まらないため、決戦の地は世界の中心であり、大神の聖遺骸があるルシアの居城となる。

 数的には俺たちが有利なので集まってみんなで一気に叩ければいいのだが、それは出来ない。

 神王の一部には守らなければならない土地が存在する。

 仮に熾天使が自身らが守護する所に攻め込んできたら神王クラスがいなければ対処が難しい。

 なので、決戦の地にルシアとレヴィアとユウ。

 世界規模の戦いが起こるため、世界を守護するイルミス。

 それを守護するアルマ。

 その他自身の土地を守護する神王という布陣になった。

 ユウも守るべき土地が存在するが、メーシュがいるし、最悪、比較的近いベルフェストが向かう事になった。

 レヴィアに至っては深海なのでまず攻めてこない。

 そもそもあちらに情報が渡っていない可能性が高いしな。


 ルシアの予想では、あちらも3:3に別れるとの事で、1柱遊撃する事で戦力に余裕を持たせるとの事だ。


 そんなこんなで話が進み、各々の住処に帰った訳。

 そして今、ハルさん達にを呼び出してラグナロクが始まる事を話している。


「いや、そんな軽いノリで話されても困るんだが」


 深刻そうな顔をして話すよりもマシじゃないか。


「そのラグナロク始まるまでどれくらいの猶予があるんだい?」

「おそらくは1月後。その時奴らは一斉に攻めてくる」


 ちなみに、如何にか世界を分断させず封印出来ないかどうか頑張ったのだが、だいたい一月ぐらいの封印に成功した。

 こちらの戦力を整えるくらいの余裕が出来たと喜ぶべきだろう。


「なるほど。それまでに体制を整えろってことか」

「そうだな」

「配置はどうする?」

「ある程度ならともかく、やっぱり王都の集中防衛だな」

「危険じゃないか?」

「こちらも同じだけど、あちらの狙いは戦力の分散なんだよ。神王の足止め。つまり、俺を狙ってくるはずだから、俺がいるここに主にせめてくるってわけだ」


 それに仮に分散させてきてもこの国の戦力なら各個撃破できるし、場合によれば俺が遠距離から攻撃してもいい。


「そこらへんの指揮はジークに任せたいんだけどいいかな?」


 ジークの頭脳は俺に匹敵する。

 ハルさんが武力におかしなレベルであるなら、ジークは頭脳でおかしなレベルに成長している。

 ほんとにヒトなのかって思ってしまうぐらいだ。

 ルシアでさえ驚いていた。

 やっぱりこの親子はおかしい。


「任せてくれ」


 なんの気負いもなく請け負ってくれて本当に頼もしい。


「で、ここからが本題なんだけど」


 そう、ここまでは前座だ。

 攻めてくる天使は異形の存在。

 その能力は大幅に上がっているだろうが、俺やハルさんが出るまでじゃない。


「おそらく熾天使が一体、智天使が二体、あとあいつはここに来る」


 そう言った瞬間、サヤの顔が曇る。


「なぜだ?」

「確かに俺は熾天使たちと戦ったが、能力をほとんど見せなかった。さらに神王となって新しい存在」

「なるほどね。私だったら放置しておきたくないかな」


 その通りだジーク。


「それにもしかしたら俺のことを甘くみてすぐに倒せると思ってくるかもしれないしな」


 実際にあの戦いの時のが俺の実力だと勘違いしているなら、御しやすいと思う可能性がある。

 どちらにせよここに攻めてくる条件がそろっている。

 まあ、そんな条件がなくて対策しないなんてナンセンスなのだが。


「そして智天使は熾天使にそれぞれ2体づつ配下にいるらしいから当然くるだろう。ミトラにもいたみたいだが、一体は知っているが、もう一体は知らん。もしかしたらそれがこちらに来るかもしれないから注意しておいてくれ」


 ちなみに智天使の戦闘力だが、上位魔王クラスだ。


「俺は熾天使。ハルさんは智天使一体、もしくは二体。爺やとセレスは智天使一体。他はジークの指示に従って欲しい。厄介な個体はほかにもいるだろうしな」


 これが、俺たちが戦う上での盤石の布陣だろう。


「私も?」

「いや、お前は待機だよシエル」

「えーー!!」


 俺の言葉に不服そうにするシエル。

 確かにシエルの実力は智天使ぐらい軽く凌駕するだろう。

 なにも過保護で待機を要求しているのではない。

 ちゃんとほかの理由がある。


「シエルにはもしかしたら他に援軍に向かってもらうかもしれない。だからいつでも動けるように待機してもらいたい」

「むー。わかった」


 万が一でも負けられない戦いだ。

 彼がもし負けそうになったらシエルを向かわせなければならない。

 彼の援護ができるのはシエルだけだから。

 だから消耗してほしくないんだよな。

 まあ、そんなことにならないことが一番なんだけど。


「最後にあいつのことなんだが」

「ねえスズくん」


 ここでずっと曇っていたサヤが初めて口を開ける。


「なんだ? 助命か? 絶対に無理だぞ」


 サヤがずっと顔を曇らせていたのは、あいつとは宮本勇輝のことだからだ。

 俺に執着しているようだしここにくるだろう。

 天使の一員として。

 最後の俺とルシアの攻撃も運よく当たらなかったみたいだから生きているだろう。

 だけど、いつかは起こるとはいえ、こんなことをした宮本を生かしておくことなんて絶対できない。

 そもそも、何もしなくてもその内エネルギーに耐え切れなくなって自壊する。


「ううん違うの。私はーーー」


 ここで俺は思いもしない言葉を聞いた。

 相当覚悟をしたのだろう。

 俺はシノハラ・サヤという存在をなめていたのかもしれない。


「…わかった。ただし条件がある」

「ええ。ありがとうスズくん」

「さて、大まかな方向性は決まったな。局面の一部ではあるが、文字通り世界の命運をかけた戦いだ。必ず勝つぞ!!」

「「「「おぉ!!」」」」



 ー▽ー



「ふぅ。疲れた」

「お疲れ様ですスズ」


 ため息をついてソファに座り込むとシアンが労ってくれた。


「こんなに疲れたのいつぶりだろう。今日1日で事態が進みすぎた」


 あの研究所の発見から天使の世界と繋がるまでと1日で進んだからな。

 マジふざけんなよと思う。


「スズ……」

「どうした?」


 珍しくシアンが不安そうな顔をする。


「本当に戦争が起こるのですね」

「ああ。さっきも言ったが一月後ぐらいにな」

「そう……ですか。……スズ」


 そして、泣きそうな顔になったシアンは俺に抱きついてきた。


「私! 怖いです!」

「怖い?」

「また、スズがいなくなりそうで! 今度こそスズがいなくなりそうで!」

「……」

「スズはいっつも無理をします! みんなの為に無理をします! そして傷ついて! 嫌な予感がするんです! スズがいなくなっちゃうような」

「シアン」

「ダメな事だとわかってします。最低な事だとわかっています。でも、でも。私は本音を言えばスズと逃げ出したい! 全てを見捨てて逃げ出したい!」


 ああそうか。

 シアンは見抜いているのだろう。

 今の俺は見かけは普通だ。

 しかし、熾天使達との戦闘でそれなりのダメージを負っている。

 それこそ数日で全快する程度だが、相手は俺にそれくらいのダメージを与えることが出来る相手だ。

 俺が死ぬ可能性が今までになく高い事を見抜いたのだろう。



「シアン。ありがとう」


 ずっと、長い事一緒にいるがそこまで俺の事を思ってくれていると思うと嬉しくなる。


「だけど、わかっているな?」

「はい」

「捨てるにはこの世界には大切なものが多すぎる」


 シエル、爺や、セレス、ソラ、ハルさん、ジーク、リーリアさん…………。

 もっともっと。たくさん、たくさんいる。


「何より俺はこの世界でお前と生きていきたい」

「スズ」

「それに、俺を誰だと思っている?」

「……私の旦那様です」


 最初にそれが出てくるあたりさすがだな。


「そうだ。お前の旦那は簡単に死ぬような奴か?」


 フルフルと無言で首を振るシアン。


「一回死んで、別世界で転生までするようなしぶとい奴だぞ。大丈夫だ。絶対に勝つ。逃げる必要なんてないんだ。これから先、この世界で2人で生きていくんだから。必ず」

「もう、スズはズルいです。そんな事言われたらもう逃げたいなんて言えないじゃないですか」


 そう言いつつ、指で涙を拭い、笑顔を見せた。


「まあ、わかっていました。こんな所で逃げようだなんて言うスズじゃないって。絶対に勝ってくれるって。そんなスズだから好きになったのですもの。ただ、一つだけ約束してください」

「なんだ?」

「なんとしてでも生き残ってください。私はそれ以外望みません」

「わかった」


 こんなに言われたら死ぬに死ねないな。

 ……うん。

 死ねない。


「シアン」

「はい」

「愛している」

「はい私もですスズ。愛しています」


 だってこんなにも愛しい存在が近くにいるのだから。



シアンはそんな性格じゃないなぁと思いながらも、最後の戦いの前に二人で逃げようと言うヒロインを書きたかった。後悔はしていない。



次話から最終章です。一気に終わらせたいのでしばらくまた休みます。投稿してからちょうど一年で終わらせられるように頑張ります。(できるとは言っていない)

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