107 研究所
なんだ…これは…。
驚かずにはいられない。
天使とはなんて残酷な事をするのだろう。
ルシアの優しく自信に溢れた傲慢さとは違う、無慈悲で勝手な傲慢ゆえの残酷。
ここは研究所。
生命の魂と尊厳を踏みにじる研究所。
言わば生命研究所。
無数にある培養液が入ったカプセル。
その中には様々な生物が培養液の中に沈んでいる。
動物も魔物もヒトも。
しかし、それらは本来の形をしていない。
体のどこかが他の生物部位になっている。
そう、キメラのように。
おそらくここは他の生物同士を繋ぎ合わせ一つの存在にする合成生物研究所。
生物の魂と尊厳を踏みにじる研究所。
これが天使のする事なのか。
悪魔よりも残酷だ。
何より残酷なのは魂。
軽く解析しただけでもわかってしまう。
表面上はただのキメラ。
しかしその実、そこに内在する魂は無数に存在する。
いや、無数でありながら一つ。
魂を無理やり引っ付けている。
この世界では基本的に魂が強い存在こそが強い存在になる。
だから、魂を無理やり引っ付けて強大な魂を持つ生物を作り出そうとしているのだろう。
結果、魂は犯され、穢され、悲鳴をあげる。
尊厳なんてない。
解放もされない。
悲痛のみが残る。
とても残酷な研究所。
これ以上苦しまないように魂ごと消し去るべきか。
『『『ーーーーーーー!!!』』』
そう考えた瞬間、奥から声にならない声を出す異形の怪物が現れる。
おそらく研究の結果作り上げたキメラだ。
俺が侵入して来たので迎撃に向かって来たのだろう。
「哀れだな」
刀で一撃の元斬りふせる。
おそらくここは天使の中でも最重要な施設。
確実に破壊する。
とりあえずは周りの哀れなキメラを倒しながら最奥に向かうとするか。
ー▽ー
「いかがですか。天使の力を手に入れた真の勇者としての力は」
「ああ。最高だ。なんでも出来そうな気がする。今なら茨木だって」
「まだダメです。あなた様は最後の希望。まずは神を解放するのです」
「そうだな。俺が最後の希望なんだ。人類を悪しき神王から救い出す。迂闊な事は出来ないか」
「ええ。神を解放した後はいくらでも戦ってくれてかまいません。何しろ正義はこちらにあるのですから。ふふふ」
ー▽ー
研究をしている天使も造られたキメラも機械も全て破壊しながら進んでいく。
その最奥には一際立派な施設があった。
それまでとは本気度が違う。
そしてその中からとある資料を見つけた。
どうやらここでは熾天使量産計画を立てていたらしい。
その計画はほんの少しだけ成功していた。
熾天使の一つ下の階級、智天使に大量の魂を注ぎ込む事で熾天使クラスのエネルギーを獲得させる事に成功はしていた。
しかし、ここで問題が出る。
そんな事をして智天使が自我を保てるはずがない。
結果智天使の自我は崩壊。
何も出来ない人形に成り果てた。
問題はここからだ。
次に天使が計画したのは自我が崩壊した智天使を受肉させる事だ。
ここが上のキメラの研究にも繋がって来るのだろう。
しかし天使達はその計画に失敗していた。
ただでさえ智天使は魔王クラスのエネルギーを保有している。
それが自我を失ったとはいえ熾天使クラス、つまり俺たち神王クラスまで引き上げたエネルギーを保有している存在を受肉するなんて普通では不可能に思える。
そんな事すれば普通は肉体が耐えられない。
案の定、天使は何度も失敗している。
そこで天使が目をつけたのは異世界人だ。
特殊な身体をしている異世界人なら成功するのではと考えた天使は様々な国に異世界人を召喚させる。
その事によって神王達の邪魔も出来て一石二鳥であった。
そして何度も異世界人を呼び出した果てに二人の候補を見てける。
第一候補に佐藤朱理。
理論上は満点の適正を持っていた。
第二候補は宮本勇輝。
第一候補には劣るが、今までの存在よりは遥かに適正を持っていた。
しかし二人を攫う直前に俺が二人を手元に連れ帰り、確保する事に失敗。
さらには朱理が死亡ーー実際は俺が保護しているがーー。
が、奇跡的に宮本勇輝が俺の元を離れた為、確保に向かい、成功。
真の勇者の儀と偽り、智天使の受肉実験を施行したようだ。
……あの時死んでいればよかったのに。
そして慎重に実験を進めた結果、希望する数値には至らなかった者の完成間近に近づいた為、施設を移動。
そこで最終調整を行うか。
能力を発動させ、研究施設の全てを飲み込む。
跡形も残らないように。
「場所は元イルレオーネ国の付近か」
嫌な予感がする。
急がなくては。
最終章プロローグが終わるまでは週一くらいで投稿しようかと。まあ、あと3話ぐらいだったりするけど。




