11 スズさん、王都へ行く
季節は春。
15歳になって始めての春だ。
この村には1つの習慣がある。
それは成人とされる15歳の春に村から旅立つというものだ。
別に強制ではないがみんな出て行くらしい。
そしてほとんどの者がしばらく外界で暮らし、そのうち村に戻ってくるのだ。
父さんもそうだった。
そして、俺もまた旅立つ時がきた。
俺はグローリアス王国の王都にある学園にシアンと一緒に入学する予定だ。
もうすでに試験に合格している。
そして、今、俺は家族とともに村の入り口まできている。
他の村人たちとは既に別れの挨拶を済ましている。
転移で王都まで行くのでわざわざここまで来る必要はないがそれはそれだ。
「もうお前も15歳になって村を出て行くのか。早いもんだな」
「本当ね。あっという間だったわ」
両親と別れの挨拶をする。
「ソラ、シエルを頼んだぞ」
「ワン!」
ソラはまかせろ! という具合に吠えた。
ただ、シエルがさっきからうつむいて黙ったまんまだ。
「ほら、シエルも何かいいなさい」
母さんが促すとシエルは顔をあげた。
「あのね、お兄ちゃん、あのね、だ、抱っこして」
シエルは恥ずかしそうに言う。
俺はシエルの側まで行き、シエルを抱っこする。
抱っこするとシエルは涙を我慢をするようにプルプルと震えるが泣き出した。
「お、お兄ちゃん、寂しいよ〜」
シエルは俺の胸に顔を押し付けて泣き続ける。
俺はポンポンとシエルの頭を撫でる。
「ほら、ずっと居なくなる訳じゃないから。偶には帰ってくるから。ちゃんと泣き止んで。シエルの笑顔が見たいな」
「ゔん」
そう言うとシエルは顔をあげて泣きじゃくった顔でにへらと笑った。
その後俺はしばらくシエルを抱き続け、そして。
「じゃ、みんな元気でね。行ってきます」
俺は転移でその場を後にした。
俺は転移で王都の外の門から少し離れた場所にやって来た。
転移の存在自体は知られているが、術者がかなり少ないため人がたくさんいる所に出るのはあまりよろしくない。
いきなり人が現れたらびっくりするもんね。
また、今まで王都へ行く時は直接城の一室に転移してしたけれどこれでは王家公認とはいえ不法滞在みたいなものになってしまう。
いつもみたいに多くて2、3日ならいいが今日から王都に住むことになるのだ。
さすがに王都に住むのに門を通らない訳にはいかない。
だから外から門を通って王都に入る必要があるのでこんな場所に転移してきたのだ。
さてと、行きますか。
俺は以前に指定された場所に向かう。
正門の方を見てみると人でいっぱいだ。
普通に並んでいたらそこそこ時間がかかっていただろう。
貴族専用の所もけっこう馬車がある。
さすがに一般の所よりは遥かにスムーズだけど。
俺はハルさんのおかげでスムーズに通れる手筈になっている。
他の人たちに悪いなあ、と思う性格では無いので普通に指定された所へ向かう。
そこには数名の兵士が待機していた。
「あの」
「はい、どちら様でしょうか?」
「スズ・ロゼリアです。おそらく俺がここに来ると伝わっていると思うのだけど」
「はい、ロゼリア様ですね。陛下よりお聞きしております。失礼ですが何か証明できる物をお持ちですか?」
俺は以前ハルさんから渡されたナイフを取り出して兵士に渡した。
そのナイフには王家の紋章が記されている。
それを意味するのは王家と深い関わりがあるという事を示している。
兵士は俺からナイフを丁重に預かると紋章を確認し俺に返した。
「大変失礼いたしました。あなた様がいらっしゃったらこちらに案内せよとの事です。どうぞこちらにいらしてください」
俺は兵士の案内に従って門を抜け、王都に入った。
いやー、こんな短時間で王都に入れるとは。
持つべきものは権力者の知人だな。
俺が案内された場所は門の内側にある一室だった。
「これより王城から使者がいらっしゃいます。それまでしばらくお待ちください」
俺を案内した兵士はそう言うと頭を下げ、部屋から出て行った。
なんかめっちゃ礼儀正しい人だったな。
王都の門番を務めているのかな?
だとしたら結構なエリートさんなのかな?
俺はそんな事を考えながら時間を潰した。
しばらく時間が経つとコンコンとノックの音が聞こえて来た。
「失礼します」
そう言って部屋に入って来たのはメイド服に身を包んだ女の人だ。
「あ、やっほー、ベロニカさんだお久しぶり」
「お久しぶりでございます、スズ様。王城よりお迎えにあがりました」
彼女はそう言いながら頭をさげる。
彼女の名前はベロニカ。
王城に勤めている侍女でその中でも上の地位を有している。
彼女は王城にて様々な雑務をこなしておりハルさんからの信頼も厚い。
俺も王城に行った際にお世話になった事が何度もある。
また、常に眼鏡をかけ、表情を全く崩さないので鉄仮面と呼ばれている。
彼女を嫌っている人は少ないため別に悪口ではない。
むしろ、本当に表情を崩さないので敬意すら含まれているのだ。
「あれ? でも何でベロニカさんが迎えにきたの? 」
そんな鉄仮面さんはとても忙しいはずなんだけど。
「スズ様をお迎えにあがるのに不適当な使者を寄越すことなど出来ません。決してスズ様が王城にいらっしゃる際にくださる数名限定のお菓子のお土産が目当てではございません」
そして、そんな鉄仮面さんはとてもいい性格をしている。
鉄仮面さんは大の甘党だ。
本当に甘いものには目がない。
特に俺の作るお菓子はその鉄仮面を崩壊させるくらいには大好きらしい。
昔、俺がお土産に持ってきたお菓子を食べて鉄仮面が崩壊した時は結構な騒ぎになったものだ。
そして、鉄仮面さんは俺のお土産を目当てにわざわざ自ら迎えに来たようだ。
「あ、そう?ベロニカさん専用にお菓子持っていたけどいらないの?」
そう言うと鉄仮面さんは表情は変わらないが雰囲気的に絶望したような顔になった…と思う。
「冗談だよ。はいこれはベロニカさんへのお土産だよ」
俺はお菓子の入った箱を取り出すとベロニカさんに渡した。
「あぁ、ありがとうございます。私はスズ様を信じておりました」
そう言うとベロニカさんは魔法でお菓子の入った箱をしまう。
表情は変わらないが明るい雰囲気の顔になった…と思う。。
「さて、それでは目的も果たしましたし王城に参りましょうか。陛下や皆様共々お待ちしております」
そう言うとベロニカさんはドアを開けて俺を外へと促した。
やっぱりこの人すごいな。
本当にお土産目的で来たぞ。