103 救いの手段
急いで朱理の元に駆けつける。
「申し訳ありませんスズ様。これ以上私には手の施しようが」
リオンが苦い顔をしながら俺に謝る。
「スズくん、朱理はっ、朱理は助かるよね!?」
サヤが泣きながら朱理を助けてと俺に懇願する。
……呼吸なし、脈なし。
物理的な損傷はおそらくリオンが治してくれたのだろう。
特に問題はない。
それでも、朱理は生きていない。
当然だ。
魂を砕かれたのだ。
朱理がマモンに胸を貫かれた時。
あれがただ物理的貫かれただけならいくらでも治療できる。
それだけなら、リオンが既に完璧治療しているはず。
朱理はマモンにスキルを奪われた。
スキルとは魂の力だ。
つまり、魂を奪われたのだ。
もっとも、魂の全てが奪われた訳じゃない。
あの時、朱理が何かを喋ろうとしていたのがその証拠。
しかし、スキルを奪われる際に魂のほとんどを粉々にされたと言ってもいい。
そんな状態ではいくら肉体的に正常に戻そうが生き返る事はない。
俺はすかさず朱理を捕食する。
「え?」
「ちょっと集中するから話しかけないでくれ」
朱理を捕食し、魂の精密な状態の解析に入る。
……。
…………。
…………………。
…………………………。
…………………………………。
これは酷い。
先ほど述べたのはあくまでも目視による推察でしかない。
そして、その推察通りではあったが、朱理の魂の損傷率は90%を超えていた。
普通なら二度と助からない。
このままでは完全に消滅する。
しかし、同時に奇跡も起こっている。
魂の最も重要な根幹部分と言える所はほぼ無傷であったのだ。
急いでその保護を済ませる。
あとは……………よし。
「ふぅ」
下手したら先ほどの戦闘以上に余裕がなかった為に息をこぼした。
「終わったぞ」
「本当!? 朱理は? 無事なの!?」
サヤの様子はとても必死だ。
それだけ朱理の事を大切にしているという証でもある。
いい友人だな。
「本当にギリギリだったが、朱理は無事だ」
「本当!? う、うぅ。よかったぁ」
朱理の無事を知り、サヤはペタンと座り込み涙を流す。
今度の涙は喜びや安堵の涙だ。
「まあ、いくつか問題はあるけどな」
「え?」
朱理の魂は粉々だ。
いくら、魂の根幹部分が無事とはいえ、その状態からすぐさま完全に生き返らせるなんて俺でも無理だ。
ゆっくりと時間をかけて回復させていくしかないのだ。
それにはとても時間がかかる。
俺はその事を伝えた。
「どのくらい時間がかかるの?」
「予測ではあるが、千年ぐらいだな」
「せっ!?」
サヤは絶句する。
当然だ。
人間の寿命なんて長くても百年ほどだ。
自分はどんなに長く生きても二度と親友に会う事が出来ないのだ。
それがサヤの常識なんだろう。
「そう。私、もう朱理と会えないのね」
まあ、朱理が助かったのは存外の奇跡なのだ。
二度と会えなくても朱理が助かっただけで私は……。
そんな感じの表情だ。
だけどね、
「そんな事はないぞ」
「え?」
「この世界じゃ人間だって永く生きる手段はいくつでもあるからな。まあ、大半はロクデモナイ手段だがな」
そう。
この世界では基本的な種族の寿命を超えて生きる方法はいくつかあるのだ。
中でも、特に全うな手段でそれを成すことがサヤには出来る可能性がある。
「人間の限界を超えれば聖人に至る事が出来る。そうなれば寿命は数千年に延びると言われている」
「聖人……」
「異世界人でもそれは変わらん」
ユウも聖人を経由したって言ってたしな。
俺も鬼にならなければそっちに進化していただろう。
「でも、人間の限界を超えるなんて」
「俺は、お前にはそれが出来る素質はあると思うぞ」
まだまだだが、存在の格は順当に上がってきている。
聖人に至る可能性は十分にあると俺は考えている。
「それに、聖人とまでいかなくても存在の格を上げれば人間のままでも寿命は延びるしな。そっちのおねぇなんて種族的には人間だけどもうななひゃっと!!」
顔面におねぇの拳が飛んできたので何とか避ける。
「ちょっと!! 乙女の年齢を口に出すってどういうことよ!!」
「うるせぇ!! お前オカマだろうが!! そもそもそこまで来たら年齢なんて関係ないだろ!!」
「大有りよ!!」
残念ながらおねぇの年齢はやはり禁句だったので口を閉じる事にする。
「よかったな沙耶。また、佐藤さんに会えるかもしれないぞ」
「うん……でも」
サヤがチラリとゼンジローを見る。
……ああ、そういう事か。
「ついでにお前も素質はあると思うぞゼンジロー」
サヤには若干劣るだろうが、あいつも聖人に至る可能性はあるだろう。
「俺もか?」
「ああ。この際二人で目指してみたら?」
多少卑怯な感じはするが、俺的には二人とも聖人になってくれた方が都合はいいのだ。
羽虫に対する大きな戦力になるからな。
まあ、そういうの抜きにしても彼らは俺の友人だ。
聖人になりたいと言うなら協力ぐらいはするし、嫌なら仕方がない。
口で言うなら簡単だが、並大抵の事ではないからな。
そう簡単には聖人になれない。
そんな事が出来ればミトラの配下に大量の聖人がいるだろう。
ハルさんも聖人ではあるが、彼の場合、身体的に成長し終わると同時に聖人になったらしく、それはおかしいので参考にはならない。
「……善治郎は私と生きてくれる?」
「もちろんだ。お前が千年生きたいと言うのなら俺も共に生きよう」
「善治郎……。うん、スズくん。私……私と善治郎はその聖人になるわ」
「そうか。わかった。と言っても俺が出来るのはその手伝いだけだ。お前達にあるのは聖人に至れるかもしれない素質だけ。逆に言えば聖人に至れないかもしれないし、その道のりはとても険しいぞ。それに文字どおり人間を辞めることになる」
「ええ。覚悟の上よ。私は絶対に朱理に会いたいわ。それに善治郎が一緒に頑張ってくれるみたいだし」
「そうか。お前の覚悟を尊重しよう。ゼンジローもいいのか?」
「もちろんだ」
ふむ。
二人とも聖人に至ろうとする意思はあると。
喜ばしい事だ。
戦力的にも、朱理の事的にも。
「とりあえずは、今日は帰ろうか。聖人の話は後日だ。リオンもありがとう」
「いいえ。スズのお役に立つ事が私の存在意義ですので」
「引き続き妖精達の守護を頼んだぞ」
「はっ」
リオンは礼を取るなり転移で消えていった。
「おねぇも突然巻き込んですまなかったな」
「いいわよぉ。こうして生きているわけだし」
「怪我は大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけど放っておけばそのうち治るわ」
「そうか。じゃあまたな。よしそれじゃあ帰るぞ」
おねぇと別れの挨拶をしてからゼンジローとサヤと共に屋敷に転移する。
「おかえりなさいませスズ」
出迎えてくれるのはシアン。
マモンとの予想外の戦闘はあったが、こうしてシアンの顔を見るとなんというかホッとする。
「ただいまシアン」
なんかいいなこういうの。




