表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/138

96 様子見

「ターン制の横並び世界で勇者は虚しくなる」を短編で投稿したのでそちらもよろしく!!

 パールミス王国が滅んだ。

 紛れもなく滅んだ。

 その地に存在する全ての生物が死滅した。

 いや、いるにはいるが、アレを生物と呼んでいいものか。

 なんか、闇みたいなのがものすごい勢いで広がっていったんだよ。

 そして、それに飲み込まれると一度死んでからアンデットとして蘇るみたい。

 あの地に封印されていた存在、死神魔王マモンの手下として。

 幸い、国境付近で俺がその闇を止めたら直ぐに引いていったからグローリアス王国に損害はない。

 メルデル大森林もほとんど侵食できなかったみたいだし。

 まあ、あれだけ広範囲に広げたら力も弱まるよな。

 他の国にもギリギリで闇は届かなかったようだ。

 それでも、あの闇はパールミス王国のほぼ全土を飲み込んだみたいだ。

 流石は神王に匹敵する存在ということか。


 それからは今の所動きは無いので様子見といったところだ。

 グローリアス王国としては警戒態勢に入っているけど。

 ハルさんも大変だなあ。


「茨木!!」


 他人事じゃないな。

 俺も大変だ。

 というか面倒臭い。

 目の前の人物、宮本とかいう自称勇者くんが先ほどやってきた。


「二度と突っかかってくんなって言っただろう」

「そんな事言っている場合じゃないだろ!!」


 こいつには誇りはないのか?

 決闘で負けておいてこうまで早く破棄をするとは。

 はあ、決闘的な何かをする時に契約魔術でもかけておけばよかった。

 所詮は口約束か。


 それでもアレは見せしめとしてやる意味はあっただろう。

 操られていた時も受け流したり、一瞬で気絶させたりとしたので俺の力をあんまり知らない奴もいただろうし。

 それに宮本はこんなんでもイルレオーネでは勇者としての地位を得ていた。

 つまりは他のクラスメイトよりも上位の存在として君臨していた。

 実際に戦闘力という観点からみたらトップクラスだろう。

 あの時点で宮本よりも個人で確実に強い奴はゼンジローとサヤと朱理くらいだ。

 その彼らにしても実際に戦ったらという意味であり、聞くところによるとそんな事はしていないので勇者という地位の観点から宮本が他のクラスメイトにとって最も強いという認識になっている。

 そんな存在を遊んで一蹴したので、俺の強さを再確認しているだろう。

 自身よりも上位の存在がいるという事実は余計な行動に移す心的ハードルが高くなるものだ。

 犯罪とかね。

 まあ、それでも余計な事をする奴はするんだけど。

 学園に通わずに冒険者になった奴とか。

 そいつらは今頃挫折しているか死んでいるだろう。

 どうなろうがもう知らないが。


 そんなこんなでアレはやる意味があったのだ。

 実際にそういった意図もあったのだが……。

 はぁ、面倒だなぁ。


「はぁ。で、なに?」


 まあ、大体わかるけど。


「なに……だと。まさか君は知らないのか。魔王が復活したんだぞ!! しかも、復活した場所にあった国が滅んだって」


 知らないわけないだろ。

 ちょうどその魔王の話をしている時に復活したんだから。

 ついでに言えばゼンジローとサヤもその時に知ったぞ。

 偶々そこにいたからな。


「そうだな」

「そうだなって、やっぱり君は知っているんじゃないか!!」

「うん、それで?」


 だから何なのだ?

 魔王が復活して、国が滅んだ。

 それだけだ。

 王であるハルさんならともかくお前になんの関係がある?


「勇輝!!」


 と、そこで慌てたようにサヤがやってきた。

 宮本を追いかけてきたのかな?


「あんたスズくんに負けておいてまた突っかかっているの!?」


 そうだ帰れ帰れ。


「お前もか!! 今はそんな事いっている場合じゃないだろ!!」

「そんな事言っている場合よ。どんな時でもちゃんと約束は守るのが基本でしょ。さっさと帰るわよ」


 そう言ってサヤは宮本の腕を掴み、引っ張ろうとするが、振り払われた。


「だから、そんな事言っている場合じゃない!! 魔王が復活したんだぞ!!」

「そうね。でも、私達には今は関係ないわ」

「え?」


 宮本は関係ないと言ったサヤを信じられないような目で見る。

 お前は本当にサヤか? といった感じ。


「なに言っているんだよ。魔王が復活したんだぞ。しかも、国を滅ぼしているんだぞ。関係ないわけないだろ!!」

「関係ないわ。少なくとも今私達に出来ることは無いわ。そうよねスズくん?」


 コクリと頷く。

 音無の言う通りだ。

 こいつらに出来ることは今はない。

 こいつらにどうこう出来る問題じゃない。


「どうしたんだよ沙耶。なんでそんな事言うんだ。国を滅ぼすような魔王なんだぞ!! そんな魔王放置出来るわけないだろ!!」


 その宮本の叫びを聞いてサヤは大きくため息を吐く。


「それで?」

「え?」

「だからどうしたの? 貴方は何をしたいの?」

「だから、勇者として魔王を放っておけないって」


 あー、こいつまだ勇者気分なんだ。

 なんでこいつはそんなに勇者に拘るかな。


「貴方は勇者じゃないでしょう」

「か、仮に勇者じゃなくても放っておくなんて出来ない!!」


 仮にって。

 何度も言うけどお前は勇者じゃないよ。

 どうあがいても勇者なれないし。

 まあ、ある意味では勇者かもしれない。

 おかしな行動での言葉遊び的な意味でだけど。

 勇者勇者と連呼しているのは本当にある意味勇者だわ。

 むしろ、精霊に愛されているサヤの方が勇者に近いぞ。

 勇者ではないにしろここまで精霊に愛されているのは珍しい。

 その内勇者に近い力を使えるんじゃないかな。

 確かミトラがそんな感じの技があるって言っていたな。

 本人が望むならミトラの所に連れて行ってもいいかもしれない。

 上手いこといったら聖人になれるかもしれない。

 それほどサヤは頭一つ飛び抜けている。

 次いで資質があるのがゼンジローってとこかな。

 朱理には最近会ってないからわからん。


「……魔王を放っておけないのはわかったわ。でも、なんでここに来たの?」

「それは、茨木が魔王を」

「魔王を倒そうとしていないから? それを抗議しに来たの?」

「そうだ!!」


 そうだって。

 何で俺がそんな事をしなければならないんだ。

 意味がわからん。

 やっぱりこいつ頭おかしいんじゃないか?

 案の定、サヤも俺と似たような目で宮本を見ている。


「貴方って人は……」

「なあ、宮本」


 サヤが何か言おうとしていたがそこに乱入する。


「何で俺がそんな事をしなければならない」

「なっ!?」


 俺の言葉に宮本は絶句する。

 理解出来ないような信じられないような。


「魔王が復活したんだぞ!! 国が滅んだんだぞ!!」

「その二つの要素は俺がその魔王と敵対する理由にはならない」


 あのヤバイ闇の波がこの国まで及ぼうとしていたけど、それは止められた。

 あちらからしても国境とかは理解していないだろうしな。

 意図的にこの国を害そうとしていないのならまだ俺と敵対している訳じゃない。

 要注意人物ではあるが。


「君はっ、人々が魔王に殺されてもいいのか!?」

「俺が守護しているのはこの国と世界だ。パールミス王国が滅ぼうが消滅しようがどうでもいい。というか、どの道あの国は滅亡する予定だったのだ。それが早まっただけだ」

「なに?」


 俺の発言に宮本は固まる。

 パールミス王国は滅びる予定だったという発言を聞いて。

 まあ、今重要なのはそこじゃないので無視するが。


「そもそも、仮に魔王と敵対したとしてもお前に何が出来る?」


 答え、何も出来ない。

 こいつごときには何も出来ない。

 戦ったところで一瞬で殺される。


「スズくんの言う通りよ。今は私達に出来ることはないの。むしろ足手まといなだけよ」


 そのあたりサヤはよくわかっている。


「そんなのやってみないとわからないだろ!!」

「わかるわよ。死ぬだけよ」

「怖気づいたのか沙耶!!」


 それは違うんじゃないかな。

 サヤはちゃんと状況を理解している。

 その上でもしもの時の覚悟も決めている。

 そうじゃなかったら、今は、何て言わないだろう。

 もしもの時の覚悟を決めている証だ。


「どう言おうが構わないけれど、スズくんの邪魔をするなって言ってんのよ」


 そして、俺と魔王が敵対する可能性がある事も知っている。

 今は敵対していないだけで、戦う事になるかもしれないのだ。

 出来るだけ敵対はしたくないが。

 まあ、あくまでも可能性の話だが。

 それでも、その時にはサヤ自身俺の足手まといになると理解している。

 何もかも理解していない宮本とは大違いだな。


「スズ様、ただいま帰還いたしました」


 その時、俺のすぐ側にとある存在が転移してきた。

 一本角が生えた男性だ。

 元々は悪魔で俺が名前をつけ、最近悪魔から悪鬼に種族が変更した俺の眷属だ。

 名前をつけた時は特に変化はなかったんだけどな。

 まあ、俺の眷属らしくなったと言うべきか。


「おう、それでどうだった?」

「はっ、あちらも是非スズ様にお会いしたいと」

「そっか。今からか?」

「ええ。準備して待っていると」

「わかった。その前にちょっと動くなよ」


 この眷属を一瞬だけ喰らって吐き出す。

 うーん、何かされた様子はないみたいだな。


「よし、俺は今から魔王の所に行ってくるから。サヤはそいつ連れて帰ってくれ」

「なっ!?」

「わかったわ」


 という事で眷属に魔王の所まで連れて行ってもらう。


「待て!! 俺も連れて行け!!」

「えー、やだ」


 絶対に何かやらかすもん。

 そんな奴連れて行く訳ないだろ。


「いい加減にしなさい!!」


 と、そこでサヤはキレたのか能力を発動させる。

 その瞬間、宮本の動きは止まった。

 へぇ、空間を連続性を持たせたまま圧縮させたのか。

 それによって宮本の動きは固まったと。

 そこまで出来るようになったんだ。

 やるな。


「ごめんなさいスズくん。勇輝にはよく聞かせておくから」

「まあ、お前に免じて許してやるよ。じゃあな」


 そして、今度こそ眷属に転移してもらった。





何度も「魔王が復活したんだぞ」って言う勇者(笑)の鑑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ