95 放たれし怨念
「ふ、封印が解けたぞ!!」
一人の老人が歓喜の声を上げる。
老人だけではない。
そこにいる全ての人が喜びと達成感に満ちた表情をしている。
ここは封印の間。
パールミス王城の地下にあり、とある存在が封じられている場所だ。
封印の間はありえないほど厳重に封印されており、幾人もの高名な魔術師が長い時間をかけてようやく封印の解除に成功したのだ。
全てはパールミス王国のため。
全ては敵対してしまった神王を滅ぼすため。
全ては自身が生きながらえるため。
封印されし大いなる存在に助力を請うために彼らはその封印を解いてしまった。
「我が封印を解いたのはお前達か?」
そして、封印を解かれたその存在は彼らに声をかける。
それを見て彼らはさらに歓喜した。
本当に大いなる存在はいたのだ。
これで我らは助かる。
かの存在に神王を、ひいてはグローリアス王国を滅ぼして貰えば我らは助かるのだ。
あわよくば世界の覇者になれるかもしれない。
極限の状態から見えた一筋の光。
故に彼らは夢想する。
これから来るであろう栄光の未来を。
それに縋り付くしかなかったのだから。
「そうです、大いなる存在よ。あなた様の封印は我らが解き放ちました!!」
大いなる存在の問いに先ほど歓喜の声を上げた老人が代表して答える。
「つきましては、我らの願いをあなた様に叶えていただきたいのです!!」
「願いだと?」
「はい。我らを脅かす憎き神王、鬼神王とそれが守護するグローリアス王国を滅ぼしていただきたいのです!!」
「鬼神王? 誰だその者は」
「最近、神王の一柱になった存在のようです。かの存在が我らの敵です」
「そうか。わかった」
これで我らは救われる。
いや、さらにそこから栄光の未来が待ち受けている。
誰しもがそう思った。
そのように、都合の良いように考えるしかなかったのだ。
「ご苦労だったな。我が封印を解いてくれた事に感謝するぞ。礼として我が配下に加えてやろう」
「ひっ、な、なんだこれは!? た、たすけっ」
その瞬間、何処からともなく闇が溢れ出し、それはゆっくりと老人を飲み込む。
いや、老人だけでなくその場にいた全ての存在を飲み込んだ。
「「「ゴァァァァァ」」」
闇が引き、そこから現れたのは恐ろしく醜悪なゾンビであった。
彼らは大いなる存在によってその身をゾンビに変質させられ、さらにどんな命令でも聞くように魂を奪われた。
彼らは間違っていたのだ。
確かに大いなる存在はいた。
しかし、それは人に都合のいい存在ではなかった。
むしろ、かつては人と敵対していた存在だ。
かの大いなる存在、死神魔王マモンは時の勇者が自身の命と引き換えに封印された存在だ。
そんな存在が人の願いを叶えるはずがない。
逆に破滅をもたらす存在である。
「ふむ。久しぶりの外はいいものだな。まずは配下を増やすか」
マモンはとりあえず自身を封印していた場所を破壊すると、天井を突き破って上空に飛び上がる。
「おぉ、ここは城であったか。わざわざ我の為に城を用意するとは人もやるではないか。しかし、我の好みではないな。後ほど改装しなければ」
と、そこまで上機嫌でいった後、マモンは膨大な量の闇を発生させる。
その闇はマモンから津波のように荒々しくパールミス王国に広がっていく。
その闇に触れた存在は、人、動物、植物、魔物例外なく一度死に、アンデットとして蘇った。
マモンに魂を奪われた哀れな操り人形に成り果てたのである。
パールミス王国は本来はスズによって時間とともに人が住む事が困難な不毛の大地になっていき、それによって国が滅亡するはずであった。
逆に言えば、何もしなければそれまでは国が滅亡する事は無かっただろう。
彼らは誤った。
王国の地下に封じられた大いなる存在は決して希望を与える類いのものではなかったのに。
パンドラの箱であった。
決して手を出してはいけない物であったのだ。
故に彼らは滅亡する。
残された時間は彼ら自身の手によって消え去ったのだ。
こうして、パールミス王国は滅び、死神魔王マモンが支配する不浄の地が出来上がった。




