92 なつかしき惑星
イルレオーネ国に裁きを与えてから数ヶ月。
ゼンジロー達は学園に入学した。
用意した寮に入り、学園にてこの世界の事などを学んでいる。
時折、ゼンジロー達から話を聞く限りそこそこうまくやっていけているみたいだ。
案の定、ゼンジローはハルさんに捕まり、気に入られ、既に騎士団への内定が決まってしまっている。
そんな中、遂に地球への転移術式が完成した。
イルレオーネ国にあった召喚術式を元にしているけれど、地球の座標は俺しか持っていないし、能力による大幅な改変もしているので魔術というよりは俺専用の魔法だ。
メーシュとの約束もあるし、ユウに知らせるか。
爺やをメーシュの居城に遣いに出し、数十分後、
「スズ!! 地球へ行けるって本当か!?」
慌てたようにユウが爺やに連れられてやって来た。
「ああ。テストはまだだけど、術式は完成しているよ。発動すれば行けるはず」
そう言うと、ユウは「そうか、そうか」とつぶやきながら涙を流した。
「この世界に来て数百年。メーシュもいるしこの世界に不満もない。この世界を捨てて地球に戻る気もない。けど、一度、一度でいいから地球に帰りたかったんだ。二度と戻れないって思って諦めていた。でも、そうか。戻るんだ。頼むスズ!! 俺も地球に連れて行ってくれ!!」
ユウは涙を流しながら懇願する。
数百年か。
俺は転生という形でこの世界に来た。
この世界にはシアンをはじめとする愛する人にもいるし、大切な人もいる。
逆に、地球にはそんな人はほぼいない。
せいぜい、ゼンジロー達くらいだろう。
それ以外は墓の中だ。
だから、満足しているし地球に必死になって帰ろうとも思わなかった。
だけど、ユウは召喚されてこの世界に来た。
ユウは当時高校生だったらしい。
壊された日常。
奪われた故郷。
俺と違って家族もいたみたいだし。
だから、地球に帰りたかったのだろう。
たとえ諦めていたのだとしても。
あの時、座標を手に入れたかいがあったな。
「もちろんいいぞ。なんの為にユウに連絡したと思っているんだ。」
「スズ!! ありがとう!!」
「どういたしまして。それじゃ、行くか?」
「い、今からか?」
「何時でもいいけど。まあ、失敗しても魂の繋がりを辿って帰れるし、今からでもいいんじゃないか?」
俺は暇だし。
「そうだな。じゃあ、よろしく頼む」
ー▽ー
うるさい。
それが一番最初の感想だった。
響き渡る騒音。
それは人が出す声ではなく機械が出す音。
自動車だったり、電車だったり、ビルから流れる音楽だったり。
あと、空気が悪い。
よくこんな所に住んでいたなと思う。
「どうやらちゃんと辿りつけたみたいだな」
この世界への転移は確実に出来ると思っていた。
せいぜい転移先が人の住めないところだと。
宇宙とかマントル内部とか。
そのような事故もなく、無事に地球の表面、しかも日本の東京にやって来た。
まあ、あの召喚陣の座標を参考にしているから変なところには行かないか。
ここ、学校からも近いし。
「そうか。戻って来たのか」
ユウは感慨深そうに目を瞑っている。
「さてと、とりあえず挨拶の方に行こうか。やっぱりいるみたいだし」
「そうだね」
何時までもここにいても仕方がないので、目的地に向かって歩き出す。
駅前から住宅街へ。
さらにその奥へ。
そこにはなんの変哲もない一軒家が建っていた。
門を開けて、玄関へ。
そして、ノック。
「スズ、インターホンを押すんじゃないの?」
「あっ。……忘れてた」
こっちの世界にインターホンなんてないもん。
インターホンの存在とか忘れ去っていたよ。
「あー、まあいいじゃないか。このまま開けようか」
そう言って、ドアノブに手をかけて玄関のドアを開くとそこには。
スーツを着た女性が土下座していた。
ー▽ー
俺たちがいる世界は大神が創造した。
その過程で幾多の世界を創造した。
その一つがこの地球を内包する世界。
そして、それぞれの世界には管理者が存在する。
世界が滅ばない様に管理する管理者が。
管理者、或いは世界の核星の星霊。
神と言ってもいい。
イルミスがそうである様にこの世界にも星霊が存在する。
その星霊、地球の神が目の前で土下座している女性だ。
「ひぃぃぃ。ここには貴方達が望む様な物は何もありません。どうかそのままお帰りください」
大神から世界の管理を任された神様の様な存在が目の前で怯え、泣きながら土下座している。
「ユウ。あんまり怖がらせるなよ。可哀想だろ」
「えっ? 俺のせいじゃないないよね!?」
「まあ、冗談はおいておいて、貴女はこの世界の管理者であっているよね?」
「はいぃぃぃ。私がこの世界の管理者です!! どうか、どうかお許しを」
この人がこの世界の管理者であっているみたいだな。
それにしても、なんだこの怯えようは?
仮にも神だろうに。
第七章が終わるまで土日火水木曜日の週5で投稿しようかと思います。
事故らなければだけど




