90 勇者シエル
次回の話は一応できてはいるのですが、それを投稿するかしないかで物語の路線が変わってしまうのでどうしようかなって悩んでいたり、我慢できずに別作品を書いてしまっていたりするので投稿が遅れるかもしれません。申し訳ない。
「ぬぅ!!」
相手から放たれる斬撃を何とか盾で防ぐ。
とてつもなく重く、たたらを踏みそうになるが何とか耐える。
「なかなか、やるなっ!」
相手から賞賛の言葉を貰うが、それを嬉しく思う余裕はない。
相手の攻撃は激しく、油断すればすぐに負けてしまいそうだから。
盾で防御し、武器を振るうが相手にはかすりもしない。
疾すぎるのだ。
「うおおおお!!」
必死で武器を振るい何とか当てようとする。
そんな時、相手を見失った。
「ど、どこだ?」
「背中がガラ空きだぞ」
そう後ろから声が聞こえた瞬間、胸に衝撃が走る。
自分の胸を見ると、そこから人の腕が生えていた。
「ゴフッ」
強烈な痛みを感じながら力を失い倒れこむ。
そして、俺の意識は消え、
「寝るな」
消える間近で横腹を蹴られ、その衝撃で意識が回復した。
腕が生えて貫通したはずの胸には外傷は一切ない。
引いていってはいるが痛みだけは残っている。
「お前は盾役なんだから敵を見失ったらダメだぞ」
先ほど、俺の胸を貫いた者から注意を受ける。
スズだ。
俺は今、スズに頼んで訓練をつけてもらっているのだ。
サヤも同様に。
サヤは既に疲労困憊で端で倒れこんでいる。
俺たちが頼んだ事とはいえ、こいつ、本当に容赦がない。
「今は訓練だから、外傷を残さないで痛みだけ与えているけど、実践じゃお前、そのまま死んでいたぞ。防ぐか避けないと」
どうやってかわからないが、スズの攻撃には一切のダメージが残らない。
しかし、痛みはそのままだ。
外傷はないのに、全身は傷だらけのような感じがする。
はぁ。
キツイけど懐かしいな。
地球にいた時でもこいつと偶に護身術を習っていたけど、あの時も容赦なかったからな。
こうしてまたこいつに訓練をつけてもらえるとは。
ー▽ー
目の前で、ゼンジローが倒れこんでいる。
端ではサヤも倒れこんでいる。
こいつらに頼まれて訓練をつけた結果だ。
うん、十分に才能があるな。
技量はまだまだだけど戦闘センスはなかなかいい。
鍛えればかなり強くなるだろう。
もしかしたら……。
そうなってくれる事を願うか。
戦ってわかった事だが、やはりゼンジローは防御系のスキルを持っている。
訓練を積んで使いこなせるようになればかなりの防御力を誇るだろう。
俺の攻撃でさえある程度防げるかもしれない。
そもそも、最後の背後からの貫手。
あれは、ゼンジローなら防げたはずだ。
ゼンジローのスキル『守護者』なら。
スキルとは、魂の力だ。
その者が持つ魂の本質を具現化して発動しているのがスキル。
俺の『暴食神』は、食べる。
もっと言うと、美味しく(調理して)食べるスキルだ。
解析能力も食材の目利きの延長で、戦闘も調理の延長でしかない。
敵は食材、武器は調理道具。
敵に対して調理を施し、最後に食べると言うのが俺のスキル。
それが俺の本質なのだ。
つまり、魂を鍛えればスキルも鍛えられる。
その最果てにあるのがオーバースキルだ。
ゼンジローは己の魂の本質を理解していれば今の時点でもあの程度の攻撃はダメージにもならないだろうな。
そして、サヤだが、ハッキリ言って反則級のスキルを持っている。
『圧縮姫』。
その名の通りあらゆるモノを圧縮するスキルだ。
普通に攻撃として使って相手を圧縮させて、つまり、潰して攻撃することができる。
普通の人間程度なら一撃で殺せるだろう。
心臓を潰して殺す事もできるだろうから、普通の生命体にとってはかなり有利に働くだろう。
しかし、彼女は魔術師だ。
驚くべき事に、彼女は魔術師を圧縮する事ができる。
これは俺でも不可能な事だ。
例えば、単なるファイアーボールの魔術師。
俺は術式を頑丈に構築して、威力を上げる事が出来るが限度がある。
威力を上げようと思えば必然的に大きな魔術にしなければならない。
しかし、サヤはその大きな魔術を圧縮して小さくできる。
これはメ○ゾーマではない、メ○だ!! の逆、これはメ○ではない、メ○ゾーマだ!! ができる。
これはかなりすごい事なのだ。
何故なら、メ○の大きさでメ○ゾーマの威力を出せるのだから。
術式が小さければ構築も早くなるし、威力も分散しないため、強力な一撃を放つ事ができる。
物理的にも魔術的にもサヤのスキルはかなり強力な能力なのだ。
他にも、空間を圧縮して瞬間移動的な真似もできるし。
この二人は彼らの中で突出して強い。
話を聞く限り、朱理も強そうだ。
……ハルさん欲しがるだろうな。
きっと、二人はハルさんに目をつけられてシゴかれる。
がんばれ!!
「スズ様、ただいま戻りました」
この訓練場の入り口からセレスの声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん!!」
続いて小さな影が俺に抱きついてきた。
「ただいま!!」
「おかえりシエル」
勇者となったシエルが帰ってきた。
ー▽ー
シエルが帰ってきたので訓練を終える。
ちょうどいい時間だったので、みんなでお茶にする事にした。
ゼンジローとサヤも含めて。
「はじめまして! シエル・ロゼリアです!! よろしくお願いします!!」
「か、かわいい〜!!」
シエルの挨拶を受けてサヤがはしゃいでいる。
「私は沙耶って言うの。沙耶お姉ちゃんって呼んでね!!」
「うん!! サヤお姉ちゃん!!」
シエルにお姉ちゃんと呼ばれたサヤは悶絶している。
こいつこんな奴だったかな?
「お兄ちゃん、そちらのクマさんは?」
「く、クマ……」
まあ、こいつクマみたいな奴だもんな。
「俺の友人だ。ゼンジローっていう」
「よろしく」
「よろしくねゼンジローお兄ちゃん!!」
ふむ、シエルも元気そうだな。
それから、シエルから話を聞く。
イルミスやアルマに良くしてもらったらしい。
今度礼をいっておかないとな。
さて、勇者となったシエルだが……こいつ、俺の子供の時よりも強いんじゃね?
ちゃんと魔力を制御できているのでわかりにくいが、その内に秘めた魔力はさらに増大している。
下手な魔王よりも巨大なチカラを秘めているだろう。
勇者なだけはある。
この世界での勇者とは、簡単に言えばイルミスによって儀式を受けた者だ。
その儀式を受ける条件、つまり勇者になる条件というのは、その魂に精霊を宿すことだ。
勇者は精霊に愛され、精霊を魂に宿している者である。
しかし、その精霊は魂にて眠ってしまっている。
イルミスの儀式はその精霊を起こす為の儀式だ。
植物で例えるなら、精霊が眠っている状態が勇者の種。
先日までのシエルの状態だ。
そして、イルミスの儀式が水やりで、種が芽吹いたのが今のシエルの状態だ。
ここからが基本的に勇者と呼ばれる存在だ。
そこから、花をつけて実をむすぶかどうかはシエル次第だそうだ。
今はさしずめ、勇者の芽ってところだな。
それでも、やはり、劇的な変化があった。
今のシエルは『ハイエストハーフエルフ/吸血鬼』という種族になっている。
ハイハーフエルフから進化しているのだ。
もう、わけわからんね。
ハーフで、エルフの至高種で、吸血鬼の真祖で、神王の妹で、勇者。
しかも、可愛い。
属性過剰が止まらない。
しかし、それだけ特殊な存在であるのだ。
特殊な存在ほど人に狙われやすい。
俺が守るがシエルにもチカラをつけてもらった方がありがたい。
そして、シエルはきっと強くなるだろう。
この小さな勇者に精一杯の幸があらん事を。
この章はこれで終わりです。
章ボスは一応宮本っていう事で。
今までで最弱じゃね。




