10 進化する超人さんと新たな家族
オーガ達を殲滅して戦闘を終えた俺たちは村の広場に戻ってきた。
俺は他の村人達からの賞賛の嵐で身動きが取れない。
もっと褒めてもいいんだよ。
あ、でも左腕触んないで痛い痛い。
そう騒いでいると村長宅から、
「静かにおし!」
とばあちゃんの叱責が飛んできた。
そう言われた村人たちは少し静かになったがそれでもお祭り騒ぎである。
何しろこの村始まって以来最大の脅威を退けただけでなく、20年ほど生まれていなかった新たな同胞が誕生するのだ。
お祭り騒ぎにならないはずがなかった。
俺と父さんは急いで一旦自宅に帰り風呂に入ってからだを清潔にして村長宅に向かった。
出産している部屋に入れないため廊下で二人してうろうろしていたが途中で俺は体がムズムズし始めて、異様に眠くなり眠ってしまった。
知っている天井だ。どうやら俺の部屋らしい。
おはようございます。
どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ。
なんだか体から力が溢れ出るような感覚がある。
しかし、今はそんな事どうでも良い。
急いで俺はベッドから跳ね起きて居間に行った。
「赤ちゃんは!?」
居間には父さんと母さんがいた。
「スズ! 大丈夫か? …お前、その姿はどうしたのだ?」
父さんと母さんは俺を見て驚いている。
「俺は大丈夫だけど、その姿?」
その言葉に両親は揃って俺の頭に指をさす。
俺はその場所に手をやるとコツンと何かにぶつかった。
ん?なんだ?
鏡を取り出して顔を見てみると、そこには無かったはずの二本の美しい白い角が生えていた。
「え、なにこれ?本物?」
俺は慌てて自分自身を鑑定解析してみる。
どうやら俺は進化したようだ。
『人間』から『半人半鬼』へと。
父さんたち『鬼人』ともハーフとも違うまさしく半分人で半分鬼な種族だ。
またそれに伴ってキデンサーを喰った影響か新たに『悪食』のユニークスキルの習得した挙句、『捕食者』『悪食』『飽食』『美食家』が統合して、ユニークスキル『暴食』に進化したようだ。
何この超進化?
この『暴食』は4つのスキルを統合して質を大幅にアップして更に『昇華』という能力を使うことができるようになったみたい。
暴食とか厨二っぽいけどその名に恥じない破格の性能を誇っている。
他にも大罪系や美徳系のスキルとかありそうだな。
残った『調理師』も質が大幅にアップしたみたいだ。
また、進化の影響か折れていた左腕も治っている。
という事を両親に伝えると二人とも驚いたような呆れたような顔をした。
「そんな事よりも!赤ちゃんは?」
その言葉を聞いた両親は嬉しそうに、それ以上に悲しそうな顔をしていた。
どうやら俺はあの後2日ほど眠っていたらしい。
赤ちゃんは、居間の一角で眠っていた。
女の子だった。
とても可愛い。
母親ゆずりの銀髪と眠っているため見えないが父親譲りの赤い目をしているらしい。
そして、父さんと母さんが悲しそうな顔をしていた理由。
それはこの子の耳にある。
尖っているがエルフほど長くない耳。
この子はハーフエルフである。
異人種間で生まれる子供は普通どちらかの親の種族にある。
しかし、極々たまにハーフが生まれるらしい。
ハーフの家系は栄えると言う。
しかし実際にはそんなことまずありえない。
なぜならハーフは生まれてから2年と経たずに死んでしまうからだ。
その原因は高すぎる魔力による暴走。
それによって自分自身を殺してしまうのだ。 生まれてから2年以内にそれを制御するなど不可能だ。
生き残ったのは歴史上ただ一人。
ハルさんたちグローリアス家の先祖。
初代グローリアス王国国王ただ一人と言われている。
だからハーフの家系は栄えると言われていると同時にありえないと言われているのだ。
そもそも極小確率でしか生まれてこないハーフが生き残り家系を残すなんて不可能に近いのだから。
だから、両親は悲しんでいる。
やっと生んだ我が子が2年も経たずに死んでしまうのかと。
でも…
「大丈夫だよ」
「「え?」」
「大丈夫。この子は生き残れるよ。」
「ス、スズ。どうゆう事?」
「高すぎる魔力が自分を殺すならその魔力を暴走しない程度に取り除いてやればいいんだよ」
俺の『暴食』ならそれができるのだ。この子の魔力を喰ってしまえばいいのだから。
その事を両親に説明すると、母さんは泣き崩れた。
父さんは母さんをそっと抱きしめる。
「ああ、スズ。ありがとう。ありがとう」
母さんは泣いている。こっちまで泣きそうだ。
「でも、この子にはもう1つ問題があるみたい」
「「え?」」
両親は不安そうな顔でこちらをみた。
「直接命に別状はなにも無いよ。俺は父さんと母さんを信じているから言うよ。この子は吸血鬼だ。それも真祖。」
両親の顔が驚愕に染まった。
真祖の吸血鬼と言えば別大陸にいる魔王が有名だ。
もっとも魔王と言うのは魔族達の王という意味で普通に国を持っているし、魔王自体も複数いる。
この魔王は戦争でもない限り別段人に危害を加えていないらしい。
しかし、有名なだけあってかなりの実力を備えているらしい。
それに人や国によっては魔王は敵だというのもある。
そんな有名な魔王と同じ真祖として生まれてきたのだ。
様々な困難が待ち受けているかも知れない。
幸い両親とも魔族の友人がいるらしいのでそれに対する偏見はない。
「…そう。それだけなのよかった。」
母さんは再び涙を流す。慈愛に満ちた表情で。
父さんも安堵の表情を浮かべている。
どうやら、何も問題はないようだ。
はっきり言って『暴食』による魔力吸収だけだと生き残れる可能性は五分五分だった。
けどこの子は真祖の吸血鬼。高い魔力耐性を持っている。
その為『暴食』による魔力吸収をすれさえすれば暴走は起きないだろう。
あと、父さんの鬼人の血が変質して吸血鬼になったんじゃないか?
そのように俺は考察を両親に伝える。
妹は起きたようで泣き叫び始めた。
母さんはゆっくり慎重に妹を抱きかかえる。
「この子は、色んな奇跡の元に生まれてきたのね。生まれてきてくれてありがとう」
「ね、ね、それで、この子の名前は?」
「ああ、お前は知らないんだったな。この子の名前はシエル。シエル・ロゼリアだ。」
「そっか、シエルがいい名前だね。シエル、お兄ちゃんだぞ。よろしくな」
俺は母さんの腕の中にいるシエルの小さな小さな手をとって挨拶をした。
泣いているシエルは泣き止み再び眠りについた。
ー▽ー
「ばかな、キデンサーがやられただと? あれは力だけなら魔王にも匹敵しうるのだぞ!」
村の外よりある男がつぶやく。
この者は今回の事件の黒幕である。
この者がキデンサーに名前と力を与え村を襲撃し、魔王となるように命令したのだ。
そして、この村を守っている結果の一部を破壊した張本人である。
「キデンサーめ、こんな村を滅ぼすのに失敗するとは使えない奴め。せっかく目にかけてやったのに。また一から計画を練り直しだ」
そして男は闇夜に紛れていった。




