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神還師【かみかえし】シリーズ

神還師(かみかえし) 余章 「或男ノ書」(あるおとこのしょ)

作者: 秀中道夫

 私が書いている『神還師かみかえし』は私の知り合いである榊守さかきまもるという不思議な男の身の回りで起こった話というのは存じている通りであろう―実際には作者である私自身が榊から訊いたことを私が面白おかしく書いている訳だが―。


 榊守が『不思議な男』と言った理由は、彼自身『不思議な物』を見る能力を持っているという点だ。ただそれは世に言う『妖怪あやかし』ではない。彼は長く土地に居続ける土地神とちがみが見えてしまっているという。そして榊の能力に魅入られた人達―神楽かぐら親子や藤本由美ふじもとゆみ―は榊の能力をうらやみ、その力を土地神を守るために協力を求めている。

 そんな流れの話を現在私は書いているわけだが、この話はそんな神還師の話の中で『少し未来の話』をしようと思う。


 少し未来の話―現在細々と書いている小説『神還師』の舞台は現在ではなく約5年ほど前に東里とうり市で起こった話を書いている。もちろんこの話はひっそりと発生してるため表立って出た話ではない。そのあたりの時間関係は最初の方に書いてあるので少し気になった方は読み返してもらえるとうれしい。

 その未来だが、私が神還しの小説を書いている現在が2016年5月、先月、九州地方で地震が発生した。現在も続く余震・過去に例を見ない地震発生状況にはまだ先もわからない状況になっていると思う。その状況をニュースで見ながら、私はふと榊守のことを思い出していた。


その榊守はここ2年ほど行方が分からなくなっている…。


この小説を書き始めた頃は、榊も東里市に居たが、ある時榊からの電子メールに『チョット東里を離れ、過去を元に戻してきます。』と書いてあった。それ以降榊は姿を消した。海原テレビでも榊の存在はなく、後日知り合いとして海原テレビに訪ねた所、転勤した訳でもなく会社には来ていないという。そして榊の妻の理沙も姿を消した。


過去に戻るという表現には些か不明快なところもある。そのあたりの理由について、榊は何も言わなかった。そして同様に榊の知り合いでもある、玄条げんじょう寺の神楽寛三氏も知らなかった。


ただ、榊の同僚で後輩の海原テレビの記者、井川トオルはその行方不明について気になることを言っていた。


「榊先輩、行方不明になる前に一度失踪しかけたんです。」


訊けば榊は5年前の東日本大震災の時、報道取材で東北に言った榊は現地で行方不明になっていた。震災の不安定な情勢の中でトラブルに巻き込まれたというのである。


山陰の片田舎都市である東里市はあの地震で被害を蒙った訳ではない。あの地震は人の精神面で誰もが大きな影響を受けているという点だけが重要となっている。榊守は更に現地でその精神を抉る『何か』によって、行方を消したのではないかということを井川は語っていた。


そのまま2年以上が経過してしまった。特に榊からの連絡もないが、テレビの震災関係の報道や、今回の地震を見ていると、榊の見た『何か』とはなんだったのかが気になって仕方がない。


だからと言って榊もいないのでネタに困っているというわけでもないのでその点は安心してほしい。ただ行方がわからなくなる前に榊はこうも言っていた。


『天変地異というのは土地神にとっても好ましくない変化です。人と係り断りを交わした土地神は人と共存して生活している以上、人と土地どちらが欠けることは有ってはならないんだと…』


その言葉の意味が何というわけではないが、榊が言ったことで、神還師としてなのか、記者としてその言葉をつぶやいたのかは、本人がいない以上、地震のたびに思い出してやまない。


そんな言葉を残して消えた榊守を、残った者達は探している。


そんな少し未来の話…。

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