お題【泣き虫な君へ】
拝啓 泣き虫だった君へ
君が泣き虫じゃなくなったのは、一体いつからなんでしょうか。いつの間にか君は、私の前で泣かなくなりました。
いつもいつも、転んでは泣いて、喧嘩をしては泣いて、感動しては泣いていたのに、最近では声を掛けるだけで、私に怒鳴って来ます。
そして遂に、君は私の前から消えました。もうウンザリだと吐き捨てて。
それでも待つと決めた事を鮮明に記憶しています。それだけ私は、君を愛していたのでしょう。
君は知らなかったでしょうけど、今まで待っていたのです。君の大好きなオムライスを卓上に並べて。
ここまで言っておきながら、ごめんなさい。私は君が何て名前なのか、知らないのです。
でもこの日を前にして、頭に浮かぶのは君の事ばかりで、言いたい事があるのに君が誰なのか分からなくて、こうして手紙に残した次第です。
もし君が、私の愛した通りの人なら、きっとこの手紙を見つけて、読んでくれるでしょう。そうして、手紙をくしゃくしゃにして、大声を上げて泣いてくれるでしょう。
君が産まれた時と同じ様に、大声で泣いてくれるでしょう。
泣き虫な君へ。
呆け老人でごめんね。
何でも忘れちゃってごめんね。
夜中に歩き回ってしまってごめんね。
同じ事を繰り返してごめんね。
迷惑ばかりかけてごめんね。
オムライスを作れなくてごめんね。
名前が分からなくてごめんね。
私の子に産まれて来てくれて、ありがとう。
敬具