第一章 砂塵の都 序
小説らしき物を書くのは初めてなので至らぬ点が多々あると思いますが、どうか広い心で見てやって下さい。でも誤字・脱字の報告、よければ感想を頂けると嬉しいです。
元々、自分のプログで掲載してる物語です。ある程度、話数が溜まったら、こちらに投稿という形式をとっています。
空から容赦ない太陽の光が照りつける、広大な赤茶けた荒野を一人の男が歩いている。足取りは一歩一歩しっかりと地面を踏みしめ、纏う雰囲気は枯れた大地とは対照的に生気に満ち溢れていた。
年の頃は二十ぐらいであろうか。
細身で背は一般的な人間より少し高く、髪は無造作に伸びてはいるが長くならないように最低限切り揃えられている。
大人になったばかりの若者に見られる多少の青臭さが残ってはいるものの、体からはそれを推して余り有るほどの“闘う者”特有のオーラが滲み出ている。
彼の姿は口元に巻く白い布とマントの銀色の留め具以外は黒に統一されていた。
黒髪に黒い瞳、漆黒の軽鎧を身に着け、下に穿いているズボン、その足元を覆う足甲、ブーツに至るまで同様の色に染めあげられてある。
背中と体の前半分を隠すマントも夜の濃闇を抽出したかの様に黒い。
だが、そんな黒ずくめの姿より、異様な物は男が背負う大剣であった。
大剣は紋様が刻まれた黒い鞘に収められ、男の肩に届く程の刀身の長さを誇り、鞘から伸びる柄の部分も黒く、柄頭は球状になっている。
柄の長さも合わせると男の身長に匹敵する大きさで、果たして人間にこの剣が振るえるのかと疑問を抱くほど巨大であり、それが彼の持つオーラと相まってある種の畏怖を感じさせていた。
しかしながら、荒野に吹いている渇いた風が彼方に見える巨大な砂丘を要する砂漠から砂を運んでくる為か、黒く染まったマントはまるでスプレーは吹き付けたかのように所々が黄土色へと変わり、彼の姿をどこか滑稽なものに変えてしまっていた。
…不毛な地とも呼べるこの場所は世界‐ネファリウス‐の創世神話において、全能神ネファリウスが世界を創造した時に生まれたとされる六大聖霊神の内の一つ、土神ガネストが降りた地とされ、ガネストの信仰が盛んな国であり、名をガネスト神国と云う。
国土の南半分をトガレマ大砂漠と呼ばれる砂漠に覆われていて、この荒野はそこへの玄関口であり、人間の存在を許さない灼熱と枯渇の死の世界への最後の境界線なのである。
砂漠の向こうにはまだ誰も訪れた者の無い前人未踏の地が広がっており、其処を目指し砂漠を越えようと挑戦する者が後を経たないが、末路は決まっていて過酷な環境に耐え切れずに途中で引き返すか、そのまま永遠に帰って来ないかのどちらかである。
ガネスト神国は南半分を荒野と砂漠に占められてはいるが、決して貧しい国ではない。
西側には海が広がり、北部は緑豊かな土地であるし、また土神の加護か鉱脈が国中に点在し、銅、鉄、宝石などの鉱物やゲルン晶石というある事に使うための鉱石がよく採掘され、それらを他国へと輸出する事により莫大な利益をあげている。
しかし、十年程前から東に隣接するラースウェン帝国との間で緊張状態が続いており、近々、戦争が始まるのではと国民達は不安になっている。
国王のガザル・ディス・リウェイは戦争という最悪の状況を避け、交渉で何とかならないかと日々休む事無く政務を行い対策を練っていると聞く。
だが、荒野を歩く黒い青年は、そのような国の揉め事など自分には関係ないと言わんばかりに砂漠の方へと一心不乱に歩みを進めていく。
その瞳は遥か遠くにある砂漠を越えて、まるでその先にある未開の地を見据えているかの様であった。
―――突然、フっと何の前振りもなしに彼の足が止まる。
辺りには何も無く、周囲には赤っぽい色をした岩がゴロゴロと転がり、全く同じ風景が広がり、足を止める要素など何処にも存在しない。
――では何故足を止めたのか――
いつからか彼が纏っていたものが霧散していた。先程まで放っていた畏怖を感じさせる異様な気配がなりを潜め、酷く凡庸とありふれた、それこそ一般人を思わせるものへと変貌している。
そして、彼は今まで見据えていた砂漠から目を外し、頭を上げ、青く広がる空へと視線を向けた。
空は雲一つ無く晴れ渡っていて、大地を焦がす燃える太陽は中央から大分傾いており、後、三時間もすれば日が落ちる事を告げている。
日が落ち、太陽が沈めば危険な動物やモンスターと呼ばれる天地の理から逸脱した者たちの活動が活発になる。
このような近くに街が存在していない場所で、一夜を明かすのは自殺に等しい行為であるのだが、彼は空を見上げたまま全く動こうとしない。
――空は鏡だと言う者がいる。空は人の心を映す鏡で、見上げる者は己の心を見せられると――
それが真実ならば彼は何を見ているのだろうか?
在りし日の郷愁か、過ぎ去った日への後悔か、これから過ごす見果てぬ未来への希望か、それとも――
…と、何の予兆もなく不意に彼の手が動き出した。
右手を顔へと持ち上げ口元に巻かれた布へと伸ばし、酷くゆったりとした動作で手を掛け、砂避けの布を下げる。
相変わらず空を見上げたままの澄んだ目に光るものが現れ始め、一粒の雫が彼の頬をつたっていく。
彼の唇が動く。
何か大切なことを紡ぐような仕草で――
何かに祈るような様子で――
万感の想いを感じさせる彼の言葉が放たれた…。
「……………‥迷った。」
『シュウ……お主、ぶっちゃけ馬鹿じゃろ。』
鈴を転がすような可憐な声色が発したとは思えないほど、冷えきった辛辣な言葉が【相棒】から聞こえ、それと同時にどこまでも乾ききった風が、彼の背後から砂漠の方へと吹き抜け消えていった……
砂塵の都―― 序 ―― 完
これは、ネファリウスと呼ばれる世界に存在するとある冒険者の友情と愛と正義とギャグとその他諸々の冒険活劇である。