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‘ココロ‘をなくした少年  作者: 色敷 童
彼との出会い
3/5

出会い②

青年と出会った夜、私にはその青年への記憶はほとんど消えていた状態にあった。

このスラムで、知らない人間に声をかけるということは、全く珍しいことでもないからだ。

話しかけた連中を、わざわざ心に留めておいたりはしていなかった。

そして私は、寝床である小さなボロい小屋の汚らわしいベッド(私的には寝床として一番心地よいと思っている)へ潜り込んで寝ることにした。


私が床についている間、外の様子がなんだか変だったということに違和感を覚えた。

スラムで、夜に外がざわざわすることは珍しくもなかったのだが、今回はそのざわめきが何か違った気がした。人々の平凡な会話や平凡な喧嘩ではなく、本当の悲鳴が聞こえてくるほどのとんでもない争いだったのであろう。人が死ぬほどの・・・。

こんなことは今までなかった。スラムの連中は、馬鹿に騒いで騒ぎを広げることはあるが、皆殺し合いをするほど無謀でもないし、そういう勇気もないような連中だ。

私はゆっくりとベッドから立ち上がり、外の様子を伺った。どうやら、その喧嘩がおこなわれているのが、私の小屋の近くにある橋の先の、行き止まりの場所であったみたいだ。

少しの好奇心で行くことにした。そこには、数人が取り囲んで、その中心には男が2人、1人は腹を抱えてうずくまっており、もう1人は血塗れたナイフを持っていた。棒立ちで。


「お、おい。こいつ本当に刺しやがったぜ・・・」取り囲んでたうちの1人が言った。

「何かのパフォーマンスじゃなかったのか、マジの殺し合いだったとは」

「お、俺は知らねー。家に帰るぜ」

「お、おい待っとくれよアンタ」


数人各自が散ったその後、私は更に‘現場‘に近づいた。

刺された方は「クソォ・・・クソォ・・・」と嘆いている。刺されたのがよっぽど悔しかったようにも見えた。

刺した方は、ずっと下を向いており、表情が確認できなかった。茶色のローブを纏っている。

「僕は刺せと言われたから刺したんだ」

刺した男はそういっただけで、逃げる様子も全く見えなかった。

「そうか・・・」そう答えるしかなかった。

だが少し待てよ。私は刺した男の声を知っていた。

彼は紛れもなく、私が先ほど散歩をしていた時に、どこだかの建物に寄り添って座っていた青年だった。

私は衝動的に彼のローブを外した。彼は抵抗する素振りも見せずに、あらわになったその目で私を見ていた。

「お前・・・あの時・・・」

「先ほど出会いましたね。騒がしかったみたいです。」

「・・・俺の言った通りみたいだな。たかられたので殺されかけたから殺そうとしたってことか?」

「いや、これは僕が命令されて殺した結果です。さっきはずっと機会を狙っていました。標的をしっかりと探していたんです」

「何故そうも言うとおりにしたんだ?」

「?さぁ、断る理由もありませんし、何びとを殺めようが、僕には何の関係もありませんから」

「お前程の年齢なら、牢獄に入れられるかもしれない。そこでここより閉鎖的な生活を強いられるかもしれないんだぞ、それも気にせずにその命令に従ったのか?」

「僕にはそんなもの気にする必要もないんです。ほかの人と感覚が違うのです、僕は・・・」

確かにさっきから話しているが、この青年はまるで機械のような感じがするのだ。

自分は人とは感覚が違う____そう言った直後に彼の目が少しぶれたような気がした。

それでもその‘感情‘は、人間のそれとは少し離れたものであったのを少し覚えている。

彼は一体何者なのか。返り血を浴びたその青年は、静かに目を閉じてこうつぶやいた。


「僕には一切の感情がありません。何を思うにも不可能なのです・・・」


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