出会い①
~私はその時、彼と出会った~
今思えば私の人生というのは、なんと自堕落なものであったのだろう。
俺は最低だ・・・。そう思って毎日憂鬱な生活を過ごしてきたこともあった。
それは私自身の心が、感情に支配されすぎていたかもしれないからだ。
人は時に、感情に全てを左右されてしまい、まともに物事を選択出来なくなってしまうこともあるからだ。感情が占める割合が多く、正しい選択肢を選ぶこともできなくなってしまう____。
そんな私が出会ったのは、なんの変哲もないような感じの青年だった。
ある日、私がスラム街の外れ辺りを歩いていると、その青年は建物の壁にもたれかかってうずくまっていたのだ。ただただ、何も思わずに話しかけただけだった。
「そんなところで何してるんだ?」
「・・・・・・」
青年は何も答えずに、私の目を見つめていた。
「教えておいてやる。そんなとこでじっとしてたらいつ襲われてタカられるかどうかわかんねーぜ。特にアンタみたいないかにも弱そうな奴、絶好のカモなんだぜ?」
「・・・・・・」
やはり、何も答えない。私の目をただひたすら見ていただけだった。
どうも、深い意味はないのだが、少し気になった。青年の目には、一切のブレはない。まるで機械のように私の目を見ているのだ。
「アンタ、生まれはどこだよ」
「・・・・・・?」
言葉の意味がわからなかったのかどうかはわからなかったのだが、なぜか青年は首を傾げた。
「だから、出身地だよ。どこの国からきたのかって聞いてんだ」
青年の顔つきは、私が住むこの国のものとは思えなかった。
「ここは僕の国」
「そうか」
青年の答えは、必要最低限のことを話したような感じだ。
その全く抑揚のない声に、私はさらに疑問を抱く。
ここまで感情のない声を出すことが人間に可能なのか__と。
「なぁ」
「・・・?」
「・・・なんでそんなとこで座ってんだ?」
全く意味もない質問だ。なぜこんな質問をしてしまったのかはよくわからない。
「分からない」
「ああ・・・そうか」
「何故ここに座ることになったのかよくわからない」
「・・・」
「・・・」
意味もない対話の後に、気まずい沈黙が流れた。私はこれ以上彼と関わるのはよそうとした。
「でもこれだけは覚えてる」
彼はそう言った。口先以外は完全に停止しており、ずっとこちらを見ている状態だった。
「僕自身感情がない、ということだけ」
またもや抑揚もない声で答えた。そしてまるで機械がその機能を停止したかのように、彼は下を向いて目を瞑ってしまった。その後私は、彼の前を立ち去った。少し気味が悪かったことは、脳裏にきちんと焼きついていた。
スラム街を歩き回っていたのが深夜の2時頃だったので、今現在時間は2時30分を回っていた。ここでは時間の感覚がほぼない。
スラム街に私が落ちたのは、1年ほど前だ。そこから、特別な用事が無ければ、ずっとここで暮らしていることになる。ここは私にとって快適な空間であった。
悪臭こそはするものの、それこそ心地よいという始末。
ああ、俺も堕ちてしまったなぁ・・・。
しかし、あの青年と出会ったことで、私の人生は変わることができるのだろうか。